思い出アップデート
とある一国の王女が、大雨と魔獣共に人々を恐怖に陥れる悪魔を打ち倒す話。
『雄大な自然が多くきれいな川、大きな山に囲まれた1つの国がありました。
国民は皆で支え合い、国をおさめる王さまは国民のことを考えており、強くとてもたよれる人で平和な国です。王さまの子ども 王女は剣の達人ほどのうで前で王さまのように強くやさしくたよれる人になりたいと夢にみる笑顔のよくにあい、うでについているブレスレットがトレードマークのかわいらしい女の子です。
ですが、そんな豊かな国にも1つのふしぎな出来事がありました。それは、大雨とともにまじゅうを操るあくまがいると……。
その国では、昔からその話が受けつがれており作り話だと思う人もたくさんいました。ですが、先々代の王の時に一度現れており、国民は信じていませんが、雨が降るたびに王さまと兵士はきんちょうが走っていました。
そんなある日…すみわたっていた空が急にたくさんの雲と大雨によりかくれてしまいました。そして、ついにあくまがあらわれました。それも町の中に現れどこからともなくまじゅうも来て、「きゃー!!」国民も驚き大混乱となりました。
「みんな!いくぞ!」「おおー!」皆を救うため兵士と王女は立ち向かいましたが数が多く、苦戦していました。そこで、姫は「あくまをたおせば終わるのでは。」と考えましたが、あくまはもうの場所にはいませんでした。
王女は国中を走り回りあくまを探しました。
最後にたどりついたのは、王女がたいそう気に入っていたとされる国をすべてみわたすことができる、丘と1本の大きな木がある場所です。そこには、木にむかって叫んでいるあくまがいました。「絶対に倒す!!」と王女は気合いをこめて、剣でひとつきで刺してあくまを倒すことができました。
それによりまじゅうと空をおおっていた雲と大雨がいなくなりました。それにより国に平和が訪れ、王女は国全体から祝福され生きる伝説として受けつがれました。』
「…とさ。」 パタンと椅子に座り足を組んでいた語り部が絵本を読み終え、読み聞かせていた相手の方に目をやると
「かっけー!」「すげーー!」単調な言葉が行き交っていた。それもそう。静聴していたのは、この澄みわたった青空のような一点の曇りもない満面の笑みと手で目を隠したくなるほどの眩い目をした子どもであった。
「やっぱ王女半端ねーよ!剣でひと突きで倒すとかすごいよ!憧れるなー!」「かっこよすぎるよ!」「おれも剣めっちゃ上手くなりたい!」「おれも!」
ははっ。 各々思った感想を言い合いをただ見つめて語り部は笑っていました。
「みんなも飽きないね何回読んでるとおもってるのさ。」
そう。この物語は昔からある物語であり、おとぎ話に分類されるものだ。
だが、この絵本の物語はこの地で実際に起こった出来事である。半ば創作物と間違われるほどの数百年も前の話であり作者も正確な時間軸かもわからないが、古くから伝わるお話である。
話の中にあった戦いの傷跡はもうなく町全体が綺麗に舗装されているが、丘の木はまだあり王女が身に付けていたとされるブレスレットも色は剥げ何色だったかもわからないが現存し博物館に展示されている。
王女の名前はリーン。享年は50歳ほどとされている。同盟国を守るための戦争に参加していて、そこの民を守るため自身を顧みず庇い亡くなった。と歴史本に記載されている。
国を救った英雄的存在で神と崇めるものまでいるほどの人物でその生涯を綴った本や使っていた物品もいまだに保存されている。国を救った英雄だ、当然の対応である。
その出来事を聞きつけた隣国や遥か遠くから来た王子などから求婚を迫られたそうだが、生涯独身を貫いたそうであった。理由はわからないままである。
「じゃあ、今日はここまで。皆遊んできなー」
「「はーーい」」子ども達が走って遊びに行くのを見守って、片付け始めた。空を見上げた眩しくて仕方ないが、とても綺麗な空だ。脇に挟んだ絵本に目線を落とし、「…こんなような空だったのかな、会いたかったな」
現代から数百年前のゼン王国 この国は山々に囲まれ川も流れ、緑が生い茂る絵に描いたような国であった。隣国とは多くの山により交流が少なく、物資を届けてくれる商人が来る程度であった。だが、自給自足するにはあまりにも適したこの地は、世界の流行が遅れてやってくるくらいで不自由なく暮らすことができました。
