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第十八話

 しばらく続いたやり取りのあと、彼女は勢いよく起き上がって、時計を見る素振りを見せた。どうしたのだろうと気になり声をかける。


「昼か夜か気になるの?」


「ええ。危険が少ないとはいえ、ここは砂漠の中よ? 何かあったら困るじゃない」


「そうか……ムートゥンさん、今って何時かわかりますか?」


「ん? ……ああ、今はちょうど夜から昼に変わった頃やけど……何かあるんか?」


「いや、特に何もないですよ」


 僕が愛想笑いをしながらそう言った直後彼女は頭を掻きむしりながら大声で叫んだ。


「え、どうしたの?」


「どうしたのじゃないわ! これじゃあ動けないじゃない!」


 つまり、自分が倒れて、寝ていた無駄な時間を生んだせいで旅が進まないと言いたいのだろう。大きな目から宝石のような涙をポロポロとこぼし、怒っている彼女を見て、おじさんはまぁまぁ、と彼女の背中をさすり落ち着かせようとしていた。


「そねぇに落ち込まんでええよぉ。嬢ちゃんが疲れちょったのは事実やろうし、何より自分を大事にせにゃぁ」


「で、でも……そのせいで長引いたのよ」


「気持ちは焦っちょるかもしれんけど今は休みんさい、な? 明日からまた動きゃぁええんじゃけぇ」


 ニッコリと笑っておじさんが言うと彼女は、小さく頷いた。それを確認したあと、おじさんは、僕を見て年相応の落ち着いた口調で話しかけた。


「そういやぁ、ショウ。お前さん、ちぃと着替えたほうがええんじゃないか?」


「え?」


 慌てて、自分の姿を確認するとまっさらなワイシャツは古着のように黄ばみ、隠せなくなった悪臭を放っていた。また、履いていたズボンには砂漠の砂で埃っぽく、咳き込んでしまった。だが、僕自身お金がない。そして、お金になるものを持っていない。気遣ってくれたおじさんには悪いが、ここは丁重に断っておこう。そう思い、口を開きかけると、心配しなくてもええよと言われた。


「わしは、服屋じゃ。商売人じゃが困っている者を放っておくわけにゃいかん」


 ほれ! と言って手に押し付けられたのは、なんとも地味な服。あちらこちらに補強された跡が残っていた。だが着てみると案外、通気性に優れていて、質感もサラッとして過ごしやすい服だと感じた。奥で着替えて出てくると、ニコニコしたおじさんは大きく頷き、右手を差し出した。……お金を求めているのか? そう思い、静かに土下座して言った。


「ごめんなさい! 今、手持ちがないんです。……だからこの服、」


「何言っちょるん?」


 驚いておじさんを見ると、キョトンとしていた。三秒ほど互いに見つめ合っていると、不意に隣でプッと笑いが漏れた。


「ショウったら、ムートゥンがお金を取ると思ったの?」


「え、そうじゃないの? 右手を差し出されたからてっきり……」


「あのね、商売人だからって何もものを売ることだけが仕事じゃないのよ? 買い取ることだって仕事の一つに入るんだから」


「なるほど……」


 うんうんと納得する僕を見ておじさんも言う。


「嬢ちゃんの言うとおりじゃよ。金が無いのは承知の上じゃ。ほれ、さっき着とったもんこっち貸し」


「お、お言葉に甘えて」


 そう言って渡すと、おじさんは洗濯をしにどこかへ行ってしまった。

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