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王の前

「おお!!勇者ケインよ、まことによくやった。貴殿に魔王討伐を命じてからたった1年と半年で成し遂げてくれるとはっ! 数々の苦難を越え、多くの民を救い、さらには魔人に囚われた我が娘、テリーナを救い出し、ついには見事魔王を倒した。この国は貴殿の手によって救われたぞ!!」


 王城の謁見の間。

少し高い壇上に国王はケインの魔王討伐の報告を聞くと、玉座より立ち上がりやや芝居がかかった口調でケインたちを褒め称える。その顔には感謝と感激に溢れていた。


勇者ケイン

戦闘部族アルタナの最後の生き残りの少女、戦士ネーリア

魔王の造りし魔導の申し子、過去にケインたちの前に立ちはだかった魔導士シー。

そしてケインが魔王討伐に出発した初期メンバーの生き残り、戰の女神アーリナの化身と呼ばれる大司祭アサルテ。

魔王を打倒した4人の英雄たちであった。


「本当に、よくやってくれました。わたくしはあの時、絶望の中に居たところを助けていただき今も感謝に絶えません」


王の横に立つ美しいまだ幼さの少し残る女性が一歩前に出てケインたちを労う。

この国の姫君、テリーナ王女であった。

 過去に魔王軍に堕ちた魔人によって攫われ、誰もが亡きものと諦めた彼女を助け出して戻ったのがケインたちであった。


 王女はケインたちのその雄姿を目に焼き付けるように1人ずつ見てから、少し小首を傾げて


「……ケイイチロー様はいらっしゃらないのですか?」


 不思議そうにそう問いかける。その問いにケインはドキリとした。忘れていた罪悪感という傷口をそっと撫でられたような気がしてヒヤリとする。

それ以前に、なぜ王女はケイイチローのことを知っているのか?

彼はケインが借りた宿からほとんど出ず、一度たりとも王女とは面識がないはずであった。

それにケイイチローのことを知っている者がいたことに驚く。

 ケインは小さな違和感と罪悪感を覚えつつ


「彼は…ここには来ません。魔王を討ち果たしたのは我ら4人。彼は我らの仲間……ではありません」


 そう言いながらケインはケイイチローと出会ってからのことを思う。


 彼と出会うまではケインの旅は過酷であり思い通りに行かぬ旅であった。

救うべき民を救えず、倒すべき敵から逃走することも多かった。目の前の小事を捨ておけず、何度も寄り道をした。そのために救えなかった命も沢山あった。

 だが、ケイイチローと出会ってから何もかも順風満帆であった。魔王に襲われた街の住人を死者を出さずに救出したり、魔獣王との戦いも苦戦はしたが誰も死ななかった。本来あと4年はかかるかと思っていた魔王討伐もたった半年で成し遂げられ、攫われた王女ですら身の危険が及ぶ前に早急に救出することができた。

 何もかも彼の言う「ユイガドクソン」のおかげなのかもしれない。そう思わなくもない。

だが、ケインたちが努力をしなかったわけではない。過去の失敗から多くを学び、長い旅の間に協力者を沢山得て、絶え間ぬ鍛錬を重ねた。

 彼の仲間たちがケイイチローの力を信じないのは当然の結果だった。なんせ彼はケインの借りた宿屋でゴロゴロと寝てばかり。一応ケインは彼の能力を説明はしたものの皆は半信半疑、いやケインがへんな男に騙されてると言い出す始末。

それに対してケインは強く反論することはできなかった。


「そう……ですか……。そうなんですね……。残念です」


 王女のその声でケインは我に返り王女を見る。

質問した彼女自身が自分の質問事態に困惑したような、なにか腑に落ちないと言った表情で王の玉座の横まで下がる。


腑に落ちないのはケインも同じであった。そのことを問おうかと口を開こうとした時


「うむ。なにはともあれ貴殿たちの勇気と正義の心が魔王を討ち滅ぼし、この国を守ってくれた。この国の王として貴殿らに心から感謝する」


王はそう言って立ち上がってケインの元まで降りてきてケインに手を差しだす。

ケインはその手を取り、熱く握手を交わす。

王はそのまま他の仲間たちの元へ行き、一人ずつ握手を交わし


「明日きちんとした戦勝式典を催し、貴殿たちには褒賞と叙勲を行いたいと思う。今宵はその前祝を行いたいと思っておる。諸君らはそれまでゆっくり体を休めるとよかろう」


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