ゼン王国の現国王 ジーク
王妃 マリー
王女 リーン
王女のお付き アリエス
「ここ数年の作物は豊富だな」「そうね、皆が頑張っているもの誇らしいわ」 「ホントだよね!おいしー」
「お嬢、テーブルマナーがなってないっすよ」朝食を食べているリーンの後ろで、暇そうに立っていたアリエスが言葉を放った。「うるさいよバーカ!てか、お嬢って王女に使う言葉じゃないし躾がなってないよ!」
「躾のはお嬢の仕事でしょう、なら試合で勝ち越したら敬いますよ。王女様」
「うぅー」犬のように喉を鳴らすリーンに「はっはっはっ、いつも仲良くて微笑ましいよ」
「仲良くない!」2人は年齢も同じでリーンが幼少期にいつの間にか連れてきて、剣が上手かったから?かで普通に城で試合していた。家がないらしく、まぁ、いいか。とお付きという役職を与え遊んでもらっている。
「ご飯食べ終わったら、勝負だ!表にでろ!」カッカッ一国の王女とは思えない食べっぷりを見せていた。
「そうだ、ここのところの天気はどうだ。」
「そうですね、小雨はまちまちと大雨は一ヶ月に一回程度ですね。特に異常は…」「よし!食べ終わった!行くよ!」アリエスの腕を掴み外に連れ出された。
この国の近くの森に昔から悪魔が現れる。民はそれは凶暴な野生動物だと信じている。そう信じさせたと言った方が正確か、なぜなら民に伝えたこととは、逆の報告であったからだ。変に伝えても民は混乱してしまう危険性があるため、情報統制を何年もかけ民に信じてもらった。なにも危険はなかったようにすることが望ましいと何世代前の王が決め、今に至る。
人の死亡が度々報告があり、討伐を試みようと索敵をしているが余りに情報が少ない。分かっていることは、
①天候を変え土砂降りをもたらす
②使役している魔獣を呼び出す
だけである。容姿もどの条件で出現するかも不明であるため、予測が難しく未然に防ぐことは無謀である。なので、森の侵入は基本禁止にしており安全を確保している。
その森にただ1人住んでいる青年レオがいた。外見は20歳前後で髪型はハーフアップの若者の風貌であり、小屋で皿や雑貨を作り月に一度森から近くの国の◯◯王国の商店街へ売りに出ている。国に行っても最低限の会話だけで人目を避け暮らし、たまに森を出て近くに大きな木がありそこで心を休めている。…それには理由がある
それは自分が無意識に"何もの"かになっていることだ。胸が苦しくなりそのあとは記憶がなくなり目が覚める。具体的に何をしていたか分からないが、手になにか殺めたであろう感触と胸の高鳴りがあるだけである。だが、オレはこの高鳴りを否定してきた。目を開けたら、野生動物や旅人であったであろう、さっきまで生きていたものが自分の周りに転がっているのだ。オレは忌々しく思う。この感覚が病み付きになっていればどれだけ楽だったか、いつも嘆いてしまう…。
「…おれは普通に生きていたい」
普通に仕事して
普通に人と関わり
普通に暮らしたかったが、無意識にくるもので100越えたくらいで自分の年齢を数えるのを止めたが、まだ"普通"を諦めていない。
たまに、誰か殺してくれないかな…と考えるときがあるが、「生きていたい」と心の奥底で誰かが言っている。
面倒くさい性格だ……
「またおれの勝ちっすね」アリエスが涼しい顔して地面に横たわっているリーンを見つめ言った。 「あーー!また負け越した!」バタバタ手足を動かして身体全体で悔しさを表現している。「ストレス解消してこよ。」ムクッと起き上がりその場から居なくなった。私のストレス解消は変装をして街へお出掛けをすることである。もちろんアリエスは来ない。え、ホントにお付き?まあ、一人の方が楽しいけど。
家族との時間や稽古の時間は楽しい、だけど、パパの次を任されるのは多分私だ。だからお手伝いさん達や国民のみんなは私に過剰に期待する。パパが偉大すぎる故に勝手に私も有能だと勘違いする。"皆が期待する自分"になれるよう頑張って笑顔でいたり努力しているが、身体は平気だけど精神がもたない。たまに本当の自分がわからなくなる。誰にも言えない。弱気な私には誰も期待なんてしない。。。どこか行ってしまおうか。。なんてね!
