表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のこと'も'どうぞお気遣いなく、これまで通りにお過ごしください。  作者: くびのほきょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/19

Jacqueline(age10) 05

「パトリックの新しい妹と仲が良いんだって?」


エルドレッドと2人のお茶会の席でアメリアの名前が出てジャクリーンは驚く。おそらくエルドレッドはパトリックからアメリアの話を聞いて興味をもっているのだろう。


あのお茶会から1ヶ月経った今では、ジャクリーンとアメリアの2人きりでお茶を飲み、個人的な話をし合うまでにアメリアとジャクリーンは仲良くなっていた。


高位貴族の礼儀作法を知らなかったアメリアだが、ちゃんとした教師がついた後からはメキメキと知識を吸収し、1ヶ月たたずに高位貴族の作法を習得してしまった。アメリアは一を聞いて十を知るように飲み込みが早く、ジャクリーンが目についたことを指摘すると二度と同じ過ちは繰り返さない上に、応用までしてしまうのだ。


「一緒にいると心地よい、とても優秀な令嬢なんです。先日は、前ジョンストン公爵夫人に誘われて3人でオペラを観に行きました」


「あのパトリックが可愛がっている妹とはどんな令嬢か気になってな、今度城に呼べと言ったんだ。その時はジャクリーンも一緒に参加してくれ」


ジャクリーンはエルドレッドに笑顔で了承の返事をした。もしもエルドレッドがアメリアを気に入ったとしても問題ないと、ジャクリーンに焦りはない。


アメリアとエルドレッドが婚約するには、同じジョンストン公爵令嬢でクリストファーの婚約者候補のメリッサとジャクリーンの2人ともに婚約者候補を降ろされる必要がある。その上、ジョンストン公爵夫人の姪のアメリアにはジョンストン公爵家の血は流れていない。エルドレッドがアメリアと婚約したいと言ったとしても叶う見込みは低いのだ。


仮にジャクリーンがアメリアの立場で上昇志向が強かったならば、メリッサを蹴落としてクリストファーの婚約者になる方法を取るだろう。クリストファーが立太子出来るように導く方が、エルドレッドと結ばれて王妃になるよりもずっと簡単だからだ。


それに、何よりもアメリアからは王妃になりたいというような野心を感じない。アメリアは両親の死の悲しみが癒えないうちに公爵令嬢になってしまい戸惑っている、純粋で、天真爛漫な令嬢だ。もちろん野心は分からないように隠すものなのだが、もしもアメリアが数々の令嬢を相手にしていたジャクリーンの目を誤魔化せているのならば大したものだろう。


ジャクリーンはエルドレッドの口からアメリアの名が出ても特に気にかける事はなかった。


-----


あのお茶会以降、メリッサから避けられているのだと、アメリアは言っていた。


実はあのお茶会の後、アメリアがマナーが身についてないままお茶会に参加することになった事にメリッサは関係なく、アメリア付きの侍女による嫌がらせだった事が判明した。


伯爵家出身のその侍女はアメリアのマナー教師を兼ねていた。自分よりも家格が低い子爵令嬢から公爵令嬢になったアメリアに嫉妬していて、アメリアに高位貴族のお茶会の作法を教えてない上でアメリアのお茶会の作法が完璧だとメリッサに嘯き、アメリアがお茶会で醜態を晒すように企んだそうだ。


その侍女はパトリックによって下級使用人に降格され、その代わりにジャクリーンをカルミアの咲く庭に案内してくれた元メリッサの侍女がアメリアの専属となった。


下位貴族の子供のお茶会ではお茶菓子を手づかみで食べても良いらしい。そのため、まだ作法を習っていないケーキやタルトなどのお茶菓子がある事にお茶会会場で気づいたアメリアは、急遽会場から庭へ戻り知識を詰め込むしかなく、それがメリッサの策略か侍女の独断なのか、判断する余裕もなかったそうだ。


養子になったばかりのアメリアに付いた侍女が教育を放棄している事に、ジョンストン公爵家の家族はなぜ気付けなかったのかと疑問に思ったが、パトリックやメリッサの他人に興味がない気質を知っているジャクリーンは、それも仕方がないと納得してしまう。


ジャクリーンは、メリッサはアメリアを冷遇していると宣言してしまったが、それは間違っていたのだ。本当ならすぐにメリッサへ謝罪し周囲の誤解を解かないといけないのに、ジャクリーンはまだメリッサへ謝っていない。


「あの時ジャクリーンが声を上げてくれなかったら、私は間違いなく下位の令嬢に舐められるようになっていたわ。それを考えたらメリッサお姉様から避けられてる今の方がずっとマシよ。ジャクリーンのおかげで私は助かったの。本当にありがとう。……本来ならメリッサお姉様の役割だったのに、何もしなかったお姉様が悪いんだからジャクリーンは悪くないわ。ジャクリーンがお姉様と仲直りしたいなら、私のことは気にしないで仲直りしてね」


アメリアの言葉で、ジャクリーンはアメリアとメリッサのどちらかを選ぶ必要があるのだと思い込む。


以前から立場の強い公爵令嬢なのに社交をしないメリッサには不満を感じていた。アメリアは、家の力が弱くなったジャクリーンの事情を汲んで、元子爵令嬢とは思えないほど巧みにお茶会などの社交を手助けしてくれる。


