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第六話

 思った通り、彼女の真っ白なハンカチにはみるみるうちに頬から溶け出した汚い赤色がにじみ、あっという間に穢された。

不意に彼女がじっと見つめてきた。すごく恥ずかしかったため、顔を背けると、小さなため息が聞こえた。ついに怒らせてしまったかもしれない。


「……あなたの目って綺麗ね」


「え?」


 突然言われた褒め言葉に驚きを隠せない。僕の瞳の色は暗褐色である。僕の記憶が正しければ、前の世界では誰でも瞳はこの色だった。綺麗や美しいなどと思われる色ではなく平凡な、いわば日常の色だ。それを綺麗などという彼女はどのような視点からそれを言ったのか。……前から思っていたが、この世界ではどうも感覚が違うらしい。


「全然綺麗じゃないよ」


「そうかしら? でも私の色とは違うもの。違うものこそ美しいと私は思う。あなたは、違うの?」


「いや、君と同じだよ」


 そういうことか。確かに僕とは異なる彼女は美しい。それと同じ感覚だろう。そう考えると出会ったばかりのとき、名前を褒めあったのも納得がいく。

しかし、ルールとはいえ恥ずかしいのはしばらく消えなさそうだ。


「そういえば、ここはどこ?」


 起きたときから気になっていたことを聞いてみる。川は数歩の距離にあるものの周辺が砂地で囲まれ、植物が生えていないのを見ると戦闘の前に彼女と一緒に見たオアシスとはだいぶ雰囲気が違うような……。


「まだ砂漠の中よ。さっきの戦いで時間がだいぶすぎて……。とりあえず安全なところに移動したんだけれどオアシスはまだまだ遠いわ」


「なるほど……今から移動する感じ?」


 いや、と首を振りながら彼女は答えた。多分、広大な砂漠の中でまた一人きりになったら助けられない、などと考えた上での返答だろう。確かに、僕は武器も防具も持っていない。つまり、この状況下で非常に不利な立場にいるということだ。しかし、再び同じようなことが起こったとき、彼女の手を煩わせるわけにはいかない。


「ここらへんに武器を売ってるお店とかないの?」


「ここから少しの場所にあるけれど……明日にしない?」


「どうして?」


「体の怪我がまだ治ってないわ。それにあなた異世界から来たヒトでしょう」


 脳天を叩かれたような強い衝撃がつま先まで走る。なぜそれを彼女は知っているのだろう。一体どこで。目まぐるしく様々な疑問が脳内に飛び交う。長めの深呼吸を一回してなんとか落ち着きを取り戻し僕は口を開いた。


「どうして知ってるの?」


「そうね……ここらへんで見たことのない容姿で、平気な顔をして危険な場所にいたからかしら」


「な、なるほど……」


 黒髪で茶褐色の目、着ているものはスーツだろうか? 確かに彼女が身に纏っている服とは全く違う。この世界の人間はこんな堅いものをめったに着ない、もしくは見たことがないといったところだろう。


「まぁ、違うから良いのだけれど……目をつけられやすいから早めに服を買ったほうがいいわね」


「そうだね」


 その言葉の後、会話が切れたものの不思議と前のような焦燥感はなく、僕は空を見上げた。


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