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春の推理2024(メッセージ)

隠し味

作者: 葉山麻代

 とてつもなく不味い。


 それは謎の料理だった。見た目はカレー。だが、謎の甘味と苦味がある。

 私は、受け取った一口分さえ、食べきれなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ♪ポロンロン♪


 ━━━━━━━━━━━━━━

 美味しい夕飯を作るから早く帰ってきなさい。

 ━━━━━━━━━━━━━━


 父から来たメッセージに、珍しいこともあるもんだなぁと思った。家で父が料理をしているのなんて、見た記憶がない。包丁を使っている記憶を思い出してみれば、ツマミのサラミを薄く切っているのと、自分で食べる分の果物を剥いているのくらいなのだ。


「誰から?」

 横にいた友人が、画面を覗かないように注意しながら聞いてきた。


「なんか、父から。夕飯作るんだって」

「へえ、お父さんが夕飯作るんだ」

「いや、初めてだと思うよ。美味しい夕飯って何かなぁ?」

「美味しいの?」

「自己申告が」

 私は画面ごと見せた。友人は笑いながらその画面を見ていた。


「美味しい夕飯で子供の帰宅を促すのか。良い父だなぁ。明日、感想教えてね」

「本当に美味しかったら、教えるよ」


 駅で分かれ、家まで歩き、たどり着いた我が家の玄関の戸を開けると、カレーのような匂いがする。

 カレーなら、そうそう失敗もしないだろうし、安心だ。


「ただいまー」

「おう、お帰り。もうすぐ出来上がるぞー」

 父がキッチンから答えていた。


「あ、うん。母さんは?」

「なんか、出掛けた。夕飯前には帰ってくるらしい」

「そうなんだ」


 キッチンに行くと、流しには、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎの皮が散乱し、調理台には、肉が入っていたであろうトレーや、カレーのルーの箱が置き去りになっている。

「母さん帰ってくる前に、流しの中、片付けた方が良いよ」

「まあ、そうだな」

 私も少し手伝って、ゴミや余分なものを片付けた。


「良し、出来た! 味見してみろ」

「え、うん」

 小皿に少し渡された。

 カレーの味見なんて、必要かなぁ? 誰が作ったって、市販のルーを使ったら、それなりのものが出来上がると思うんだけどなあ? そう思いながらも、小皿のカレーを味見してみた。


 んん!?

 何か、変な味。取り敢えず、これはカレーではない。


「旨いか?」

「いや、これ、何? 父さん何入れたの?」

「市販のカレーを旨くする方法ってのをテレビでやってて、その通りに作ったぞ?」

 そこでやっと父は味見をしていた。

 えー、私は実験台だったの?


「市販のルーに、隠し味で蜂蜜を大匙一杯入れると、旨くなるって言ってたんだよ」

「そう言うレベルの話じゃない味だよ」

 そこで、私は少し前の事を思い出していた。片付けをしたとき、軽くなった蜂蜜の容器があったことを。あの蜂蜜は、たしか一昨日買ったばかりの、封を開けていなかったものだ。その蜂蜜が軽いって、どう言うことだろう?


「ねえ、父さん、蜂蜜に使った大匙はどれ?」

「大匙って、これの事だろ?」

 父が指し示したのは、カレーに入っているお玉だった。


「それは、お玉! 大匙は、これだよ!」

 私は、キッチンカウンターから計量スプーンを取り出し、15mlの大匙を見せた。


「そんなに小さい匙なのか」

「その、父さんの言う大匙に、蜂蜜一杯入れたの?」

「一杯で旨くなるなら、たくさん入れたらさらに旨くなるだろ?」


 私は絶望した。やはり、あの蜂蜜の減り具合、全てがこのカレーモドキに入っているらしい。蜂蜜は、1kg入りで、半分以上使ってあった。なんとも表現し難い甘苦い味の正体は、大量の蜂蜜だったのだ。


「ごめん、私はそれ、食べるの無理」

 隠し味なら、是非隠しておいて欲しい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのした雰囲気で、安心して読めます! [一言] まさか大さじの理解をしていなかったとは(笑) お父さんが可愛いです!
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