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私のこと'も'どうぞお気遣いなく、これまで通りにお過ごしください。  作者: くびのほきょう


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Mia(age17) 06

「レノン嬢、一昨日、王城の庭園で腕を組んでるトリスタン殿とジャクリーン嬢を見かけたよ」


ミアは思わず、ミアよりも頭一つ背の高いトリスタンと、ミアよりも小柄なジャクリーンが腕を組み、さらにお互いを見つめ合うところを思い浮かべてしまい、胸がキュッと押しつぶされたように痛む。


今は魔法学の授業中で、水魔法が使えるミアは水を出す練習をしている。実技のペアになった伯爵令息からミアは、こっそりとトリスタンとジャクリーンの逢瀬を耳元で囁かれたのだ。婚約者ではない貴族の令息と令嬢が触れそうなほど顔と顔を近づけるなどありえない。これまでは適切な距離を守り、授業と関係ない事は話さない人だと思っていたが、その思い込みが彼に隙を与えてしまったのだろうか。


トリスタンとミアは17歳となり、魔法学園の2年生も残すところあとひと月となった。来月からは最終学年の3年生が始まる。そして約1年後に魔法学園を卒業したら、ミアはトリスタンと結婚してケンブル侯爵家に嫁ぐ予定になっている。


魔法学園に入学してから、トリスタンはケンブル侯爵家の嫡男としての仕事を始めた。魔法学園の運営は王妃様の管轄となっている。魔法学園は一部の教育方針を変更することになり、1年後から国際条約の加盟から一時的に外れる事が決まり、王妃の実家のケンブル侯爵家が主体となって動いているそうだ。トリスタンは忙しそうにしていて休日は殆ど王城に通いつめている。


そうして王城へ通うトリスタンが、第一王子の婚約者候補として王城に通うジャクリーンと偶然出会う事はあるだろう。謂れ無い悪評に悩む幼馴染を、優しいトリスタンが放っておけない事も理解している、つもりだ。


一昨日は学園が休日で、トリスタンは王城で仕事があると言っていた。ミアは終日レノン伯爵家で勉強をしていたためにトリスタンには会っていなかった。


「一昨日のことなら、王城で予定があった帰りに、偶然、ジャクリーン様とお会いになったとトリスタンから聞いていますわ」


本当はトリスタンからジャクリーンと会ったなんて話は聞いていないのだが、この令息にそれを悟らせるわけにはいかない。ミアは伯爵令息から距離を取り、不自然にならないように笑いながら返事を返した。


令嬢から距離を置かれているミアだが、一部の令息からはミア1人の時に限り積極的に話しかけられることがある。彼らは平民の愛人から生まれた庶子のミアは身持ちが悪いと思い込んでいるのだ。トリスタンがいない時に声を掛けてくる令息には気を許してはいけないと、ミアはトリスタンから口うるさく言われている。


ミアの答えが予想と違ったのだろう、伯爵令息は肩をすくめ呆れたような目でミアを見つめ、ため息を吐いた。ミアは湧き上がってくる苛立ちを押し殺し、気にしないようにと自分に言い聞かせて授業を受け続けた。


2年前からミアはこうして度々、令息達からトリスタンとジャクリーンの逢瀬を密告されるようになった。


皆、何かを期待しているような目でミアを見つめながら、トリスタンがジャクリーンと人目を忍んで会っていたのだと囁いてくるのだ。

その内容は、トリスタンとジャクリーンが手を取り合っていた、木の陰で抱き合っていた、図書館で口づけを交わしてたなど様々だが、それがどこまで本当の事なのか、ミアにはわからない。ミアがわかっているのは、令息達による告げ口と不貞のお誘いは、2年前の貴族学園3年の夏休み、ジャクリーンと動物園で偶然会った日以降から始まったことだけだった。


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魔法学の授業が終わり、お昼ご飯のために食堂に来た。お昼はトリスタンと共に食堂内の個室を利用している。王族と公爵家のために用意されている個室だが、王妃の実家であるケンブル侯爵家も利用できる。


「トリスタン、一昨日ジャクリーン様と一緒にいたの?」


「あぁ、城の庭でたまたまジャクリーンを見かけたんだ。エルドレッドと会えないって悲しそうにしていたジャクリーンが可哀想だったから少し話をしただけだよ……もしかして、また誰かに誘われた?ミアは美人だからしょうがないけど、本当に困るね」


