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第二十三話

 朝食後、少しだけみんなでお喋りをして楽しい時間を過ごした。例えば、怪物と呼ばれた王や雪になった双子の話などなど。特に、女王が好きな蛇は面白かった。日が段々と陰るように場が落ち着いたとき、彼女は言った。


「よし、そろそろ行こうかしら」


「お前さんたち、もう行くんか?」


「ええ、ここにずっといたいって気持ちはあるけれど……目的があるから」


 真剣な表情をして言う姿におじさんは何も言えなくなったようで、そうか……と言ってゆっくり頷いた。


「わしゃ魔法使いじゃないけ、お前さんたちを守ることはできんがの、まぁ元気でやっとくれいや」


「元気で元気で!」


「ありがとう」


 立ち上がり、礼をしたあと外に出ようととを開ける。だが、前に進めなかった。後ろからのか細い声を聞いたからだ。


「そ、そんな早く出ていくなんて知らなかったし! べ、別に泣いてんじゃないんだから見ないでよ! ……寂しいじゃん」


「全く、ジャグ様はその口の聞き方を直したらどうです? では……お二人共気をつけて下さいね、さようなら」


 ジャグが突然泣き出したのだ。あのぞんざいな態度からは想像もできないことだったため思わず振り向いてしまったのだ。それに対し、フライパンは最後まで他人行儀な言葉で僕らを見送った。


「また会おうや」


「はい!」


 手を振り、今度こそおじさんの店を後にした。



 歩き始めてしばらくは太陽の機嫌が良かったのか天気に悩むことはなかったが、段々と空が暗くなってきて雨が降りはじめた。小雨のため歩き続けようとしたが雨足は強くなりとうとう雷もなり始めたため、横にいる彼女と話をして近くの洞窟に寄り、雨宿りをすることになった。


「ビショビショになってしまったわね……」


 そう言って彼女は髪をかきあげた。過剰なほど水分を含んだ髪から水が滴り落ちる。水滴の落ちる音は洞窟の奥まで響き渡った。僕は犬のように頭を振り、水分を飛ばした。


「ん? 何?」


「どうしたの?」


「水が飛んできたの」


 彼女にもかかってしまったようでしきりに服を払っていたため謝ると彼女は、ニコッと笑っていった。


「全然大丈夫よ。まぁ……できればもう少し奥の方でやってくれないかしら」


「ごめん」


 奥に移動すると、紫に光る石がそこらじゅうに生えていた。これがあったらお金が稼げる! と思い手をのばす。


「待って!」


 ガラスで作られた矢じりのように鋭い背後からの声は彼女のものだった。いつの間にかついてきていたのだ。


「それ以上それに近づかないで」


「え?」


「危ないから!」


 慌ててそれから身を放すと、朧気に浮かぶ人魂のようなものが物珍しそうな様子で近寄ってきていた。


「な、なにこれ!」


「あれは、死者の魂。もう体が死んでいるということを知らずに話しかけようと生者に近寄ってくるのよ」


 水晶の奥をよく見ると、これまでここに訪れた旅人達だろうか。山のように死体が積み重なっていた。ほとんどが腐り、周囲に飛び散った体液は異臭を放っていたが中には骸骨もあり、光のない眼窩でこちらを睨みつけていた。


「ヒッ……」


「とりあえず、出口近くに戻りましょう。ここにいたら、危ないわ」


そう言って歩きだす彼女の後を追うようにして立ち去る僕らを人魂はボウっと朧気に光り見送っていた。

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