第2話 闇ギルドとドラゴン一族
広い廊下をコツコツと歩いている、向かっているのはダイ様の執務室。
ここに来て3年、エイミ様とダイ様は、誕生日を知らないあいに名前と誕生日(ファームに来た日)をくれました。
ここでの仕事は、朝起きて4人部屋と廊下の掃除、朝食の後、幼児室で絵本の読み聞かせ、学習室での計算問題か図書館での本読み。その後の昼食(野菜とハムを挟んだパンと容器に入れた牛乳)は、腰のバッグに入れます。
午後の仕事は、6才は近隣への配達・7才は、それよりも遠い配達・8才は、一番遠い配達と山への配達。そして必ずやるのが、夜間の配達です。
そのため、途中でお腹が空くので休憩しながらパンを食べます。当然、夜間配達の前に食事は出ますよ。
いつも天気が良いとは限りません。急に大雨になれば、近くの家か小屋に入って雨宿りします。あい達が困った時に入れる様に、どの家でもカギはかかっていないので自由にはいる事が出来ます。食卓にお菓子や飲み物を置いてくれる家もあります。
同室の子達があいの目がとても羨ましいと言うのです。
あいには、猫族の血が入っていると言っています。薄暗い場所を何度も行き来して『猫目』と言うスキルを得るそうですが、あいは、種族特性スキルだからいいよねと言われます。
『猫目』は月夜で動け、『夜目』は星空で動ける、さらに『暗視』は暗闇でも動けるとか。何度もやった夜の配達は、いつしか蛍が道を教えてくれるようになりました。
それが『暗視』だと言われ、魔素が見えているのだと教えてくれました。『魔素感知』というスキルだそうです。食堂で『暗視』スキルの習得を祝ってくれました。それほど難しいスキルなのだそうです。
その時、警告を受けました。『魔素感知』は、暗殺者の必須スキルなのだけれど、それを過信して命を失う事がある。暗殺者殺しと言われるスキルがある『魔素吸収』。自分の周りの魔素を喰らい『魔素感知』出来ないスキルだと言う。
あとは、『気配感知』と『気配阻害』を覚えれば、立派なアサシンだと言われました。それも猫族ならさほど難しくなく覚えられるとか・・今までイジメられてきたのが嘘のようです。
実は、気配感知と気配阻害・・やり方は教えれていました。それを実際にやった事は秘密です。何故なら。
ある日配達していると、背筋に震えがしました。風邪にしてはおかしいなと、あたりをみると狼が畑を荒らしています。
気付かれない様に・・腰を低くして近くの作業小屋を目指します。近づいたら、バックから半分残したパンを道に置いておきます。
小屋で服を脱ぎ、窓から放り投げ閉めてジッと様子を見るのです。その時に、『あいは道の小石。今は天気がいいのでポッカポッカ。あいは小石。』と小石になります。
狼が近付いて来ます。あいの服の匂いを嗅ぎ、小屋の周りをぐるぐると回ります。それでもあいは、小石なのです。
群れの一匹がパンに気付き、一飲みに・・食べ物に気付いた狼が集まりますが、もうありません。もっとないかと、探しましたがもうないのです。
あいの匂いへの興味はなくなりました。群れは、食料を求めて去ってきました。あいが裸で震えていたなんて秘密です。
パンを半分残しておくのも、服を脱いで匂いを他の場所だと思わせるのも先輩達から教えてもらっていました。
警告してくれた先輩は、自分のナイフを取り出し剣の構えを取ります。
「見てごらん。」
ナイフに蛍がまとわりつき、次第に固まってくる・・・まるで、ナイフが伸びたようにロングソードが出来ていた。
「これで終わりだと思うだろう、実は次があるんだ。」
ロングソードの刀身が光り収束する・・レイピアとなった。
「魔法の『氷結』か『爆炎』が欲しいの。高位魔法らしいけど、先端に付与させて心臓を狙うの。」
