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第十五話

 マーティンに軽く挨拶したあと、武器屋をあとにして服屋へと向かった。遠くから見たときは並び立っているように見えたが、実際にはここから大分距離があった。今更だが、彼女の体力には尊敬する。この長い距離を走って往復したのだから。


「疲れてない?」


 心配からそう口に出すと、大丈夫と言われた。しかし、体は言葉に反してすでに限界を迎えている。その証拠に、体のふらつきが出始め、時々なにもない所で躓いていた。いくら調査のため毎日歩いているとは言っても、彼女は女の子だ。幸い剣は背中に担いでいるため前は空いている。この状況だと、彼女をお姫様抱っこして運ぶべきだろうが流石にそれはできなかったため、彼女の背負う大きなリュックを取り上げた。ちなみに弓矢は僕と同じように背負うスタイルだったため取り上げることはしなかった。すぐさま驚いた顔をして彼女が振り返り、返してほしいというふうに手をのばすが、なぜだか無性に意地悪したくなって手の届かない所へリュックを持ち上げる。少しの間、僕と彼女の間でリュックの持ち主は誰でしょうゲームが続いたが、やがて諦めたように前を向かれた。


「人の荷物を取るのが好きなのかしら」


「いいや」


「なぜ取り上げたの」


 それには答えずリュックを持ち直し、歩み始めた。それにしても……このリュック、とても重い。一体何が入っているのだろうか。ドレスを換金したにしては、重い。金貨同士が中で擦れて綺羅びやかな音を鳴らすのに加え歩きの振動で揺れた中からポチャンと液体のような音が聞こえる。続いてガタゴトという箱の音も。中を覗いて確認したいがあくまで他人の荷物。いわばプライバシーの領域であるため、本人の許可なしに触れることはできない。なんとかそれを実行できないか考えていると前のほうでドサッと鈍い音がした。見ると彼女が仰向けに倒れていた。慌てて駆け寄る。


「ねぇ!」


 本当は大丈夫? 聞こえる? などと言いたかったがいざ口から出てきたのはたったの二文字だった。普段から白い顔はさらに青白く、呼吸が浅く短くなっていく。このままではいけないとあたりを見渡してみると、遠く感じた服屋がいつの間にか近くなっていた。それでも、あと半分は歩かないとつかないが一刻を争う事態に躊躇いはいらない。体の下に腕を伸ばし、お姫様抱っこをする。抱えてみるとびっくりするほど彼女は軽かった。まるで鳥の羽を持っているかのように。下に垂れ下がった腕、首は力を入れると折れてしまいそうなくらい細く、心配になった。走ることは難しそうだったが早足で服屋に向かった。不安と焦りから段々とペースが上がり、息も苦しくなったが構わなかった。僕の一番恐れていることが現実になりそうな予感がしたからだ。

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