表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/21

0話「マネキンと心中」

 魔法。

 それは魔素と元素魔法(エレメンタルズ)で構成された、この世界で最も美しいものだ。

 そんな魔法を創り出すことは、どのような職業よりも重宝され、待遇していくべきである。

 されど、魔術の生成は困難であり、素人にできる所業ではない。

 異世界人がそれを達成するなんて、以ての外であった。


~~~


 俺は二十一歳の男のコ

 この歳の連中は大学だの就職だのゴチャゴチャ騒いでるんだろうが、俺は違う。


 高校の頃、好きだった先輩に告白した。

 恋愛なんてしたこともない俺の告白は、さぞ滑稽だっただろう。

 その先輩には頬を張られ、撮影された同級生たちに拡散され、他の先輩たちにバカにされ続けた。

 その瞬間、同級生への信頼と学校でのヒエラルキーは底辺へと落ちた。

 その後、俺の心は荒んで引きこもりになった。


 別に校門に磔にされたわけじゃない。

 ネットで写真を拡散されたわけでもない。

 もっとも殴られたり蹴られたりもされていない。

 なのに俺は引きこもった。

 俺の中の変なプライドが学校に行きたがらなかった。

 本当に馬鹿な話だな。


 そんな経緯を経て現在俺はニート。

 

 仕事をしようと考えたこともある。

 面接に行ったこともある。

 けれど一度不合格になると俺の全てを否定された気がして長続きしなかった。

︎︎小学生の頃はニート達をバカにしていたが、今となっては無職肯定派だ。

 

︎︎ここ2年はコンビニ飯とゲームを繰り返す生活を繰り返している。

︎︎おかげで体重は百超え。

︎︎部屋はゴミで溢れかえり、ろくに洗わない服からは汗の匂いが染み付いている。

︎︎なのでよくコンビニの店員さんに嫌な顔をされる。


︎︎そんなある日、俺の隣の部屋のドアが空いていた。

 悪気はなく覗いた。まあ通りすがりにな。

 特に理由はない。前に見た隣人が可愛かったからとか邪な理由なんてない。

︎︎決して無……


「え?」


 そこに、下着一枚の女が立っていた。

 いや、問題はそこじゃない。

 彼女が立っていたのは、ベランダの柵の上だった。

 体を少し前に倒せば下に真っ逆さまだ。


「え?」


 二度目の疑問符が上がったときには遅かった。

 彼女は頭を重心に落ちていったのだ。

 ここは七階。咄嗟に体が動いた。

 大声を上げながらがむしゃらに走った。

 間に合わないとわかっていても、体は動いた。

 ベランダに着いて下を覗いたら五階あたりに彼女がいた。


「おぉぉ!!」


 手なんか届かない。俺も飛び降りた。

 運動なんかせずに引きこもっていたおれの体重のお陰で手が届いた。

 けどこのままじゃ二人共助かるわけがない。

 自分が地面に当たるように抱きついた。

 吸い込まれるように下へと落ちていく。もう遅い。

 最期に女の子を抱けたんだ、これだけでいい人生だったと言えるだろう。


 地面にぶつかる直前、頭の中に情報が走馬灯のように流れてきた。

 いや、これガチで走馬灯だ。

 小さい頃、虫を女の子にプレゼントしたら怒られた記憶。

 鬼ごっこで女の子を捕まえたら怒られた記憶。

 視界に入って鬱陶しいと怒られた記憶。

 ん? 良い記憶なくね?

 女の子に怒られているだけだ。


 また頭に記憶が流れた。


 街が燃えるのを眺める記憶。

 血をダラダラ流した女性を見下す記憶。

 死体の山を見ている記憶。


 物騒な記憶だ。俺の人生はこんなに波乱万丈なものではなかった。

 もっとクソみたいな……とにかくこれは他の人の記憶。どういうことだ。


「ごゔぉへぇっ!」


 背中に激痛が走る。

 痛い痛い痛い。熱い熱い熱い。苦しい苦しい苦しい。

 なんでまだ意識があるんだ! 殺すならさっさと殺してくれ!

 なんで神はこんな時まで俺の味方をしてくれないんだ……。

 

 最後の力を振り絞って抱いている女の子の生存確認をする。

 これで死んでたら元も子もな……。


 見ると、顔はなく、温かみもない。動くことも、ない。

 彼女、いや、こいつはは死んだわけではない。

 痛みで体の力が抜けていく。それでも、口だけは動いた。


「マネキンじゃないかぁぁ!?」


 俺はそのまま意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