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第三十六話

 歩く途中、前触れもなく後ろから目隠しをされ、視界の情報がなくなり途端に聴覚が鋭く脳内をかき乱す。コスギケイの興奮して荒い鼻息や、衣擦れの音、カツカツと響く、暗くて冷たい音。どれもが共鳴しているようで不協和音を奏でていた。鼓膜がゾワゾワとして鳥肌がたつ。


「着いたぞ! お前たちの晴れ舞台に!」


 大声と共に目隠しが外され、視界を刺激する日の光に目を細める。ガヤガヤと人々がごった返しているような音が真下から聞こえた。段々と目が慣れ、目の前を見据えることができた時、映ったのは並べて置かれた二台の首切り台だった。どういうことかとコスギケイを見ると何やら高らかに叫んでいた。


「今からこの者たちの公開処刑を行う!」


 突然のことに耳を疑う。裁判すらしていないのにこの男は断頭するのか。彼女も目を見開き、ありえない、と小声で呟いていた。それらを知らない無知な野次馬たちはヒューヒューとカップルを冷やかすように口笛を吹き、やっちまえと叫び散らした。その様子を見て満足そうに頷いた後、静粛に! と響き渡る大声を出して言った。


「この者たちは国に害をもたらす悪人である! よって今日、この素晴らしい日に斬首式を行いたいと思う」


「どういうことだ!」


「どういうこともクソもない。お前らは今から私が威厳を持って殺してやるのだ」


 唇を歪め、ニヤリと笑った直後そばにいた黒服たちに命令し、僕らは首切り台に寝かされた。


「こんなの卑怯よ! コスギケイ!」


「……卑怯? これのどこが卑怯だってんだ! 国を守る行為の間違いだろ? なぁ、みんな! 私が正しいだろ?」


「そうだそうだ!」


「害悪排除!」


「正義は勝利!」


 コスギケイに扇動された民衆は事実を分かろうとせずただ、巨大な国家権力のもと操られたマリオネット同然だった。喚こうが泣こうが届かない。目の前が真っ暗になった。


「最後に何か言うことはあるか?」


「最後は聞いてくれるのね……。私は、この国の王妃だったけれど国家の転覆を狙った覚えはないわ! 一番の害悪はあなたよ、コスギケイ!」


「このアマ、最後まで私を侮辱するつもりか! ええい! 刃を下ろせ!」


 冷たい鉄の塊が彼女の首に振り落とされた。やめろとも何も言えなかったが、最後まで彼女は笑顔だった。


「坊ちゃんも最後に言うことはあるか?」


「……を……!」


「は?」


「彼女を返せってんだよ!」


「そんなのできるわけないだろ? それが最後の言葉か? 虚しいな」


 目の前で嘲笑しているコスギケイを見上げて睨みつけた。


「彼女が何をした? 害悪はお前だ! クソ野郎が。……してやる、お前を絶対殺してやる!」


「そうかそうか、ハハッ! 活きのいいやつだな! まぁいい……殺れ!」


 直後、僕は生を失った。

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