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第五話

 弱点がわかったら早い。そこに砂を投げつければいいのだから。この勝負は勝てると調子に乗り、無我夢中で砂を掴んで投げつけていると、突如顔のぐるぐる模様の中心から巨大な手のようなものが出てきた。そして、驚き固まっている僕の方へと恐ろしい速さで伸ばし両足首を掴んできた。足に力を入れて立つことがとたんに難しくなり、僕はバランスを崩してそのまま顔から地面へと一直線に倒れてしまった。地面は砂地だが空気中にある水分を含んでいる上気温が低くなってきていることにより日中よりも固くなっているため、相当痛い。打ち付けた頬のあたりから生暖かいものが垂れてきた。鼻にツンとくる鉄臭さからして血が出たのだろう。もしかしたら鼻血かもしれない。うう……とあまりの痛さに呻いていると突如、体が持ち上げられる感覚がした。顔面が砂だらけで目を開けられないため何が起こっているのか状況の把握ができないが、おそらくコヤンナンが伸ばしていた巨大な手で僕を持ち上げているのだろう。このままだと食べられてしまうかもしれない。慌てて、自由のきく手や足を動かして抵抗を試みたが何しろ相手が巨大すぎるためこの行動は無駄になった。

 残念ながらこの世界での僕の人生はここで終了らしい。あまりに短い人生だった。この体が飲み込まれるか殴られるかして事切れたら元の世界に帰れるのだろうかと呑気に考えているとどこからか聞き覚えのある声がした。何を言っているかまでは聞こえなかったものの声の主が相当怒っているのだけはわかった。ーーそう、彼女が駆けつけてきたのだーー恐怖が強い安心へと急激に変わったからだろう。いつの間にか僕は意識を手放していた。











「……てる……!」


「ね……大……?」


 雲の上でふわふわと重力に抗い浮いていると馴染みのある声が聞こえた。それは段々、近くに響いているように感じた。


「はっ……!」


 我に返って目を開けると心配そうな顔をして彼女がこちらを見ていた。


「起きた? 怪我とかしてない? 大丈夫?」


「う、うん。多分大丈夫だよ」


 そう言って起き上がり、座って頬を掻くと固まって茶色になった血が爪の間に入った。あの戦いから今まで何時間が経過したのだろうか。そしてここはどこだろう。彼女に聞きたいことが次から次へと溢れてくる。話しかけようと口を開くと、彼女は僕の右手に目を向け、やっぱり血が出てるじゃないと慌てて近くを流れる川へ小走りで行きハンカチを絞って帰ってきた。そのハンカチで血を拭くのか……? これは何が何でも止めなければいけない。綺麗なものを汚い僕の血で穢すのはだめだ。そう思い、彼女から一歩離れた。不思議な顔をして、一歩詰められる。もう一歩下がる……と繰り返すうちにとうとう我慢がならなくなったのだろう。眉を潜められた。


「ねぇ……」


「え、な、何?」


「どうして避けるの?」


 避けてないと言おうとすると彼女がそれを遮り、いや避けてるわと若干の怒りを含んだ口調で言う。

「理由は?」


「そ、それは、えっと……」


「早く答えなさい!」


 と詰め寄られた。だがこれには答えられない。口を引き裂かれても答えないと誓おう。これはいくらなんでも恥ずかしすぎる。口を噤み、じっとしていると、ため息を吐かれた。諦めがついたかのように思われたがどうやら違った。


「言ってくれないのなら仕方ないわ。でもこれはしなければならないことなの。だからじっとして」


 綺麗な双眸でじっと見つめられると頷くしかない。結局僕が折れて、このプチ喧嘩は彼女の勝利で終了した。

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