魔王討伐はその日出会った女の子と共に
ゴブリンロード討伐から約二時間後、俺は助けた少女の応急処置を受け現在共に街の中の喫茶店で席を向かい合わせてお茶と菓子をたしなんでいる。
何故こうなったのかは言うまでもない。
「さ、さっきは助けてくれてありがとうございました……」
突如彼女がカップを置き、透き通るような声を発したため少し驚いたがそのまま俺も続いた。
「ああ、たまたま通りすがっただけなんだけどな」
「それでも、あんな酷い怪我まで負わせてしまって……本当にすみません……」
どうしよう。長年人と話していなかったためか、こんな時なんて言ったらいいのかわからない。しかし幸いにも次に口を開いたのは少女の方だった。
「あの、お名前だけでも……私はアイリスといいます」
「名前?俺の名前は……」
なんてことだ。この世界に来てから名前を考えてなかったじゃないか。一応前世での(死んではいないが)名前があるにはあるが、こちらの世界ではあまりにも違和感がありすぎるだろう。俺の名前は……。
「クリス……そう、俺の名前はクリスだ。よろしくなアイリス」
いきなり呼び捨てでよかっただろうか。
「はい!よろしくお願いします、クリスさん!」
よかったみたいだ。
「いや、クリスでいいよ。俺、十六歳だし」
「あれ?私と同い年?すごい、こんな偶然あるんだ……」
まさかの事実に俺もアイリスも驚きを隠せないでいた。近くに寄ると意外と俺よりも身長は低かったが、その凛々しい顔立ちは大人の女性を思わせる。
「クリスはこのあとどうするの?」
「そうだな、効率的にレベルを上げるなら明日にでもこの町を出たいところだな。この剣も大して高くないからそう長くもたないだろうし……」
「効率的にって……クリスはなにかを目指してるの?例えば魔王討伐とか」
しまった、つい口が滑った。ゲームをやっている者なら誰でも魔王討伐を目標にするが、この世界ではそうではない。ただお金を稼ぐためにモンスターを倒す者や、普通に働いて暮らす人もいるだろう。どう言い訳をしようか……。
いや、むしろこれは正直に言ってしまってもいいのではないだろうか。
「ああ、俺は魔王をぶっ飛ばして世界を救う。そのために旅をしているんだ」
さあ、どう来る?わずかに不安を抱きながら返答を待っていると、意外な言葉が返ってきた。
「その旅、私連れて行って!」
うん、えっと……はい?