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第三十三話

「平和を崩したのもあの男。反乱は燃え盛る火のように勢いを増してあっという間に日常を奪っていったわ。私が暮らしていた王宮もすぐ乗っ取られて私は命からがら逃げ出してきたの。国を裏切るようなマネをしたのも事実よ」


 段々と喉を詰まらせてありったけの言葉を紡いでいく彼女は泣いているようだった。嗚咽の混じった涙声が聞こえる。カミャードはそんな彼女を慰めるかのように弱々しく鳴き始めた。


「でも、私は決して裏切ろうとは思ってなかったの。仲間と共に闘おうと武器をとったわ! けれども、王妃という立場にあったからでしょうね……側近の者たちが身代わりとなって、それで……」


 色々な思いに耐えきれなくなったのだろう。とうとう言葉が止まった。顔を見ることもままならないこの状況で、自由が拘束されているために近くで肩をさすることが叶わないことに苛立ち、僕は自由を掴もうと足掻いた。


「キュッ」


「ごめんなさいね、こんな惨めな姿を晒してしまって」


「ううん! 大丈夫だよ。泣くのは当たり前なんだから」


「いつもありがとうね」


「どういたしまして」


 微笑んで返答していると、何か小さなものが歩き回る音が聞こえた。カチカチッと硬いものが当たる音とザラザラとした布の音からしてカミャードが中から出てきたのだろう。直後にフフッ、くすぐったいわなどと彼女が笑った。


「キュッ! キューキュッ!」


「カミャード、どうしたの?」


 いきなりの金切り声に彼女は驚き、続け様に何かあったの? とカミャードに聞いていた。しかし、カミャードは鳴き止まずそれどころかますます大きな声で鳴いた。そして、僕の手首らへんに来てキュッ! と響くような一音を発した。


「キュッ! キューキューキュッ!」


「ちょっと! カミャード、くすぐらないで!」


 そう言って力づくで退かそうと後ろ手に縛られた両手で持ち、移動させようとした。だが、鉄臭く生温い液体が腕を伝ってうまく移動させられず途中で手が滑ってカミャードを落としてしまった。


「キュー!」


「ごめんごめん!」


「どうしたの?」


「手首のカミャードを退かそうと掴んだんだけど、手が滑って落としてしまったんだ」


「そうなの?」


 痛かったと抗議するようにカミャードは鋭い声で短く鳴いた。


「ん?」


「どうしたの?」


「今、カミャードがこちらに来たらしいのだけれど、粘着質な液体で濡れてるっぽくて……」


「キュ?」


 少し間が空いた後、ため息をついて彼女は言った。


「ショウ、あなた……怪我しているでしょう」


「え、してないよ? どこも痛くないし」


「いいえ、怪我をしているわ。この液体、なんだか鉄臭いもの」


「そう言われても……」


 冷や汗をかきながら目線を斜め上に向ける。周囲が暗い事に感謝する。

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