まるで令息に声を掛けられたミアの方が悪いように聞こえ、喉がキュッと狭まり食欲がなくなる。ミアはスープを飲もうと口元まで上げたスプーンをそのまま下げた。


「好きで誘われてるわけじゃないわ。トリスタンがジャクリーン様と仲良くしているせいで声を掛けられてるの。この前は”ジャクリーン様の異母姉のお前も男好きなんだろう”なんてことも言われた……。それに、ヒューバート様だけじゃなくてトリスタンとも仲良くしてるからって、ジャクリーン様の評判はますます悪くなってるんだよ?ジャクリーン様が可哀想って言うのなら、トリスタンはジャクリーン様と2人きりになるのを辞めたほうが良いと思う」


「ジャクリーンは貴族学園に入学してからヒューバート殿との噂のせいで立場を悪くして困っている。アメリア嬢も僕もそんなジャクリーンが見ていられないから、エルドレッドと仲直りするように手助けしているだけなんだ……。ミアだってヒューバート殿とジャクリーンの噂は間違ってるって知ってるだろう?」


男女の色事に関する話は、得てして女側に問題があるとなりがちだ。それでも、ヒューバートとジャクリーンの噂が出始めた当初は養子に手を出したヒューバートにも非難の目が向けられていた。それが、今では婚約者のいるトリスタンにも粉をかけているジャクリーンはふしだらな女だという認識が広まってしまっている。


トリスタンには何度もこの話をしている気がするのだが、ミアがどれだけ説き伏せても、トリスタンはジャクリーンを助けているだけだと言い訳し、親しくし続けている。


「今日は2人が腕を組んでたのを見たって言われた。相談に乗ってるだけなら腕を組む必要なんてないよ?」


「誓って僕はジャクリーンと腕なんて組んでないし、僕が腕を組むのはミアだけだ。それはその告げ口してきた人がミアの不安を煽るためについた嘘だよ。……いつもと同じ手口じゃないか」


ジャクリーンの悪い噂は、半分血が繋がっているミアにも影響が出ている。声を掛けてきた令息の事はその都度トリスタンへ報告している。トリスタンがそれなりの仕返しをしているようだが、原因となるジャクリーンとトリスタンの不貞の噂が無くならないと根本的な解決にならないことはトリスタンだってわかっているはず。


トリスタンの仕事が忙しくても学園のお昼ご飯は必ず2人で食べるし、夜会などでパートナーが必要な時はミアを連れ出し完璧にエスコートてくれる。空いてる時間を見つけて、ミアが喜ぶお菓子とお茶をトリスタンが用意してくれるお茶会は続いているし、一緒にいる時はいつも笑顔でミアの話を聞いてくれる。


ミアは決してトリスタンから蔑ろにされてはいない。愛されている実感だってある。ただ、どんなに頼んでもミアが見てないところでジャクリーンと親しくすることを辞めてくれないだけだ。


「お昼ご飯の時間が終わっちゃうよ。ほとんど食べてないじゃないか……ほら、口開けて」


トリスタンがミアにスープの入ったスプーンを差し出してくる。食欲がないミアはいらないと首を横に振ったのだが、トリスタンは許してくれない。


「ちゃんと食べないと。ほら、あーんして」


ミアは諦めて口を開け、トリスタンの手ずからスープを飲む。


「ほら、もう一口。……ジャクリーンはただの幼馴染なんだ。分かってくれる?」


何度も差し出されるスプーンからスープを飲みながらミアは頷く。


「それから、一昨日のことをミアに告げ口した令息の名前も教えてね」


ミアは伯爵令息の名前を教えると、トリスタンは真剣な顔でミアに言う。


「ケンブル侯爵夫人になるためにたくさん努力してきたミアなら、王妃になるために努力しているジャクリーンの気持ちをわかってあげれるよね……。僕たちだけでもジャクリーンに優しくしてあげよう」


母親が違うとはいえジャクリーンはミアの妹。ミアだってエルドレッドに誤解の噂で嫌われて、同年代の令嬢を統括していた立場から転げ落ち、養子入りしたハモンド公爵家でも冷遇されているというジャクリーンのことはかわいそうだと思っている。ミアもジャクリーンに優しくしたい。


この1ヶ月後、そのジャクリーンはエルドレッドの婚約者候補を降ろされ、ミアのいるレノン伯爵家へ戻ってきた。

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