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副官はちょっと変な子

ザワザワ ザワワ ザワザワ ザザワ


一歩また一歩と足を踏み入れるたびにざわめきは増していった。母さん、俺は今魔王軍の本陣にいます。そりゃあ一応将軍だから魔王様に報告しないといけないことなんて山ほどあるわけですよ。あーあ、ベットでもっとゴロゴロしてー。


「将軍、煩わしければ散るように言いましょうか?」


「ん?ああ、いやいや、大丈夫だ。お邪魔しているのは私たちの方だからな、別に何とも思わんよ。」


俺の右斜め後ろを等間隔でついてきているのは副官のイール君だ。種族はグールで、その中でも最上位のグールキング。見た目は中性的なので性別がどちらかは分からない。いや、グールに性別はあるのか?まあ多様性の時代だしなんでもいいか。


「了解いたしました。」


イール君がまた等間隔の位置に戻っていった。常々疑問なのだが、イール君はなぜ私の副官を続けているのだろうか。正直言って第三軍を運営、指揮しているのはイール君だ。さらにイール君は戦闘能力も第三軍ではずば抜けて高い。さらに正直言って地味な役回りが多い第三軍にとって、軍の指揮力も戦闘能力も高いイール君は宝の持ち腐れだ。うーむ、魔王ちゃんに第一軍配属にしてくれとお願いすべきかなあ。でもイール君いなくなったらウチ絶対うまく回らないよなあ。

イール君の方をチラリと見れば、涼しい顔をして周囲を警戒していた。美形は何をしていても様になる。


「将軍、私はこの生涯の全てを貴方様に捧げます。」


「お、おう。これからも頼りにしてるぞ、イール。」


え、こわ。イール君が心を読めるのは大分話が変わってくるんだけど。俺がハリボテ将軍なこともバレてるの?じゃあなんで『一生一緒にいてくれや。』みたいなこと言ってるの?わかんない、おじさん若い子ワカンナイヨ!


「おいおい!ようやくご到着かよ!いいご身分だなあ補給隊、あ間違えた。『第三軍』の将軍様はよお!!」


イール君のことで悶々と悩んでいると、赤いでかぶつが絡んできた。肩に担ぐ鉄こん棒からは血が滴り落ちており、腰には敵の魔物の首を何個も吊り下げていた。彼の名前はゴルガギン。種族はオーガで、若くして既に上位オーガまで進化を遂げている。実力は大隊長クラスだが、この様に中身の問題で第二軍の小隊長をやっている。例え穀潰しとまで言われている第三軍の将軍であっても、小隊長とは天地がひっくり返っても埋まらない身分の差がある。『無礼者!』と言って叩き斬ることもできるが、まあ俺はガキではないのでここは大人の対応で...


「この無礼者、小隊長風情が誰に向かって口を聞いている。」


イール君はいつの間にか距離を詰め、レイピアを抜きゴルギガンの喉元に突きつけていた。声こそ張り上げてはいないものの、相手を脅すには十分だ。でも、ちょっとキレすぎかなイール君。周囲の気温が体感で何度も下がっている。イール君の能力が解放されれば、確実にギルガゴン君は氷漬けになってしまう。そんなことはないと信じたいが...うん、イール君の目は大分キマってるね。戦争をしている最中に仲間内で揉めたくないしなあ。俺は心の中で深くため息をついた。


「まあ落ち着きなさい、イール。」


俺はイール君の両肩を優しくつかみ、ゴルギガンから距離をとらせる。温度が少し戻った気がする。


「しかし、将軍...」


「ここは私に任せなさい。」


イール君が不満そうな顔をしているが、任せるといつ凍らせてしまうか分からない。基本的には何があっても冷静なのだが、どこかのタイミングでいきなり不安定になるんだよなあ、この子。俺はずいっとゴルギガンの前に立ち、堂々と仁王立ちする。


「てめえ、やんのか?」


こっからどうしよう、何にも考えてなかった。殴るのはだめだし、というか多分負けるし。怒鳴るのもなんか違うし。


「なに、黙ってんだよ!なんか言えよ!」


マジで何も思いつかない。うわー、どうしようどうしよう。まずい、結構まずい。端から見たらただ突っ立てるヤバいやつじゃん。これ以上第三軍の評判を落とすわけにはいかないのに。


「ッッ!...覚えてろよ、てめえ!」


ええ、なんか冷汗ながしてどっか行ったんだけど。どういうこと?なんかおなかの調子悪かったのかな。いやちょと、やめてイール君。そんな憧れの目で俺を見ないで。そんなに視線で俺を刺さないでー!



「クラヤミ将軍、お疲れ様です!」


「ああ、お疲れ。魔王様にご報告したいことがあるんだが入ってもいいか?」


「は!確認してまいりますので、少々お待ちください。」


なんやかんやのいざこざはありつつ、なんとか魔王ちゃんのテントに到着した。総大将の魔王を守る兵士は軍には所属していない、魔王直属の近衛兵だ。各種族のエリートたちが近衛兵として登用される。テントの入り口を守っているこの二人も、リザードマンの若手ホープなのだろう。汚れ一つない艶やかで重厚な漆黒の鎧は、ワンチャン俺の鎧よりいいやつだ。


「お許しが出ました、どうぞお入りください。」


あまり待つことなく魔王ちゃんへの謁見が許された。俺はイール君にこの場で待つように指示を出し、剣を近衛兵に預けてテントの中へと入った。

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