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第1話 猫の目を持つ子

 あたいが遊んでいると誰かが言った。

 「あいつ、捨てられたんぜ。」

 「知ってる、猫だもんな。」

 「そうだよ、夜になるとキラッって光るんだぜ。」

 「怖いよね。」

 「あんなやつ、なぜ育てているんだろ?」

 「同じ年の子、亡くしたんだって。」


 あたいを嫌う子供達がいた。そんな事を気にしない子もいる。親の顔を知らない子もたくさんいた。この時は、本当の親に会いたいと思っていた。


 そんな浮浪児を襲う者がいる。幼児をあつかう娼館に売るのだ。

 「逃げて。」

 「キャー」

 子供達が逃げている。追いかける男の目が怪しく光る、捕まると騒がれないように猿ぐつわと腕枷をし、首にロープをかけ引きまわす。

 ついてこれない子供などかまっていない、ズルズルと引きずられイタイイタイと涙を流し泣くだけ。


 その中に猫の目を持つ子がいた。昼間は、普通の瞳なのだが周りが暗くなるに従い瞳が細くなり、光線の加減で光ったりもした。気味が悪いと言われ普段は一人で遊んでいた。

 突然悲鳴が聞こえ、逃げ叫ぶ子達の姿が見える。

 慌てて逃げる、しかし、同じ年頃の中で敏捷で素早い子でも、大人が何人も追いかけては逃げるは出来ない。男達は、逃げられないように周囲を囲っては捕まえ引きずって行った。引きずられながら男達を睨む、その中に頬に刀キズのある男がいたのを忘れはしないだろう。



 連れてこられた娼館では、ケガが治る間肉付きをよくするため高脂肪な食事が出る。骨と皮だけの幼児などに価値は無い。プクプクな体が要求されるのだ。

 そんな事を知らない子達は、毎日の豪華な食い物に満足し、食っては寝る生活を送っていた。


 その子は、変わった目を持っていたがとてもキュートで愛らしい顔をしていた。幾日か経ち、肉付きが良くなるとお呼びがかかった。

 全身を洗われ、香水を振りかけられ、透けるシルクのドレスだけを身にまとい・・重い扉の部屋に入れられた。中央だけ淡い朱色が燈る部屋には、暖炉のマントルピースと大型の丸いベットに腰掛けた大人がいた。


 「なんだ、そんな所に立っていないでここに来い。印をつけてやる。」

 大人にしては背の低く、ギトギトと油の乗り太った上半身裸の男がこちらを睨んでいる。


 「さっさと来い。」

 どうあがいても逃げれない、幼い子でもそれくらいは理解できる。おずおずと近づいていく。

 「さっさとしろ!」

 男は、手を掴み引き寄せるとベッドに押し倒す。

 「これから俺の玩具だという印を付けてやる。」

 あたいの腕に両足を乗せ、両膝で顔を固定すると・・アイスピックを取り出し、あたいの右目の下に突き刺した。あたいの絶叫が部屋に響くが、誰も来てくれない。

 「そうだ、泣け叫べ。誰もここには来ない、絶望しながら俺の玩具になるんだ。」

 恍惚とした男が、あたいのドレスを引きちぎり、ヌメヌメとした舌が体中をなめまわす。

 「ああ、いい体だ。」

 よほど気にいったのか、平手で体を叩きながら何度も何度もなめまわす。

 「いや、やめて、いやいや。」

 いくら叫んでも泣いても、男はとても気に入ったのだろう機嫌よくなめまわす。


 体がベタベタになる頃には、抵抗する気力も失せぐったりとベットに横たわる。

 「なんだ、もう終わりか。それでは、俺の物になった事を体に教えてやる。」

 男は立ち上がると、壁のマントルピースから長いウインナー?を持ってきた。食べ物でない事は、その材質で分かる。乾いてキラキラと光るけど、木で出来てるのは間違いないだろう。

