7話
修正しました。
急募、友人だと思ってた相手に告白された時の対処法。
頭の中でこんなことを思い浮かべたところで、誰もアドバイスなんてしてくれないのに。馬鹿なことを考えるくらい私は動揺していた。
こっちに来てから一年と少し。元の世界に居た時は告白すらされたことがないのに。突然モテ期が訪れた!と喜べる人間なら「聖女」の地位を盾に我儘放題な振る舞いをしていただろう。幸いと言っていいのか、そんな自分に自信のある人間では無かった。
悲しいかな、恋愛に縁遠い人間はこの状況で咄嗟に対処することが出来ないのだ。
ちょっと現実逃避しかけていたけど、どうにか意識を取り戻す。レオンは真っ直ぐな眼差しで私を見つめ続けている。私が何か言うのを待っているのだ。時間にすると十数秒ほど経った頃。
「…へ?」
言った瞬間後悔した。何へ、って。予想外のことを聞かされた、みたいな間抜けな声。私の反応が予想と違ったのか、レオンも「ん?」と首を傾げている。
「何だへ、って」
「あ、うん、ごめん。驚いたというか、思いもしなかったことを伝えられて戸惑っているというか」
「そうだろうな、気づかれないようにしてたから。まあエドと…あいつにはバレてたけど」
またあいつ、と発した瞬間レオンの周囲の気温が下がったような気がする。ちょっと寒くなってきた。
「ん?え?皆知ってたの、知らなかったの私だけ?」
「張本人にバレるわけにいかないだろ」
そりゃそうである。私だって知ってたらもっと上手く…と私はふと自分の行動を振り返った。
何故か早い段階でアルバートに対する気持ちを勘付かれ、バラされる!と怯えていた私は一時期レオンを警戒していたのだ。だが彼は私の気持ちをバラすことなく、何なら告らないのかと発破をかけたり恋愛偏差値底辺の相談やら愚痴やらを聞いてくれるようになったのだ。
私は初対面時、目つき悪いし冷たそうと偏見たっぷりな目で見ていたことを心の中で謝罪した。冷たいどころか召喚されすぐ、右も左も分からなかった私にアルバート、エドと一緒にこの世界の基礎知識やら何やらを教えてくれた。寧ろ面倒見いいですね、ありがとうございますと礼を言ったくらいだ。
そしてすっかり甘えてしまった私はアルバートに関する相談をレオン(時々エド)に持ち込むようになった。運命の悪戯か一生分の運を使い果たした私がアルバートと両思いになった時も「良かったな」と肩をポンポンと叩いてくれた。
…私は文字通り顔から血の気が引いてきてしまう。
「…ごめんなさい」
レオンが愕然とした表情になり、私は大いなる誤解を与えたことに気づき慌てて訂正した。
「違うよ、返事じゃなくて。…気づかなかったとはいえアル…バートのこと相談してたのデリカシーがなかったな、と…」
即行で断られたわけではないと分かったレオンがあからさまにホッと胸を撫で下ろした。
「気にしなくていい、寧ろ相談という形でセナと話す機会が出来て嬉しかったんだ」
そういうものなのだろうか。私だったら好きな相手の恋愛相談なんて想像しただけで胸が苦しくなり、適当な理由をつけて断ってしまうかも。
そんな私に比べてレオンは何というか…献身的と表現すればいいのか。人間が出来過ぎていて尊敬すらしてしまう。私が彼に残酷な行為をしていたとしても、だ。
どうしよう、私がレオンに好かれる価値があるとは到底思えない。
「聞いていいか分からないけど、何で私?好かれることした覚えないしメイドさんから聞いたよ、レオンは女性を寄せ付けない、寄ってくる女性を冷たく拒絶するから氷の魔術師って呼ばれてるんでしょ?」
自分が女性からそう呼ばれているのが恥ずかしいレオンはこの話題を出すと顔を顰める。今回も嫌そうな顔をした。
美形だけど女に冷たい。そんな相手が見た目も何もかも平凡な私に惚れるきっかけが分からない。確かに旅の途中、何度も何度も癒しの魔法をかけたけど、私がするべき仕事をしただけだ。それくらいで惚れるほど目の前の男は単純ではない。それくらい私でも分かる。
「……だ」
「ん?」
「………」
何やら小声でモゾモゾ言っているが聞こえない。聞き返すと口を噤んでしまう。
私が無言でジーーーーッと見つめると観念したのかヤケクソ気味に叫んだ。
「…召喚されたセナを初めて見た時からだ!」
私の口からは本日2回目の「へ?」が飛び出した。
それって所謂一目惚れというやつ?癒しの魔法以前の問題だったという事実に私は驚くしかなかった。