だから、国王の娘=リーンではなく、一人の人間=リーンでいられるこの時間がこの上なく楽しい!!商店街で食べ歩きし丘にある木の下で横になるのがマイルーティーン!
今日もそのルーティーンを行い横になっていると、ふと森の方に視線をむける。
「森に行っちゃダメなんだよね。ダメって言われると行きたくなるよね、これが反抗期なのかな?」ダメなことをしている時のこの胸の高鳴りって何だろう名前あるのかな?
身体に付いた葉を手で払い落とし、近くに誰もいないことを確認して森に足を踏み入れる。
「木漏れ日とほどよく突き抜ける風!気持ちいいわー」ある程度奥に進み、ガサガサッ ビクッ!振り返ると小動物がたくさんでてきて"何か"から逃げているように見えた。ビビってはいないが、「暗くなってきちゃうからそろそろ帰ろうかな」一息つき後ろを振り返ると目の前が真っ暗になり、意識がなくなった。
頭痛とどこからか香ばしい食べ物の匂いで目を開けた。寝てたのかな?起きようとすると頭が痛い 何かに頭を打ち付けていたようだ。「痛っ!!」
「…大丈夫?」顔を上げるとそこは小屋?のような狭い物置部屋でお皿や小物が並んでおり、そこに顔の良い男の人が座っていた。ボソッ「あ、良い男」
「え、なに?」「ううん、何でもないよ!」「なんか、近くで倒れてたから、放っておけなくて」
「助けてくれたの!?ありがとうございます」ニカッと笑い「お優しいんですね!」「そ、そんなことはないよ」
僅かに頬を赤らめ彼女から目線を逃がした。それを見逃さず問い詰めようとしたら、ぐ~。お腹がよく響く
あ、森けっこう歩いたもんな!こころの中で納得した。
「あ、いる?」「いただきます!」容赦なく食べていく。
「こ、こんなところに人がいるなんて珍しいね、旅人?それにしては軽装だったけど」
「ここはどこなの?」「森だよ」
「え!?森って基本的には出入り禁止でダメなんじゃなかったの?」「き、君もでしょ」「あー、若気の至り?で」あはは、お互いこの手の話題を追求されると面倒であることはわかっているため、から笑いをして食事を無言で食べ始めた。
「美味しかったです!!いつかお礼をさせてください!」、「大丈夫だよ、人とのまともに話したのけっこう久しぶりだったし楽しかったよ、良かったら名前を教えてくれないか。」ドクン、リーンの胸がなにかに刺されるような感覚になった。
「…内緒」なにか気まずそうな空気を感じ取ったレオは「わかったよ、じゃあオレも名前は言わないよ」
私の名前を言ったら、今までと同じように話してくれないし、なにかを感じ取ってくれた目の前の顔の良い男の人になぜか嬉しくなって「秘密主義な私たちだね!これからはお互いのとこを"君"って呼び合おうよ!」
「い、良いよ」微かに口角が上がってしまった
「へー、たまにゼンに来るんだね!私もそこにいるからいつか会えるといいね!じゃあそのときにお礼するね!ありがとう~きみ~」森の入り口まで、レオは陽気に話しかけてくる"君"にぎこちない話しをしながら案内した。リーンは"きみ"にバイバーイと手を振り帰っていった。
小屋に戻るために森を少し歩くレオがガッ!木に腕を叩きつけ、「おれが襲ったのか…」「でも、生きていてよかった…」その時、胸をなにかが締め付けた。またか!となり、後ろを振り返り彼女が視界から居なくなったことに安堵した。だが、なにも起こらなかった。「?」こんなこともあるのか。この初めて抱く感情にいささか不安を感じつつ、誰か教えてくれるはずもなく、こころに収め小屋に歩き始めた。
それから、しばらく経ちお互い出会うことはなく日々が過ぎていく。季節が変わり照りかえった日差しもだんだん弱まり肌に優しくなってきたころだ。
