8話 地に足を付けて
家に帰ると鋸と金槌、釘を持って裏庭に出て作業を始める。
構想は出来ているけど荷車にどう取り付けるか迷ったので、先ずは仮に地面に寝かせた状態で作って全体像を確認したいので二輪ヴァージョンを作ってみることにした。
車輪を前後に二つ置いて…「幅は1メートルぐらいでいいかな?…車輪と車輪をまっすぐ木で繋げると意味がないから…前輪の部分から木を上に伸ばして…後輪から前輪の軸の部分に向かって軸を伸ばす…と」ぶつぶつ言いながら作業を続けていく。
僕の足の長さがこれぐらいだから…後輪から伸ばす棒の高さはこれくらい?
取り合えず適当に決めて材料を切って組み立てていく。
前輪部分の加工として、…車輪の半径より少し長い棒を前輪の車軸に組み付けて、そこから上は(削るのは面倒なので)あまり太くない丸太をそのまま使用する。
2本の棒を上で1本にまとめることを考えると見た目はフォークみたいみたいだから、とりあえずフォーク(仮称)でいいか…
フォークの間に車輪を挟んで…車輪を繋ぐ車軸は取り合えず「ダボ」で止めといたらいいかな?)など、いかにもやっつけ仕事という感じで進めていく。
フォークに繋げる感じで後輪部分から木材を持ってくると、フォーク部分と後輪から伸ばす棒がガタガタ動かないように前後を挟むように仕切りを付けて…これでいいかな?
そのまま立ててみるとなんとも不格好な「へ」の両端に車輪が付いただけみたいなモノが出来上がる。ここに椅子を取り付けて取り敢えずの完成と考えていたのだけど、前輪を動かす棒が握りにくいし、バランスがとれないことが判明。
取り敢えず肩幅程度の木の棒をフォークの上に丁字になるように付けて固定するといい感じに#ハンドル__握る部分__#が出来たので、後は跨ってみて椅子の場所と高さを決める。
ここで椅子の大きさやカタチをどうするか全く思いつかなかったので、面倒だからと板バネをそのまま椅子にすることにした。
「これで取り敢えずは完成かな?跨ってみた感じ前後に車輪があるし、動いたら分からないけど横は両足で支えてるから安定感はあるな。慣れるまで難しいかも知れないけど下り坂とかで乗ってみると面白いかも」
その日はそこまで作って終わり、晩御飯の時に師匠に作業の進捗状況を聞かれたので「先に簡易版として作ったのですが、思ったよりも面白いモノが出来ました。相談に乗って欲しいこともあるので、あとで時間を頂けますか?」と、キラキラした表情で伺いを立ててみると、師匠も気になったのか「いいぞ」と楽しそうに了承してもらえた。
夕食後、裏庭で日中作った人力二輪車(仮称)を師匠に見せると師匠は興味深そうにソレを観察する。
「アレン、これはどう使うのだ?」
師匠がそう聞くのも当然で、そもそもこの世界にはまだ車輪が前後直線に2つ並んだ乗り物という発想はないのだ。
現に一本の車軸の左右に車輪を取り付け、これを二輪車とするならば、これはだれでも考えることで、左右に車輪のついた二輪車は実際に存在している。目の前にある荷車などがこの類いになる。
「師匠、これはここに跨って足で地面を蹴って進むように作りました?…作れました?思い付きました。
‥‥一応これは仮で作ったもので…本当は後輪の部分が荷車になっていて三輪車の予定だったのですが、荷物のことを考えなければ意外とこのままでも大丈夫かな?とか思っているのですが、…どう思います?」
「前と後ろしか車輪がなければバランスが取れないじゃろ?そのための三輪制だったのではないのか?」
「それが…前と後ろにしか車輪はありませんが、横は両足で支えるから意外と安定感はあるんですよ。問題は下り坂とかで両足を地面から離した状態で進むときですね。
慣れれば問題ないと思いますが、最初は難しいでしょうね。座ってみたら分かると思いますよ」
そう言うと、師匠に二輪車を渡す。
「確かに両足が着いているから安定はしとるのぉ。ん?前輪は動かせることが出来るのか?これはなかなか面白いモノを考えたのぉ」
「これは人力三輪車を作る前の考えを纏める為に作った仮のモノですが、もう少し見た目と耐久性をちゃんとすれば…これはこれで売れると思いません?」
「小さいから小回りは効くし、慣れれば走るよりラクになるか。確かに売れそうじゃのぉ。で、相談に乗って欲しいことってのはこれの売り先のことかのぉ?」