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第ニ十八話

「さっきの虫って……」


「あぁ、あれはサカって言うのよ。普通だったら大人しくて、他の生き物を襲うことはないのだけれど……」


 途端にカミャードがキューッ! と叫ぶように鳴き、プルプルと小刻みに震えた。よほど怖かったのだろう。その様子を見た彼女が棘の生えていないところを撫でて言った。


「よしよし、怖かったわね。もう、大丈夫よ」


「キュッ! キューッ!」


「ええと、そうね……一目散に逃げていったわ」


 言いづらそうに溜めた後、彼女が搾り出したのは嘘だった。彼女によって虫は息絶え、砂化し砂漠の中に紛れたのだ。小声でどうして事実を話さないのかと聞く。彼女は僕の耳元に口を寄せて言った。カミャードが嫌がるからよ、と。


「キュッキュッ?」


「ん? 何でもないわよ?」


「キュー……」


 くるくる回っているカミャードを横目に、彼女を向き生態についての詳しい説明を頼むと、快く引き受けてくれた。


「カミャードは何より平和を愛している種族なの。それゆえに争いや残虐な言葉を忌み嫌っているの。そして彼らは純粋だから事実も嘘も心から信じることができるのよ」


「へぇ……。だからさっき躊躇ってたんだね」


「まぁそんなところ。それにしても変ね……。廃墟兵が動き出したわけでもないし」


「廃墟兵が動き出したら、どうなるの?」


「世界が百八十度変わるの。たとえ話ではなく文字通りのことが起こるのよ」


 先程、大人しい性格のサカがカミャードを襲っていたように大きな生物が弱者や小さな生物を見つけ次第襲ったり、あるはずのないものが出てきたり、逆に存在するものが消えたり……。そういうことが起こるらしい。最悪なことを想像し、冷や汗が出てきた。


「鳥は廃墟兵に打ち勝てないの? この世界を守る番人だからきっと……」


 その言葉が終わらないうちに彼女は首を横に振った。そして、廃墟兵の前では誰しもが力を失うのだと目線を地面に落として震え声で言った。カミャードも彼女を心配するように鳴き始めた。


「キュ……。キュッキュッ……」


「ええ、大丈夫よ。ん? 涙?」


 慌てて彼女は目元に手を当てた。白くて細い指先に生暖かい雫がつく。それを見せまいと拭った後、無理やり笑ってこれは汗が目に入ったのよ、と言った。カミャードは安心したように一声鳴くと、彼女の足元で眠ってしまった。


「きっと疲れたのね。初めてのことだったから」


「え?」


「この子は生まれてから一度も脱皮していないはずよ。ここを触ってみて」


 言われた通り、そっと触るとそれは赤ん坊の手のように柔らかい皮だった。まだ、生まれて間もないのだろう。心なしか優しく、懐かしい匂いを感じた。


「そろそろ脱皮する時期に入るのだけれど、皮を触る限りまだ早そうね」


「あのさ」


「ん?」


「カミャードって大きくなるの? 脱皮って聞いたから、どのくらい大きくなるのか気になって……」


しばらく考えた後、彼女は手を広げて大体このくらいね、と言った。


「そ、そんなに?」


「ええ」


 これが普通だと言うふうに返事をされた。想像よりもかなり大きくなることに驚きを隠せなかった。


「何を食べさせるの?」


「言葉よ」


「言葉?」


「そうよ。言葉を吸い込むことによってこの子たちは大きくなるのよ。酸いも甘いも見境なく吸わせましょうか。もし、飼うんだったらの話だけど」


「飼おうか。ここに置いていくのもよくない気がするから」


 こうしてカミャードは旅の仲間に加わった。本人に了承をとっていないが、まぁいいだろう。

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