お互い"君・きみ"が頭にあるが、二人は各々の生活を営んでいた。そんなある日、「「あ」」声が重なった。出会ったのだ"君"に。
「ひ、久しぶり」「あ~久しぶり~」どことなく彼女の声が小さいが顔は本当に嬉しそうであった
商店街でお得意様の店に売りに森から降りてきて、帰ろうとしたところに出会したのだ。ドクン
胸が鳴った だが、あまり気にならないほどに目の前の嬉しいそうな"君"を観てしまった
「立って話すのはあれだし行きつけの場所があるからそこに行かない?」リーンからの提案にOKと即答した。道中色々食べ物を買ってもらい、向かった先はオレの行きつけ?でもある木の下だ。「君も好きなんだここ、オレも落ち着きたいときは此処にくるよ」、「私も!気が合うのかもね!」木の下座り食事パーティーをした。
会わなかった期間の話をした。オレはこういう物を作ったりしてるんだと彼女の顔をみることがなぜかできず、手元を見ながら作品をみせた。彼女は興味ありげに聴いてくれた。
彼女の近況は、なぜか顔を別の方向に向けながら手のジェスチャーを交えつつ話していた。話している内容がバラバラでよく分からなかったが、なんとなく武術のようなものを習っていることは理解できた。オレはこの時間がこの上なく楽しいと時間が経ち、お別れをした後に感じた。それに、これからも会おうという話になり、この木の下で待ち合わせになった
それからは、惰性気味であったこの仕事も身には入るようになった。前まで毎日感じていた罪悪感や八つ当たりしたくなるこの感情も気づけば減り、"何もの"かになることもいつしかなくなり一ヶ月に一回の"君"に会うことに夢中になっていた。
「リーン」呼び止める野太い父の声に足を止め、「なに?パパ」いつものように優しい声で
「ここのところ気分が良さそうだな。今までも楽しそうにしていたが、なにか生き急いでいる感じがして少し心配していたが、今は肩の力が抜けてリラックス出来ているようだな、何かあったか?」
「うふふ、わかる?ナイショだけどね!そろそろアリエスに勝ち越せそうだし!」
そそくさとどこかに走っていった。「あの子になにか心境の変化があったのかしらね」マリーは嬉しそうに話していた。
「目的ができればどこまでも前向きに生きていけるからな」
「え、しばらく会えない?」「うん…」リーンが少し悲しそうにレオに話した。国の祭典がありその準備諸々でしばらく自由がなくなってしまうのだ。幸いに"きみ"は祭典には興味がなく行かないことは事前に聞いており安心している。
「でも、まだ会えるから安心して!」
「無理しなくてもいいよ、会うのが嫌ならオレは会わないようにするし」と話すレオの言葉を制し、「嫌だったら一緒にいないよ?一緒にいて楽しいし…」彼女が少し悲しそうな表情になっていた、オレはいわゆる地雷を踏んでしまったようだ。「ごめん、オレも楽しいよ …ごめん」手のひらに温もりを感じ、目をむけると彼女の手を無意識に握っていた。反射で手を離してしまった。チラッと握ってしまった本人の方をみると、
「ありがとう」彼女は頬を赤らめ目がなくなるほど笑ってくれた。ホッとした しばらく無言があり、
「そうだ」レオはカバンをゴソゴソとあさり「君に似合うとおもってさ、」手の上には紫の花模様に、緑の差し色がよく似合うブレスレットがあった。
「くれるの?」「うん」仲直り?ってことで
「何の花なの?」「分からない、似合うかなーで選んだし」「ありがとう~!!キザな男になったね!大事にする!」キラキラとした目でいろんな角度からブレスレットを見つめた。左手首にはめ「どう?似合う?だよね~わかる私もそう思うよ~」なにか一人で早口で話し始めた。ドクンッドクンッ!その嬉しそうにしてくれて、オレも一緒に嬉しくなっていることを、この胸の高鳴りが証明している。
