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第ニ十九話

 オアシスを目指して再び歩き出す。ちなみにカミャードは彼女のリュックに入り、身じろぎせず静かに眠っている状態だ。目線を上げて遠くを見ると、オアシスが砂丘の奥にあることがわかった。目的地が見えてきたことで自然に力が漲ってくる。


「オアシスだわ! もうちょっとよ、ショウ!」


 無邪気な少女のようにクシャッと笑いながら彼女はこちらを向いて言った。うん! と明るく頷き、足を動かし前へ進む。彼女の明るい声で目が覚めたのだろう。カミャードがキュッ、キュッ! と鳴き、留め具が外れた蓋から頭を出して飛び跳ねた。


「目が覚めたの? 嬉しい? そう! もう少しだから、頑張りましょうね」


「キュッ、キュッ!」


「カミャードはなんて?」


「オアシスに近いから家族に会えるかもって喜んでいるわ。元々オアシスに住んでたらしいのだけれど、逸れたのでしょうね」


「キュッ!」


「よし! 家族の元に帰るためにいきましょう!」


 声を高らかに、ずんずんと彼女は恐れることなく進んでいった。彼女から三歩ほど離れて僕は歩いた。もう少し近づいて歩きたいが、ポンポン飛び跳ねるカミャードの棘が刺さって危ないから仕方ない。怪我するよりはいいだろう。オアシスに近づくにつれ前から風が吹き始めた。徐々にひどくなっていくそれは僕らを歓迎していないらしい。


「体力を使うわねっ……」


「そうだねっ……」


 できる限り体勢を低くして歩いているが、気を抜いたらすぐに元いた場所へ飛ばされてしまいそうだ。危険を感じたカミャードはキュッと一声鳴きリュックの中に隠れた。吹き付ける突風に負けじと進む。時折ゴミが顔面に向かって飛んでくるため腕で常に顔を守るようにして一歩一歩着実に進んでいく。


「うわっ!」


 その時、突然竜巻が発生した。ちょうど僕らの間に発生したそれは自然からの警告にふさわしく今までとは比べ物にならないほど、風が吹き荒れた。


「大丈夫かしら!」


「こっちは大丈夫! 君は!」


「なんともないわ!」


 凶暴な会話を通して見えなくなった互いの安全を確認する。時々、キューッ! と叫び声を上げるのはカミャードだろう。ともかく彼も無事なようだ。なんとかして、この異常気象を乗り切ったあと、僕らは汗でびしょ濡れだった。


「暑いわ……」


 そう言いながら胸元を開けて手で彼女は仰ぎはしめた。サッと何も見ないように目を逸らす。男子が眺めていいものではない。


「あら? どうして目を逸らしているの?」


「え? ……あ、いや、逸らしてないよ?」


「逸らしているじゃない」


「逸らしてなんかないって。あそこにキラキラ光るものが見えるから見ているだけだよ」


「どこ?」


 口実を作って適当にあの辺と言いのける。ふと周りを見渡すと僕らは木に囲まれていた。溢れ出す興奮を抑えながら、彼女にここはオアシスだよね? と聞いた。同じように周りを見渡した後、キラキラ目を輝かせて彼女は言った。


「ええ! やっと、着いたのね! やっと着いたのよ!」


 リュックから這うようにして出てきたカミャードもジャンプし始めた。


「キュッ! キュッ!」


「ええ、もうすぐよ!」

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