 店では、火事にならないように、籠に入れられた幾つもの魔石が赤い光を放ち熱を出している。魔石は、触っても火傷しない程度にしか熱くならない。それでもその中に入れられば、かなりの熱さになっている。


 「こいつでお前が俺の物だと教えてやる。」

 ギラギラした目で迫って来る。


 そのソーセージ?は、赤黒い色に染まっている。何に使うのか分からないがあたいには、とても危険な物に見えた。

 いくら叫んでも誰も来ないと思い知らされていた、暴れるとその度にひどく殴られる。逃げようとしても、この部屋の中では無理だしもう体力も無い。

 どうしようと手を動かすと、ピックに触れる。思わず掴む、ひんやりとした金属の感覚が指に伝わる。見つからないように素早く腰の下に入れる。


 以前、遊んでいた男の子の股に木がぶつかり大泣きしているのを見た事がある。そばに居たおとこのこに聞いてみると、「男の大事な物があるんだ。」と言っていた。そこは男の急所で、軽くぶつかっても泣くほど痛いのだと言う。

 いくら急所でもあたいの力では、蹴っても殴っても大したダメージにならないだろう。


 それならばと。


 男が近づく。その子が動かないように、腹に手を伸ばし覆いかぶさろうとしたところで、蜘蛛の様に手足を動かす。スルスルとベットの淵から滑り落ちると、男の股間が目の前に来た。


 ピックをきつく握ると、思いっきり突き刺す。


 「ギャ!」

 股間に赤いシミとおしっこの匂いがたちこめる。

 『ドタッ』

 床に倒れると、息も出来ないようで 体をくねらせのたうち回る。

 顔がみるみるうちに真っ青になり、口から泡をだしピクピクと痙攣しだした。


 あたいは、部屋の隅で膝を抱え小さく震えていた。



 静かな時間が流れていく。


 あたいは、ただ扉が開くのを待っていた。


 『カチャ』

 軽い金属音の後、扉が微かに開く。 

 「お客様、そろそろ時間ですがよろしいでしょうか。」

 誰も返事などしない、ただ静かな空間があるだけ。

 「お客様?どうかなさいましたか?失礼しますね。」

 従業員が入って来る。


 「お客様、大丈夫ですか?」

 ベットの脇で猫の様に丸くなって倒れている男、股間には赤と黄色のシミ。部屋に充満している異臭。

 「大変だ、治療士を呼べ。俺は、支配人を呼んで来る。」

 従業員が慌ただしく走り去ると、あたいは部屋を飛び出す。


 店中が次第に騒がしくなる。怒鳴り声のない方向に、薄暗い通路を走る。


 いく先に開いたドアが見える。中を見ると便器が並んでいて、その上の窓が開いていた。器用に便器をよじ登り、窓から外を見る。


 夕方にまだ早いくらいだろうか、日はまだ高かった。下を見ると土、踏み固めていないようだ 覚悟を決めて飛び降りる。

 両手両足、腹を打ったが歩けない程では無い。


 土をはたき前の塀に移動する。ここは裏なのだろう、あまり手入れしてない草木が程よく体を隠してくれる。

 塀を右に行けば、明るく手入れされた場所にいくようだ。人の出入りも多そうだ。


 左に向かい歩き出す。ドレスは、あいつに引きちぎられたので 今は裸。草や枝、葉でさえ皮膚を斬り薄く血がにじみ出す。


 しばらく歩いていくと、古ぼけた木の門がある。今は閉まっているが、人のいる様子は無い。どうやって開けようかと考えていると・・

 『ドンドン』

 門をたたく音。


 店から男が出て来て門前に立ち、来訪者と2~3言話していた。すると門を勢いよく開け、来訪者と一緒に店に入っていった。


 あたいは、周りにだれもいないかと 様子を見て・・門から外へ走り抜けた。門の外には、鼻息の荒い馬と暇そうな御者が一人。あたいには、気づかないみたいだ。



 それから道を離れ、林に入って逃げる・・出来るだけ遠くに逃げる・・・。



 体中傷だらけになって、草むらで丸く横になっていた。ここは大きな街道脇、誰かあたいをここから連れ出してくれないかと淡い望みを持っていたが、誰もあたいには気付きもしない。幾台もの馬車が走り去っていった。


