勇者の決断
短編のつもりで書いたけど1万字ほどあるので区切ることにしました。
シーンも変わるので。
いわゆる追放ざまぁ物を書きたかったのです。
世に出てる物とは少し異色の解釈となりますが楽しんでいってくだせぇ。
本日中に全話完結の予定でございます。
「……僕らは皆で苦労して魔王は倒した。だが、それは僕たちの戦いの結果であって、やはり君のいう『唯我独尊』という能力のおかげだとは……到底思えない」
部屋に入ってくるなり皆に勇者と呼ばれる男ケインは部屋の中央で寝そべっているボクに、呆れとも悲しみとも取れる表情で言いにくそうにそう告げた。
「だから、君はぼくらの仲間ではなかったことにさせてもらう……。そうでなければここまで一緒に死線をくぐり抜けてきた仲間たちに申し訳が立たない」
ケインはそれだけを言うとサッと踵を返し立ち去ろうとしたが、後ろ髪惹かれるように立ち止まり、そして顔だけ横に向けてボクに話しかける。
「藁にもすがりたい状況だったあの時に、君のその『嘘』は僕を救ってくれたことは認めるよ、ケイイチロー。でも実際に何もしてこなかった君を”仲間”だと思うことは……やはりできない」
そういうとケインは目を伏せ、罪悪感を振り払うように出口に向き直り、足早に部屋を出て行こうとする彼に
「じゃあボクがもらう約束の報酬もなかったことにする気か?」
そう問うとケインがもう一度足を止めた。だが今度は振り返ることなく、そのまま足速に部屋を出ていった。
ボクはそんなケインの後ろ姿を静かに見送って……大きくため息をつく。
そして横になった状態から起き上がり、あぐらをかいて座る。
「何度も説明したのに。ボクの『唯我独尊スタイル』は僕の望んだ結果になるスキルで、その効果を発揮するために横になった状態を保たなきゃならないって……」
信じてもらえなかったことに少し寂しくなった。
しかし、ボクがこの世界に送られてきた時に与えられたやるべき使命『この世界の人間が魔王を倒す手助けをすること』
その頼まれた事はこれで達成したことになる。後は好きにしていい約束だった。
ボクは気持ちを切り替えてゆっくりと立ち上がり、私物をまとめるとケインが用意してくれた部屋を後にする。
建物を出ると外は晴天、人々が忙しなく行き交う道に出る。ふと、あたりを見渡す。つい昨日まで暗い表情だった町の人たちはまるで別人のよう。祭りの最中のでもあるかのように浮かれている。
誰もが長い苦難の時が去ったことを喜んでいた。
無理もない。つい先日まで毎日が夜のような暗黒と呪われた瘴気渦巻く世界だったのだ。
先に出ていったケインの姿は見えない。きっと王城へ向かったのだろう。
僕は大きく背伸びをする。とりあえず肩の荷は降りた。頼まれごとは片付いたのだから後は好きにやらせてもらおう。
「……とりあえず、もらうべき権利は返してもらわないとなぁ」
当てもなく僕は歩き始めた。