「しばらく会えないけど、これで頑張ることができるよ!次会うときに私もプレゼント渡すね!」
プレゼント?そうか、何か渡すことをプレゼントって言うのか。オレは一つ学習できた。そう思いしばらく会えなくなる"君"に手を振り街に帰るまで見送った。
この楽しい状況で会うのが、これで最後になるとは思いもしなかった。自分は"何もの"かにもう二度とならないと、油断していた。浮かれていたんだ今の自分の環境に。だが、そんなことが今までの自分の過ちを犯してきた、許されるはずもなかった。それを感じたのは、そこから三ヶ月が経ったときだ。
"何もの"かになってしまうことへの警戒心が薄れてきて街へ作品を売りに行く以外にも、出掛ける頻度が少し増えた。君にまた会えないかなと期待してるんだと思う。多分。だが、会えない日々が続いた
そんな浮かれたオレに神は許さなかったのだろう。
今日はとても快晴だ!気持ち良いほどに。今日も街へ出掛ける、なにか大きな祭りのようなものがあるらしい。"君"に会えるかもしれないと頬が緩んだ。 だが、
急に胸が苦しくなったのだ。「くぅ」この苦しみは最近のものとは違い、今まで感じてきていた、忘れていたものがこみ上げてくる…
誰もいない路地裏があるところまで、人の波をかき分ていった。いつもより苦しい、前はすぐに意識がなくなっていたが抵抗が出来るようになってきた。だが、今まで"手にかけてきたもの達"が映像のように脳裏に映る。手を地面を叩きつけ「うわぁーー!!!」レオが叫び近くにいた民が気になり見に行こうとすると、ポツン、ポツン、ポツン大粒の雨と分厚い暗雲が立ち込める。
大粒の雨と黒い雲により周りがみにくくなっていた。雨避けになるところを探しザワザワし始めた頃、遠くから何かの遠吠えが聞こえ始めたのだ。耳を澄ますとその声は一つではない。数えきれないほどの怒号のように地面が揺れていた。
「まさか!」ジーク国王が冷や汗をかき護衛に指示を出す間もなく悲劇は起こった。「きゃー!」「なんだこの化け物!」路地裏から真っ黒な悪魔のようなものが出てきて、視界に収めた瞬間背筋が凍り数秒固まってしまったのだ。その間に近くにいた国民が犠牲になった。この国は大パニックだ その場から離れようとしても、どこからともなく理性のなくなった魔獣のようなものが、為す術のない国民の退路を絶ったのだ。数分前まで笑って生きていた国民が屍になっていく様をただみているしかなかった。
「パパ!!」そんな時、後ろから肩をつかみこの硬直を解放してくれたリーンがいた。「皆を助けないと!」「ああ、しまった国王の私としたことがすまない…」
「兵の皆!聞け!これより指示を出す!歩兵は国民の退路の確保、黒い化け物の相手より優先しろ!避難経路は訓練しているはずだ!獣は各々で対処だ!いいな!!」
「はっ!」「わかった!」リーンも返事をしたがジークに腕を掴まれ「リーンも避難だ!」「嫌だ!この時のために訓練してきたの!私だけ逃げたくない!」その真剣な眼差しとここで時間を使ってはいけないと瞬時に判断し、「わかった、無理をするなよ危険だと判断したら、引きずってでも避難させる。」
「よし!アリエス!いくよ!」「了解です、お嬢」
国民の避難自体は日々訓練をしているため、避難誘導は滞りなく進んだ。獣も何人かで相手取れるほどであったが、魔獣のあまりにも数が多くキリがない。なにか、打開策はないのか、ジークは昔の伝承を思い出していた。はっ!思い出したあの黒い悪魔に一太刀入れたことで弱体化し撤退したと。…今はこれしかない
なにも根拠はないがこの戦況を変えるためだ!と近くにいた兵に、黒い悪魔倒すよう伝えた。
リーンも近くで聞いていたのだが、どこを見回してもその黒い悪魔がいなくなっていたのだ。
