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第二十一話

 中に入ると、おじさんは急に真剣な顔をして目をつぶり、呪文を唱えた。


「エカヤチリール」


 その瞬間、突如周りに掛けてあったフライパンやお玉、蛇口にコンロなどが動き出した。驚いていると、これは動かないものに命を宿す魔法を唱えたのだと教えてくれた。普段喋らないからか、道具たちは吐き出したいことがたくさんあるそうでとてもお喋りだった。


「あんた、見ない顔ね」


「え?」


「どこ向いてんの? こっちよこっち!」


 視線をあちこちに向けていると、業を煮やしたのか蛇口が水を出したり、止めたりしてした。


「はぁ……やっと気づいたのね。あたし、ジャグっての。これからよろしく」


「あ、えっと僕……」


 と、名前を言いかけると知ってるから結構と言われ遮られた。なかなかわがままな蛇口で少しだけ腹が立つ。言い返そうとするとおじさんがジャグを向いて怒鳴った。


「こりゃ、ジャグ! そんな口聞きよるとまた動かなくするけんね!」


「ちょっとー、おじさん冗談だってばぁ。からかってみただけなのよ」


 先程の態度とは百八十度変わり、ジャグは猫のように甘ったるい声を出しおじさんを牽制するように言った。おじさんは、ため息をついて僕を見るとすまんのぉ、と謝ってきた。


「ありゃぁ、口が悪うてのぉ……根はいいやつなんよ」


「はぁ……」


 ジャグもそうよそうよ! とわざとらしく言い、勘違いしないでよねっとツンデレキャラの王道セリフを口に出す。その様子を見て、彼女はクスクスと笑っていた。


「どうしたの?」


「ごめんなさい、あまりにも面白くて……」


「あんたもいたの? 気づかなかったわ」


 おじさんの小言が終わったあと、手のひらを返したように嫌味を言いのけるジャグにいまだ笑っている彼女。相性的には悪いのかもしれない。


「あの……」


「え?」


「すみません、私です。フライパンです」


 ここで、今まで何も言わなかったフライパンが丁寧な口調で喋り始めた。見ると、振り子のように動いていた。


「あなたはえっと……ショウ様ですね? ムートゥン様から聞きましたが、長い旅をしているそうですね。ここでゆっくり休んでください」


「は、はい。ありがとうございます!」


「いえいえ、とんでもないです」


 そして、一息吸ったあとジャグについて話し始めた。


「ジャグ様は大変、わがままな方です」


「はぁ? ちょっとあんた何言っちゃってんのよ」


「そして、ずっと意地悪です。ここに来てからずっと人の悪口しか聞いてない気がします」


「いいかげんにしなさいよ!」


 激しい口調で怒りをぶちまけるジャグの言葉にはお構いなしに、流れるような批判をしていくフライパンに感心して思わずほぉ……と言ってしまった。それに対して、更に怒ってしまったのかとうとうジャグは水を止めてしまった。それを見たおじさんが仲裁に入り、なんとか事が大きくならずに済んだがそれ以降もジャグは小声で文句を言っていた。

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