 もうあきらめた頃、一台の荷馬車が止まった。荷台の中から初老の男が降りると、あたいの脇に立った。

 「やあ、裸でどうしたんだ?」

 「・・・・・、逃げて来たの」

 その男、私の体から事情を察したようで。

 「これからどうするんだ、まだ逃げるのか?」

 「もう動けない。誰か拾ってくれるかと思っていたけど・・・。」

 「こんな草むらに入っていたら、誰も気付かないよ。・・・そうだね、君に聞きたいのだが。君は『生きたい』か?」

 「生きたい?そうね、あたいはいらない子。どうなってもいいけど、あいつだけは許せない。あいつに仕返ししたい、もっと強くなりたい。」

 「俺の目を見てみろ。」

男は、その子の本心を覗き込もうと目をみる。


 「おや、おまえ面白い目をしているな。」

 あたりは、日も沈み始め薄暗くなっていた。

 「あたいの目、猫の目だって。」

 「どこに住んでいたんだ?」

 「あたいみたいな子がたくさんいる場所。」

 「スラムか?おまえの住んでいた場所に送ってやろうか?」

 「あそこに戻っても、また連れ戻される。」

 「そうか・・・それじゃ、ファームに行くか?行けば仕事が出来る、文字も教えてくれる。」

 「そこでもひどい事をされる?・・・・そんな事はないのね、でも怖い・・・でも、このままここにいても生きていけない。・・・・分ったわ、そのファームに連れて行って。」


 それから近くの町まで、荷馬車に乗せられて行った。あたいは、毛布で包まれ荷台で震えていたわ。


 もう辺りはすっかり暗くなっていた。そこは、荷馬車が沢山集まっている場所だった。男は、あたいを腕に抱えると明るい建物に入っていった。

 「親父、悪いがここに治療士はいるか?それと、ボロでいいがこの子の服が欲しい。」

 「娘が初級クラスの治療が出来る、その娘のお古でいいならあげよう。」


 「私が治療していいの?この顔のキズは、治療出来ないわ。それに一旦治療してしまうと、後で傷を治すのが困難になるわよ。」

 「このままに出来ないだろう、もう化膿が始まっている。やってくれないか。」

 「分ったわ、こんな可愛い顔なのにごめんなさいね。」


 あたいが起きた時、その荷馬車は出た後だった。

 「お嬢ちゃん、これを首にかけるんだ。あの人が作ってくれたカードだ、これがあんたをファームに送ってくれるよ。」

 朝食を食べていると、男の人が近づいてきた。

 「この子か?」

 「ああ、途中までお願いするよ。」


 それから何台か荷馬車を乗り継ぎ、ファームにたどり着いた。

 そこには、山のすそ野の大農園と山の中腹まで広がっている葡萄畑があった。


 「やあ、はじめましてだね。俺はダイ、こっちはエイミだ。今日から君には、ここで文字を覚えながら仕事をしてもらうよ。嫌になったら、いつでも町まで送ってあげよう。君の名前と年は?」

 「あたいは、いつも『おまえ』と言われていたの。年は知らない、でも育ててくれた母は『今年で6才だね。』って言っていた。」

 「そうかい。じゃあ、名前がいるね。」

 「つけてくれるの?それとこれは何?みんな見ると何も聞かないで乗せてくれたの。」

 あたいの胸のカードを差し出す。

 「これかい。『この子をファームに連れて行ってくれないか。ージャックー』と書いてあるのさ。」


 その日からファームでの生活が始まった。


 あたいの目は、猫の目 いらない子

     ・・・・でも、ここはいごこちがいい。生きていいかな。

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