どこに行った?消えた?いや、雨は止んでいないどこかにいるはず!だけど、どこに?国中には、国民や兵がいるはず、どこかにいたら誰かが知らせるはずだ。
街のなかにいないのなら、まさかあの付近に?無言で走り始め、「お嬢!」アリエスの制止にも目もくれず兵の間をすり抜けた。
リーンが向かった先は、私と"きみ"の思いでの場所。服も靴も髪も全てがグショグショになってがむしゃらに走り続けた。街にいなくそこまで遠くない場所はあそこしかない。それに、"きみ"のことが心配だ。私の今のこんな姿をみたら驚くだろう、グショグショになった格好と実はこの国の王女であることも明かしてしまう。どっちかって言ったら、前者をみられる方がイヤだ。自分のコンプレックスになっていたこの肩書きも今では重荷にならなくなった。"きみ"に出会って私のなにかが変化したんだと思う。プレゼントも準備出来てるし早く会いたいよ、名前も分からない"きみ"に。
ヴァーー!!木の元へ向かっている道中で聞こえてきた。やっぱりあそこにいる!私達の思い出の場所を絶対に汚さない!
「ううぅ、ああぁ」始めてだ、"何もの"かになった状態で意識があるのは。だが、意識が薄れてあまりコントロールはできないが街から抜け出すことはできた。目の前は色がモノトーンのように映り、砂嵐のような音がずっと耳元で鳴り響いている。気づけば"君"との思い出の場所まで移動していたのだ。この苦しみは癒えることはなく、ますます力が溢れてくる感覚であった。「みつけた!」よく聞こえなかったが、何かに後ろで誰かが叫んでいた。
目の前にいたのは、雨でびしょ濡れになり剣をこちらにむけた女性だ。霞んで全体像を捉えれなかったが、ただ一つなせか、はっきり見えたものがあった。それは左手首に付いたブレスレットだ。まさか、"君"なのか?近づこうとすると、剣で払い牽制をされた。
そうか、オレであることは分かるわけないよな。ていうか、王女だったのかこんなタイミングでお互いの秘密をみせ合うなんてな、あ、分かるのはオレだけか。
なぜか、"君"との思い出が脳内に流れてきた。名前も知らない"君"と関わってきた日々ばかりである。それほどまでに君との触れ合いがオレを変えてきたのだ。これが走馬灯ってやつなのかな。この力は危険だ自分自身でもコントロールできないほどに、今までたくさん手にかけてきたこうなってしまったのは、自分のせいだ。ここで介錯されることが最善かもしれない。
だが、ふと目元から水滴が落ちて、抑えきれなくなってきた。でもこんな時に、まだ死にたくない。こころの奥底で叫んでいた。"君"とまだいたいからだ。まったく、本当に面倒くさい性格だ…… わかったよ、こころの声にそう言い聞かせた。
「絶対に倒す!」リーンが恐怖で震えた手で剣が落ちないように気合いを込めた。
そんな彼女に微笑み、鼻水をすすり聞こえるはずもない声で
「…オレは最後まで生きるよ!…君といたいから」
リーン「うぅおおおぉーー!!」
街では兵が奮起し被害を最小限に抑えていたが、徐々に押され始めていたその時、魔獣の様子が変わった。その場に止まり悶え灰のように消えていったのである。同じタイミングで、大粒の雨と分厚い暗雲から陽の柱が何本も現れてた。さっきまでが嘘のように雲が霧散し澄み渡った空と大きな虹が架かったのであった。
「終わったのか!」ジークが状況を確認するよう指示を出した。
リーンに追いついたアリエスが、そこに一人で崩れ座る王女の様子を伺う。「…王女様?」涙を流していたことに驚き「ここでなにかあったんすか!?」肩を掴み聞くと、「わかんない、悪魔を倒したらなぜか涙が溢れてきて…」
その日より、リーン王女は伝説の悪魔を打ち倒した、生きる伝説として語り継がれるのであった。