光
私は運が悪い。生まれた時からそうだった。
何かの家具に足をぶつけたり、じゃんけんで連続で負けたりと、そんな可愛らしいものではない。
ある時は山登りの最中に足を滑らせ崖から転落したり、ある時は家に大量の虫型モンスターが湧いたり。
そしてある時は、レベリングの最中にボス級モンスターと出くわしたり。
現在、そのボス級モンスター『ゴブリンロード』と一対一で対峙している。先ほど攻撃からかばってくれた少年も、森の奥へと吹き飛ばされてしまった。
ここは一人で戦うしかないが、たったレベル十二でどうにかなる相手ではない。かと言って、逃げようにもそんな気力は恐怖によってどこかへ行ってしまったようで、地面にだらしなく座り込むしかない。
――もうこのまま死んでしまった方が楽なのではないか。
そんなことを考えていると、奴が規格外なほど大きな刀を肩まで持ち上げ、私に向かって振り下ろした。
いままで幾度となく悪運に見舞われてきたが、今この刹那まで生きていられたのはある意味幸運なのかもしれない。
いい人生だった……。
そこで私の思考は完全にシャットアウト……しなかった。信じられないことに、私は奴の攻撃をかろうじて避けていたのだ。
――どうして?どうして避けたの?どうして抗おうとするの?どうして戦おうとするの?
私は何度もゴブリンロードの攻撃をかわしながら、思考を疑問でいっぱいにした。
しかし、その答えはずっと前から無意識に見つけていた。
今諦めてしまったら、もしこの先あるかもしれない幸運を逃してしまうから、明日あるかもしれない幸せを逃してしまうから――
――次の瞬間訪れるかもしれない笑顔が消えて無くなってしまうから、私は戦う。
確証のない曖昧な答えだが、いまこの無謀な戦いの中でもその言葉は私に剣を握らせる勇気になる。
たいして重量のない剣を構え、私は奴に向かって地面を蹴った。巨大な刀をかわしながら懐めがけて剣を振る。二回、三回と同じことを繰り返してHPを三割ほど削ったが、さすがにモンスターと言っても何度も同じ手にはかからない。ゴブリンロードは横に薙ぎ払うように刀を振り、私の持っていた剣をはじいた。
私は衝撃で倒れ、そこにあの巨大な刀が振り下ろされる。今度こそ避けられないと思ったその刹那、私は信じられない幸運と出会った。
視界の右端から瞬時に白い光がゴブリンロードの首元を通過して視界の左端で止まった。瞬きをすると、今度は視界いっぱいに深紅の液体が舞い、空になったHPバーがあった。
そしてその光の中には、一人の少年がいた。