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第ニ十六話

 体を包む冷気によって目が覚める。どうやら眠ってしまったらしい。彼女は火の向こうで穏やかな顔をして眠っていた。まだ火は燃えていて、周囲を明るく照らしていた。入り口を見ると、松明が立てかけてあった。僕が眠った後、彼女が一人でやったのだろう。音を立てないように細心の注意を払いながら外へ出てみる。雨は、降り止み東の方から太陽が顔を出そうとしていた。じっと見ていると横で伸びをする声が聞こえた。


「んー」


「お、おはよう!」


「おはよう、早いわね」


 そう言って彼女はまだまだ暗い空を見上げて、目を細めた。


「どうしたの?」


「鳥たちが飛んでいるか、見たのだけれど……闇に混じっているからかよく見えないわね」


「鳥?」


「ええ、一種の精霊みたいなものよ。この世界の秩序を守る番人のような存在なの」


「へぇ……」


 試しに彼女の真似をして目を細めてみたものの、当然のごとく見えなかった。番人というからには強力なものなのだろう。この旅がうまくいくようにと祈りを込めて空を仰ぎ見た。


「早く目覚めたことだし、朝ごはんにしましょうか」


「そうだね」


 洞窟の中に戻り、火にあたる。燃料だった塊はほとんどなくなっていたがそのままの勢いで火は燃えていた。消えることはないと言われたものの心配だったため、入り口付近に落ちていた小枝を集めて火に焚べておいた。


「今日は、ドラゴンの肉とキャリブの炒め物をするわね……クレサンス!」


 途端に火が大きく燃え、火の粉が舞った。パチリと小さな音を立てて、岩にあたり何もなかったかのように消えた。その様子をじっと見ていると段々、美味しそうな匂いがしてきた。甘くてスパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。それに反応して眠っていた胃袋が覚醒し存在感を強調するような爆音を鳴らした。一瞬時が止まり、彼女と目が合う。


「フ、フフッ!」


 耐えられず、彼女は口角を緩ませて笑った。つられて僕も照れ隠しのように笑った。ようやく笑い終わった時には、寒さがどこかへ飛んでいってしまったかのように額から汗がでて心地の良い暖かさが僕らを包んでいた。


「あ!」


 突然、我に返った彼女が小さな叫び声を発した。見ると、美味しそうな匂いを漂わせていた料理はプスプスと灰のような音をたて、焦茶色になっていた。


「美味しそうじゃん! 早く食べよう?」


 雰囲気を壊さないように明るく努めて言うと、彼女は目を丸くしてこちらを向き、これは焦げてしまったのよ。と言った。僕は頷き、食べよう、と繰り返し言った。彼女の謝る姿は見たくないのだ。


「よし、食べていい?」


「いいけど……」


「じゃ、いただきます!」


「……はい、どうぞ」


 無我夢中で肉を喰らう。焦げて苦くなった肉が舌をピリッと刺す。鱗のような焦げが柔らかな身から剥げて独自のリズムを奏でながら口内で泳ぎだした。不快な苦味だが、顔には出さないよう必死で笑顔を貼り付け美味しいよ、と口に出した。心配そうな顔をしていた彼女は緊張感が抜けたように一息ついて笑った。

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