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女好きのナンパくそ野郎



 ミライヤの試験が始まるに当たって、どこか落ち着いて座って観たいな。


さてどこに座って観戦しようか……と辺りを見回したところで、すでに観戦することすらやめて会場を出ていく者が続出していた。



「なによこれ、むかつくわね」



 その光景に、ノアリは顔をむっとしかめる。俺もノアリと同意見だ。きっと帰っている者は、ミライヤの敗北を確信し、観る価値すらないと判断してのことだろう。


 が、そのおかげで空く席が続出。つまり落ち着いて座り、観戦することができる。なんとも複雑な気持ちというやつだ。


 残っている者も、ギライ・ロロリアの方にばかり注目している。貴族と平民じゃ勝負にすらならず、ギライ・ロロリアの活躍を見たいだけなのだろう。


 あいつか……金髪にキザったらしい仕草が鼻につく、いかにもな男だ。残っているのは女性ばかりで、異性人気が高いことをうかがわせる。



「やれやれ、こんなに悲しいことはないよ……ボクの雄姿を見せつけようにも、ギャラリーがこれっぽちしかいない。それに、平民が相手では……存分なパフォーマンスが披露できない。あぁ、ボクはなんて不幸なんだと、そうは思わないかい?」


「……」



 ギライ・ロロリアが、髪をかき上げながらなにか言っているな。なにを言っているかは聞こえる距離ではないためわからないが、無性に腹が立つのはあのキザったらしい仕草のせいだろうか。


 対してミライヤは、ただ黙っている。少しうつむいているためか、表情は見えない。



「ただでさえ場違いな平民、本来なら己の立場をわからせるところ。だが、いかに平民といえど、か弱い女の子に剣を向けるのは紳士のすることではない。キミが素直に降参するなら、この場は手を引こうじゃないか。ま、これは試験だ……降参などしてしまっては、もはや試験を拒否したのと同じ。自ら入学のチャンスを棒に振るということだが……ここで醜態をさらすことを考えれば、何倍もマシだろう? この学院の敷地に、足を踏み入れ且つ、ボクと相対できた幸運を思い出に帰りたまえ」



 ……あいつ、なにを長々と話しているんだ? それに対してミライヤも無反応なのが気になる。



「どうかね、ん?」


「…………」


「……なにも喋らないのは、どういうことだろう。まさかボクの提案が呑めない……わけはないよね。それとも、理解できていないのかな、低級なキミにはこれでも難しい話だったかな。それなりにわかりやすかったと思うんだけど」


「……」


「……それとも、まさかとは思うが聞いていないのか? このボクの話を? それは……そうだとしたら、それは許されないことだよ。人の話を、いやボクの話を聞いていないなんて。それだけでそれは、もう罪だよ? あるいは、ボクの偉大さに言葉も出ないほど感動しているのかな。うん、それなら仕方ない、平民にはボクは輝きすぎて見えるのかもしれないね。もしそうなら、首を縦に振ってくれ。それだけで、キミの罪を許そうとも」



 さっきからギライ・ロロリアが一方的に話しかけているな。相変わらず会話……いやミライヤは返事をしてないから会話じゃないな。一方的に言葉をぶつけているだけだ。


 話の内容は聞こえないが、話しているにギライ・ロロリアの方が徐々にヒートアップしているような?


 ふと、隣に座るノアリに視線を向けると……すごい顔をしていた。



「なんて顔してるんだ、虫でも噛んだか」


「嫌な想像させないでよ。ちょっとあいつが気持ち悪いだけ」


「聞こえたのか?」



 苦虫を噛み潰したように顔をしかめているノアリ。


 その原因がギライ・ロロリアの言葉にあるというのなら、その話が聞こえているというのなら、あいつはノアリがこんな顔をする内容の言葉を吐いているのか。



「聞こえないわ。でも、なんか……こう、あいつ見てると胸の奥がざわざわするっていうか……あれよあれ。ちょいちょい水場に出てくる、わさわさ動くあの黒い虫を目の前にしたときみたいな」


「なにその表現ひどくない」



 胸がざわざわ……というからもしやと思ったが。そんな甘酸っぱいものではなく、むしろ生理的に無理、だというようなそれであった。



「あと、思い出したのよ」


「思い出した? なにをだよ」


「ギライ・ロロリア……あいつ、とんでもないナルシストなの。私も何度かアプローチされたことがあるわ」



 ノアリさんノアリさん、さっき本人のことは知らないって言ってたじゃないか。何度かアプローチされたなら知らない相手ではなくないか?


 それとも、生理的に無理ということで記憶から抹消でもしていたのか? 哀れな……



「まずいわね……」


「と、言うと?」


「あいつ、剣の腕はかなりのものよ。普段は平民を見下している女好きのナンパくそ野郎なのに、いざ剣のことになると普段の面影がないくらい」



 すごい言いようだな……どれだけあいつのこと嫌いなんだ。


 それにしても、ノアリがこれだけ言うってことは相当な手練れなんだろう。なんだかんだ、この場にいるのは剣の腕に秀でた者が多いってことか。


 貴族が平民を見下す傾向があるのは知っている……さっきも、そうだったからな。それも含め、ミライヤにこの場はつらいのではないか。


 あまりにつらければ、降参する手もあるが……その場合、試験結果は……



『それでは、試験を開始します』



 そうこう考えているうちに、試験が始まってしまった。ここから出来ることはない……せめて、ミライヤの無事を祈るのみだ。

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