表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/41

第ニ十七話

 食べ終わって少し休んだ後、そろそろ出発しようと彼女が言い程なくして洞窟をあとにした。人魂たちは光るばかりで亡骸と共に留まっていた。


「歩くことにだいぶ慣れてきた?」


「うん! コツを掴んだらうまく歩けるようになったよ」


 生まれて初めての砂漠はとてもじゃないが歩けなかった。歩くたびに足が砂に埋もれ、囚われ、もがくことさえ許されなかった。だが、しばらく歩いたからか自信を持って地面を踏み締めることができるようになっていた。顔を見合わせて笑っているとどこからか叫び声のようなものが聞こえてきた。


「キュッ! キューッ!」


「何かしら?」


 彼女は怪訝そうな顔をして辺りを見回した。まわりは黄土色の砂に囲まれていて、所々緑が生えている。近くから聞こえたためその辺にいるはずだが、よくわからなかった。その間にも鳴き声は絶え間なく聞こえていて焦りが先走り探し方が荒くなっていく。


「キュッキュッ!」


 ふと小さな丸っぽいサボテンを見ると、微妙に動いているように見えた。風が吹いていないため、自立的に動いているのは間違いないだろう。その後ろで巨大な蟻の形をした魔物が大股で歩き小さなサボテンに近づいていた。


「キュ!」


「あれ、見てよ」


「あ!」


 それを見るなり短く叫んで彼女は早口で呪文を唱えた。


「デンガバイタル!」


 途端に頭上が真っ黒な雲で覆われ、突風が吹き荒れゴロゴロと嫌な音を立て始めた。大きな虫はそれに気づいたが、小さなサボテンを追いかけるのをやめなかった。虫がサボテンに飛びかかろうと後ろ足を曲げた瞬間を狙ったかのように雷が落ちてきた。それは切っ先を虫の頭に向けて落ちた。貫通された頭には穴が開き、マグマのような粘り気を持った体液がドロドロと重く地面へ垂れ落ちていく。司令塔を失った胴体はピクピクと痙攣したあと砂化して砂漠の一部になった。それを追うように頭も砂化し突風によってかき消えた。


「大丈夫? もう怪物はいないわ」


「キュー……」


 何事もなかったかのように彼女は隅の方に隠れていた小さなサボテンに話しかけていた。サボテンは何かを話しているが僕にはよくわからなかった。


「何を話しているの?」


「今の魔物についてよ」


「君は小さなサボテンの話していることがわかるの?」


「ええ」


 自信たっぷりと言った様子で彼女は頷いた。聞けば、この世界に住んでいるものの言葉はほとんどわかるのだそう。


「そして、この子の名前はカミャードよ。小さなサボテンって呼ばないであげて。コンプレックスらしいのよ」


「そうなんだ……」


 カミャードに目を移して、一言ごめん、と謝るとキュッキュッと言われた。


「全然気にしてない。これからは気をつけて、だって」


「わかった。ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