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第九話

 目を閉じたのはいいが、外から絶え間なく聞こえてくる謎の声でなかなか眠れない。安全な場所とはいってもここは砂漠。さっきみたいにいきなり襲われる可能性は大いにあるのだ。そんな中でテントを立てて寝る僕らは普通ではないのだろう。だから召喚されたのかもしれない。そんなことを思っていたらいつの間にか眠っていたようだ。






 目が覚めて起き上がると、覚醒したての耳に何やら調理をする音が飛び込んできた。それから、なにか香ばしい匂いがする。外からだ。魔物の襲撃かもしれないと焦って彼女の姿を探すが、どこにも見当たらない。ベッドには置き去りにされた温もりがほんの少し残って入るがじきに消えてしまいそうだった。仕方ない、外に出てみるかと出入り口へ向かう。内外を仕切っているチャックの狭間から眩しいくらいの光が漏れ出していた。どうやら朝日は登っているらしい。窓のないテント、読めない文字盤時計で時間まで特定することはかなわないものの、とりあえず朝だということはわかった。

外に出てみると、白煙が風とステップを刻みながら踊っていて、中から感じていた香ばしくスパイシーな匂いは一段と強くなった。白煙の中からとぎれとぎれに見える薄桃色の方へ向かうと彼女が、何かを焼いていた。


「あら、起こしちゃったかしら」


 僕の気配を感じて振り向いた彼女はそう言った。いや、全然と答えてフライパンの中を見る。赤くてところどころ焼けて茶色くなったそれは多分、肉だろう。しかし、この荒れた砂漠にまともな動物などいるのだろうか。昨日襲撃してきたコヤンナンといい彼女の話に出てきたザグミュといいまともではないものばかりしかいないように感じる。まさか、毒か? そう思い慌てて声をかける。


「あの……」


「ん? どうしたの?」


「それって肉?」


「うん。……もしかして、なんの肉か気になってるの?」


 ……見破られていた。一気に罪悪感が心を支配する。一瞬でも可憐な彼女を疑った自分に嫌気が差した。無言で下を向く僕を見てなぜか彼女は笑い声をあげた。純粋なそれに思わず顔をあげると目元をゴシゴシ拭く彼女の姿が目に入った。泣かせてしまった! そう思い、ごめん! と謝る。


「え、なんで謝るの?」


「え?」


「だって、私に対してなにか悪いことをしていないのに謝る理由がないでしょう? それとも……なにかしたの?」


 頬がにわかにポッと熱くなる。彼女が美しい顔を近づけてきたからだ。何もしてない、と否定を示した上で命の恩人でもある彼女を疑ったからと伝えた。またもや先程の悔恨の情が体の奥からこみ上げてくる。下を向きそうになると肩を叩かれた。


「全然大丈夫よ。むしろ疑ってかかるのが正解だと私は思うわ」


「そうなの?」


「ええ、昨日知り合ったばかりでまだお互いのことを深く知らないでしょう。その状況で果たして善人か悪人か見分けられると思う?」


「いや、確かにそうだけれど……」


「大丈夫。あなたは正しい選択をしたのだから気にしないで」


 彼女の笑顔に押されて仕方なくうん、と頷いた。

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