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第二十二話

 無機物同士で起こったゴタゴタのあと、出来上がったのはサボテンの水がベースのスープとドラゴンのステーキ。前、サボテンの水を飲んだとき苦かったことが思い出されこわごわと口をつけたが、意外に美味しくておかわりもしてしまったほど。喉を通りにくかった苦味が心地の良い刺激となって、味にグラデーションをつけている。ステーキは肉厚だったが、口の中に入れるとホロホロ崩れ、あっという間になくなってしまった。しかし、味はしっかりしていてで何か加えたわけでもないのに深みがあり、旨味が凝縮されていた。横で黙って食べている彼女もしきりに頷いていた。


「あんたら、美味そうに食べるのぉ」


「とても美味しくて……。この作り方って教えてもらったり……」


「ん? レシピかの? 全然ええよ! これはの、こうして……」


 嬉しそうな口調でおじさんは、レシピを教えてくれた。とてもわかり易く夢中になって聞いていると、突然袖を軽く引っ張られた。見ると、彼女が困った顔をしてうつむいていた。


「とうしたの?」


「いや……なんでもないけど、その……」


 彼女にしては珍しく歯切れの悪い答えが返ってきた。少しの間をおいたあと、目線だけあげて小さな声でこう言った。


「いつもごめんね。ちゃんとした食事が作れないから……」


「全然そんなことないよ!」


 確かにおじさんの料理は美味しくて、頬が落ちそうなほど。だが、決して彼女の料理が劣っているわけではない。現に昨日の朝食は今まで食べたものの中で一番美味しかった。そう伝えると、横からおじさんが口を挟んで言った。


「そうっちゃ。料理は個性が詰まったものなんやけ比べるもんじゃないっちゃ」


「そ、そう?」


「ああ」


「ムートゥン様の言うとおりです」


 いつから話を聞いていたのかわからないがフライパンもコンロの上で柄を揺らしながら言う。


「エリ・アナ様は自分を卑下しすぎです」


「そうだそうだ!」


 お玉やコンロが放つやじの中もっと自分を認めるべきだの優しく労るべきだのとひとしきり熱く語ったあと喋り疲れたのかフライパンはそれきり黙ってしまった。彼女は、静かにわかったわと言いながら立ち上がりこちらを指さして叫ぶように言った。


「でも、私頑張るから!」


「え?」


 意図がわからず、疑問を口に出すと彼女は大きく深呼吸をして言った。


「いつか、おじさんの料理を超える!」


 自信満々にそう言い切ったあと、周りからパラパラと拍手された彼女はドヤ顔をした。ちなみにフライパンや、蛇口は柄を動かしたりハンドルを上下させたりすることで拍手していた。野次馬精神なお玉は奇声を発しながらカンカンとお玉の部分で物を叩き、コンロはカチカチとつまみを動かしていた。



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