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第十四話

 お金がないのにどうやって武器を買うのか。救いを求めるようにマーティンの方を向くが、まけねぇよ、とのこと。どうしよう……。隣でスッと彼女が顔を上げた。


「ねぇ、それなら物々交換しない?」


「へ?」


 あまりにも素っ頓狂な提案に思わず目を見開いた。まけないと言っているのだからそれは、流石に無理だろう。そう思っていたが、意外とマーティンは乗り気だった。


「なぁ兄ちゃん、今持っているそれ、こっちによこすならこれはタダにしてやるよ」


 そう言って指さしたのは、僕のエゴで朝から腕に掛けるようにして持ち歩き、クタクタになったスーツだった。まぁこれなら……とマーティンに手渡す。それと引き換えに剣が手に入った。なんだか得した気持ちだ。一方の彼女はというと、忽然と姿を消してしまった。会計棚には置き手紙ならぬ置きメモが置かれていて、読むと隣の服屋に行ってくるから待ってて、とのこと。マーティンにそれを手渡すと、大きなため息をつき店の奥へ入っていった。しかし、すぐに出てきた。白いマグカップを持って。


「おらよ!」


 置かれたコップには茶色い液体が八分目まで入っていた。飲もうと口をつけるとストップと静止された。忘れ物したわ、と言いながらマーティンはあろうことか白い粉末を中に入れたのだ。途端に嫌な想像が脳内で膨れ上がり、冷や汗が額に滲む。


「え、まさか覚せ……」


「馬鹿か、そんなわけ無いだろ! いいから早く飲め」


 マーティンの目力に圧され仕方なく、グイッと煽って中の液体を飲み干す。まるで囲炉裏の灰をそのまま飲んでいるかのように苦味が強く、吐き出しそうだったが三口目をこす頃には不思議と甘味を感じた。


「これは……?」


「薬だ。旅の疲れが溜まっていると思ってな」


 僕の目を見ながら独り言のように呟いた。少なくとも危ない人ではなさそうだ。心遣いに小さく感謝の言葉を零す。

そのとき、ドアが開けられた。見ると、息を切らした彼女がそこにいた。膝に手を当てて肩で呼吸をするあたり、ちょっとやそっとの距離に服屋はなかったのだろう。そして、責任感の強い彼女のことだから走ったに違いない。崩れ落ちそうになる彼女を支えた。


「よぉ、帰ったのか?」


「えぇ。ふたりとも仲良くしてた?」


 マーティンは愛想よく返事をし、僕は言葉なく頷いて返した。そう、と言ってニコリと微笑みながら彼女はリュックの中から金貨を取り出しマーティンに渡した。


「どこから……?」


「服を売ってきたのよ」


 そう言われてみれば、明らかに朝と服が違う。朝はスカートを履いていたが、今はボロボロで今にも穴の開きそうなズボンを身にまとい、上半身には麻のシャツに茶色のベストを羽織っていた。その長い髪の毛がなかったら美少年だと見間違えるほど。しかし、なぜボロボロのズボンにしたのだろうか。もっと高価なものもあるだろうに。そう言うと、あとから必要なものを無駄にしたくないと言われた。それにしても……。


「お二人さん、仲のいいところ悪いが、注文の弓だ。気をつけて使えよ」


 突然マーティンが、首を伸ばして間に割り込んできた。途端に恥ずかしくなり他の武器を見に行くふりをしてその場から離れた。この気持ちには蓋をして。

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