表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくはちじゅうに。

 お題:テディベア・涙・気球



 静かに太陽が昇り始めた空。

 山の輪郭が赤く、青く、黒く、染まりつつある。

 所々に差す紫が、不思議と柔く、温かく見える。

「……」

 その中を。

 その空の中を。

 1つの物体が進んでいく。

 丸く大きな影の下に、小さなかごをぶら下げて。風を受けて、空の中を突き進む。

「……」

 よく聞く名では、それは気球と呼ばれる。それは確か、熱を必要としていたが…。空を飛ぶそれには、炎の影は1つもない。

 ただ静かに。空の中を進むだけ。

 風を受け。光を受け。

 どこかへと、進んでいく。

「……」

 その風の中。

 音もなく飛ぶ気球の中に。1人の少女が眠っている。

 毛足が長い毛布の中に、その小さな体を包み込み。仔猫のように丸くなり。静かな寝息を立てている。

「……」

 籠の中には、食料を入れるバケット。小さなランタン。

 何冊も積まれている本。―そのどれもが分厚く、色あせ、かなり古いモノのように思える。実際大人たちにみせても、これらの本を読み解けるものは数少ない。

 しかしそれでも、少女は。

 この本を読み。解き。明かしていかなければ、ならないのだ。

「……」

 それは少女の、罪だから。

「……」

 そのほかにも、小さな黒い鞄。その中から、1本の木の枝のようなものが飛び出している。その上に、真黒なとんがり帽がひっかけられている。

「……」

 そして、もう一つ。

 眠る少女のすぐ隣。小さく、丸くなっている少女の頭のあたり。陽の光で、少女の眠りが妨げられないように、影を作っているものが一つ。

 少女に寄り添うものが。1人。

「……」

 それは少々大きめのクマの人形。テディベアと言ったりする。

 そんな、ただの人形。毛艶はいい。その首には、黒のリボンが巻かれている。小さな瞳は、黒曜石でできている。陽の光さえも吸い込むような、その瞳は。ただ虚空を写すのみ。

「……」

 しかし、その瞳は。

 確かに、少女を写す。

 動くはずのない、その人形は、静かに首を回す。

 ―この朝の。静かな時間だけ。その人形は魂の持ち主に応える。少女の眠るこの時間だけ。どこまで行っても、少女の前ではただの人形でしかいられない。

「……」

 瞳に写す少女を、それは無表情で見つめる。それでも、どこか悲し気に見えるのは、なぜなのだろう。―愛おしげに少女を見つめているように思えるのは。

「……」

 その瞳に見つめられる中。

 少女はふと、涙を流す。

「……」

 よくない夢でも見ているのだろう。こんな年端もいかぬ少女が、1人でいるのだ。寂しくないわけがない。

 ―そして、少女が1人でこうしている原因であるテディベアは。

 より一層悲しげに、少女を見つめる。

「……」

 その中には、一つの魂が入っている。

 それは、1人の少年の魂。

 幼い少女と共に育った。小さな村の、少年の心。

 ―少女が恋した。少年の魂。

「……」

 ほんの少し、昔の話をしよう。


 ―小さな村の小さな家に。1人の少女が住んでいた。

 その少女は、隣に住む少年に密かに恋をしていた。けれど、自分に自信がない少女は、魔法をかけてしまったのだ。少女は、恋心に自信はなくともその魔法の力には自信があった。古い呪いだって、使いこなせると思っていた。名誉ある一族の末裔だから。けれど、そんなもの上手くいくわけでもなかった。恋をかなえる方法を間違えた少女は、少年と話す事すらできなくなり。少年の魂は、人形に閉じ込められた。


「……」

 実のところ。

 この少年も、少女に恋をしていた。ほんとうは、呪いなんてなくとも、叶うはずの恋だったのだ。

 それは、少女のたった一度の過ちで、叶わぬものとなった。

「……」

 だから、少女はただ一人。

 少年を戻すために、遠くの国へと旅をしている。

 必ずどこかにあるはずの。解呪の方法を求めて。

「……」

 少女が静かに流した涙を。彼は優しくぬぐい取る。

 今は、ただの人形でしか在れない。

 はだけた布を掛けなおすことも。悲しむ少女に声を掛けることも。助けることも。

 何もできない。

「……」

 ただ少女の旅の共をして。涙を拭う事しか許されない。

「……」

 すれ違う少女と、少年。

 テディベアと、少女。

 2人の小さな旅人は、気球に乗って。

 今日も静かに飛んでいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