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第ニ十五話

 解体作業が終わったときには体全体が汗でびしょびしょに濡れていた。切り取ったどっしりと重たい塊をそっと持ち上げ、後ろを振り向き人魂と水晶に注意しながら彼女のもとへ向かった。


「おかえりなさい……」


 静かに一言そう言って僕の手元に目を落とし、複雑な表情をした彼女は塊を下に置くように言った。言われた通りそっと下にそれを置くと彼女は呪文を唱えた。


「クレサンス!」


 その瞬間、塊は裂け目から白煙を出しやがてジクジクと音を立ててゆっくりと燃えた。地面にどちらからともなく腰を下ろし炎に手を近づけ、暖をとる。時々、小さく爆ぜて火の粉が舞い上がった。


「なんだか喉が渇いたね」


「サボテンの水ならあるわよ」


「いや、大丈夫。外に行ってくるよ」


 そう言って立ち上がると、彼女も立ち上がり一緒に行くと言った。


「この状況で単独行動は良くないわ」


「でも、火の番は誰がするの?」


「魔法の火だから誰かが呪文を唱えない限り永遠に消えないわ」


「そうか……」


 二人で外に出ると、雨の勢いは弱まっていた。しかし、頭上を覆う分厚い暗雲を見る限りまだまだ続くように思われた。


「雨でも飲むつもり?」


「え、飲んでいいの?」


「もちろん。誰のものでもないから飲んだからと言って怒る人はいないわよ」


 彼女の言葉を聞き安心した僕は降雨を飲もうと洞窟の外に出て体が濡れていくのも気にせず口をできる限り大きく開けた。舌を柔らかく打ち付けながら、時折歯に当たりワンテンポ遅れて喉にすっと通る甘美な味わいを存分に楽しみながら僕は元の世界のことを考えていた。僕が住んでいた元の世界では空から降った雨や雪は口にしてはいけない毒物だった。隣の国から飛んでくる発がん性物質が含まれていたからだ。幼い頃、友達のマネをしていたら母にこっぴどく怒られた。なんでこんなことをしたのか、どれだけ危険かわからないのか。あれほど怒られたのは後にも先にも一度だけだった。懐かしい気持ちになり、思わず呟いてしまった。帰りたい、と。


「……え? な、何してるの?」


「大丈夫、大丈夫よ。きっと帰れるから」


 僕の弱音を聞いた彼女が不意に抱きしめてきた。フワリと布のように柔らかく、大木のように力強く体ごと包み込むように。突然のことに鼓動が早くなる。


「目的を果たしたらきっと帰れるから」


「目的って?」


 質問すると彼女は首を振り一言、こう言った。


「それは自分で見つけないとね」

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