あいには、まだまだ無理の様です。
「あなたに、『魔素操作』スキル習得の方法を教えてあげる。手のひらを上に向けて、蛍をそこに集めるのよ。あなたなら出来るわ。」
あいにまた目標が出来ました。
もうダイ様の執務室です。
ノック音
「お入り。」
「やあ、あいちゃん。誕生日おめでとう。
ファームでは、6才から仕事を始めて、9才でこれからの仕事を選べる。間違っていると思ったらいつでも変更出来るし、ここから離れて町に住む事も自由だ。
ファームでは、葡萄から葡萄酒を作って売っているのは知っているね。その他にも、大勢の人が食べる食料。その農具、狩り用の武器や防具も作ってもいる。大きくなったファームを運営するスタッフも働いている。
ファームから外に出たいなら、行商人も出来る。ファームの行商人でも、商業ギルドの行商人でもなれるよ。店をやりたいなら行商人がおすすめだね。
あいちゃんは、どんな仕事をやりたいのだい?」
誕生日の前、幾人もの先輩から誕生日の話を聞いていました。あいは迷いません。
「先輩からアサシンという職業があると聞きました。暗殺者という意味だそうです。あいは、人を殺したい訳ではありません。でも、・・許せない奴がいます。もし会ったら仕返ししたいです。その為の力が欲しいです。」
「その話は、聞いている。でも、それを選択したなら引き返せなくなる。もう一度考えなおしたらどうだい?」
「あいは・・・何度も考えました。でも・・・許せない。」
「そうか・・では、覚悟を決めてお聞き。ここからは、引き返せないよ。誰にも話せないし、うかつに話したら命が危なくなる。それでも、いいのかい?」
「はい、覚悟は出来ています。」
「かなり昔から『闇ギルド』というギルドが出来ていた。最初は、王族や貴族が雇っていたアサシン達が連絡用に作ったギルドだ。
それが大きくなり、ギルドに不利にならない事なら、どんな依頼も引き受ける様に変わった。
闇ギルドは、ファームも関係するのであまり詳しく教える事はできない。
闇ギルドに関係していたある人が、自分で組織を作ったのだけど。その組織は、ギルドでは無い。その人は、互助会みたいな組織だと言う。『誰かが困ったら無償で援助する』これが、活動の一つ。
もう一つ、大事な事がある。その人は、弟子を取らない事で有名な人なのだ。弟子を取ったら全てを与える、と言うのが口癖だった。その人が弟子を取った、そして全てを与え引退した。今、組織は受け取った弟子の為に動いている。
アサシンになるには、闇ギルドか組織に入るという道がある。」
「ダイ様は、闇ギルドの一員ですか?それとも組織の方ですか?」
「私を含めたファームは、闇ギルドとは直接関係が無い。どちらかというとファームは、闇ギルドのお客という関係だ。組織は、ファームにかなり影響を与えている。君がここに来たのも、組織が関係している。」
「あいは、組織の一人となれるようお願い出来ますか?」
「分かった。君は、表より裏の仕事がいいと思う。」
「裏ですか?アサシンの組織ですか?」
「いや、説明が足りなかった。表と言うのは、主に護衛を任務とする仕事だ。力を象徴する『ドラゴン』の紋章を持っている。裏と言うのは、アサシンも含まれるがそっちより情報収集が仕事になる。知識を象徴する東のドラゴン『龍』の紋章をもっている。紋章を貰うと『ドラゴンの一族』として迎え入れられる。」
「あいは、裏の仕事がいいです。きっと、あいつに会える事が出来ます。」
「そうか。では、君の仕事の説明だ。」
「これからファームのスタッフとなり、帳簿を手伝い会計を覚えてもらう。修得したなら行商人の手伝いをしながら、商売のやり方、各地の情勢収集、貴族との付き合いと情報収集、そしてアサシンとしての基本的な修行をやってもらう。」