ジャクリーンは、アメリアの言うようにメリッサにも悪いところがあったと思い込み、紛い物の公爵令嬢の自分が正当な公爵令嬢のメリッサを害する力などないのだから気にする必要はないと正当化し、アメリアと仲良くする道を選んだ。


パトリックや前ジョンストン公爵夫人がアメリアばかりを溺愛している姿を見ているというのに、その陰でメリッサがどんな思いで過ごしているかまでジャクリーンが思い至る事はなかった。


-----


「今週はお茶会をしなかったらしいな。最低でも週に1回は開催するようにと言っているのを忘れたのか!」


「申し訳ございません」


ジャクリーンは養父ハモンド公爵の執務室に呼び出され叱責されている。


ハモンド公爵は普段はジャクリーンに見向きもしないのだが、機嫌が悪かったり、気に入らないことがあった日はジャクリーンを執務室に呼び出し、大声で怒鳴りつける。ハモンド公爵はジャクリーンを叱る事で気分転換をしているきらいがあり、火山が噴火してからは、ジャクリーンが執務室へ呼び出される頻度が上がっている。


養子になったばかりの頃は大きな声を出されるだけで恐怖を感じ、心臓がドキドキして時には泣き出すこともあったジャクリーンだが、4年も経つと慣れてしまった。今では、傷つき恐怖に震えるふりをしながら内心で別のことを考え聞き流す事ができるまでになっている。


これはハモンド公爵の憂さ晴らしのための時間なので、正当な理由を言い返す事ができたとしても口答えをしてはいけない。ハモンド公爵の威嚇の効果がないのがバレてしまう無反応や無表情など以ての外。ハモンド公爵が満足するように傷つき怯えている姿を見せるのが一番早くにこの時間が終わるのだと、ジャクリーンはこの4年で学習していた。


「父上、ジャクリーンはよくやってくれてますよ」


ハモンド公爵の怒号に目に涙を浮かべて身を竦めているジャクリーンをかばうように、6歳上の義兄ヒューバートがハモンド公爵を諌めた。


ジャクリーンがハモンド公爵に八つ当たりされていても、ハモンド公爵夫人やその侍女から嫌がらせをされていても、他人事のように見て見ぬ振りをしていたヒューバート。そんなヒューバートがわざわざ執務室に来てまでジャクリーンのために父親に逆らうなどあり得ない。ジャクリーンは驚いて怯えている演技を忘れてしまいそうになりつつも、どういう風の吹き回しなんだと、ハモンド公爵とヒューバートの成り行きを観察する。


「私の婚約も解消されたような状況の今、ジャクリーンのお茶会に令嬢が集まらなくなっても仕方ないと思います。それに、貴族学園入学前から策を講じても学園入学後は人間関係が変わるものですし、お茶会を開くにも少なくない経費がかかる。ジョンストン公爵令嬢と仲良くしているのであれば、お茶会が少なくても良いのでは?」


「ジョンストン公爵令嬢?あぁ、あのチェスターとアバズレの真実の愛の結晶のことか……」


チェスターとアバズレとは亡くなったアメリアの両親のことらしい。ハモンド公爵は嘲るような顔をしながら鼻で笑っている。


「お前がジャクリーンの肩を持つなど珍しいと思ったら、あの娘が目的か。我が家に出入りしていると報告は聞いていたが、抜け目なく次期ハモンド公爵に粉をかけてるなんてさすがだな。あのチェスターの娘との婚約などハモンド公爵家として認めることはない!婚約者は違う女を見つけろ」


「彼女の両親がどんな人だったとしても、もう亡くなってますし、有力な公爵家に養子入りしてる今はもう関係ないではないですか!アメリアはとても良い子ですよ!」


「お前は”林檎の実は林檎の木から遠くへは落ちない”って言葉を知らんのか!」


ハモンド公爵とヒューバートは言い争いを続けている。2人ともジャクリーンのことなど気にしていない様子に、ジャクリーンはそっと執務室から退室した。


いつのまにかヒューバートはアメリアを見染めていたいたようだ。火山が噴火した事で大きく資産を減らしたハモンド公爵家では他国の王族を迎え入れる事は出来ないと、数ヶ月前、ヒューバートは隣国の王女との婚約を解消した。婚約者のいないヒューバートとアメリアならば婚約しても問題ないとジャクリーンは思うのだが、ハモンド公爵はアメリアがハモンド公爵夫人になる事を認めることはないらしい。


この日以降、ジャクリーンはお茶会の回数を月1回に減らすことを許され、アメリアと接点を持ちたいヒューバートがジャクリーンのことを気にかけてくれるようになった。アメリアをハモンド公爵家へ招待することは禁止されてしまったが、アメリアとは王城やジョンストン公爵家など家の外で会う事が出来るので気にならない。


ヒューバートとアメリアが結婚したらアメリアはジャクリーンの義姉になる。ジャクリーンはそうなったら良いなと願い、こっそりと2人の仲を応援することにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