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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第9章 復讐の転生者

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次なる災厄



 雲に隠れて、影しか見えない……しかし、見える範囲だけでも、その全長はかなりの巨大なものだとわかる。


 以前、竜の姿に戻ったクルドに乗せてもらったことがあるが……それとは、大きさの比が違う。


 同じ『りゅう』という名でも、ここまで違うものか。



「あれが、龍……」



 転生前の人生を含めても、聞いたこともない存在。世界にただ一体しかいないという、伝説の生き物。


 確かに、こうしてその姿を目にしただけで……あるいは目にされただけで、こんなにも足がすくみ、今にも押しつぶされそうだ。



「ヤーク!」


「ヤーク様!」



 背後……家の中から、ヤークワードを呼ぶ声がする。その声に、思わず振り返りたくなってしまう。


 だけど、それはできない。彼女たちの顔を見ただけで、決めた覚悟が、揺らいでしまうような気がするから。



「……つぶれて、ない?」



 それぞれヤークワードの心配をする中……アンジーは、目の前の現象に疑念を抱く。もちろん、彼女もヤークワードを心配している。


 それを踏まえて……先ほど、あの龍の圧力を受けた身で、今のヤークワードの様子は不自然だった。


 アンジーは、魔力で体を守っていたおかげで、たいした影響はなかった。それも少しの間だけ。もうしばらく外にいれば、あるいは魔力がなければ、ミーロのように押しつぶされてしまうだろう。


 だというのに……ヤークワードは、平然と立っていた。



「……」



 平然と言うには語弊があるかもしれないが、少なくともミーロやアンジーより、だいぶ楽そうだ。


 先ほどの、あの言葉。



『俺は…………魔王の、生まれ変わり。かも、しれないから』



 それを聞いて……アンジーの中に、腑に落ちたことは、あった。


 彼女がライオス家のメイドとなってから。ヤークワードが生まれ、彼をひと目見たとき。人間であるはずの彼から、魔力の痕跡を感じた。


 人間から魔力など、感じるはずがない。だから、アンジーは……不安にも、感じた。彼が、この先どうなっていくのか。このことを、誰かに相談したほうがいいのか。


 しかし、その心配とは裏腹に、と彼はアンジーになつき、アンジーもまた、彼を大切に感じていた。


 もし、なにか良からぬことがあれば、体を張って止めればいい。それまでは、どうか平和に……



「なのに……」



 彼自身、魔王だと話したことで……感じた魔力に、合点がいってしまった。魔族でさえあの魔力なのだ、その王ともなればよほどの魔力であるだろう。


 魔王という存在は、ガラドやミーロたちが確かに倒したはず。そのメンバーの中には、故郷で自分を慕ってくれていた、エーネの存在もあって……



「もしかして……あのとき……」



 ふと、思い出すのは。『呪病』を解くための手がかりを求め、故郷ルオールの森へと帰ったときのこと。まだ幼かったヤークワードと、共に。


 あのとき、ヤークワードとエーネは、2人でなにかを話していた。さして気にしなかったが……直接魔王と対面したエーネは、いち早く気づき、それをヤークワードに確認していたのではないか。


 だとしたら、彼はその時から、自身が魔王であるという秘密を抱えていたのであろうか。



 ……真相は転生魔術についてを話していて、魔王については先ほど知ったことなのだが、それを知る由もない。



「おい! 龍!」



 そうやって、考えを巡らせている間にも……事態は、動いていく。


 外に立ち、龍を見上げるヤークワードが、龍に向かって叫んだのだ。



「お前の狙いは、俺だろ! だったら、俺だけ狙え! 他のみんなには手を出すな!」



 果たして、その叫びに意味はあるのか……なにせ、ヤークワードのいる地上と龍のいる空とでは、まさしく天と地ほどの距離があるのだ。


 いくら声を張り上げ、家の中にまで聞こえるとはいえ……それが、あそこにまで届くとは、どうしても……



『…………ナンジガ……』


「え?」



 しかし、変化は突然として訪れる。声が届く……というより、頭の中に声が聞こえるのだ。


 エルフ族の間では、互いの気持ちを伝える手段として、そういった魔法があるにはあるが……よほどの信頼がないと無理だ。それに、一方的になんてこともよほどのことがなければできない。


 この声は、まさか……



『ナンジガ、ツギナルサイヤクカ』


「な、なんか聞こえるんだけど! なんか、カタコトして聞こえるんだけど!」



 どうやら、聞こえたのはアンジーだけではなかったらしい。両手で頭を押さえるノアリが、頭をぶんぶんと振っている。


 それは、男の声とも女の声ともはっきりしない。まるで、ノイズでもかかったかのようだ。



「これ、もしかして龍の……?」



 皆、困惑している……となれば、この声の主に検討するのはひとり……いや一体しかいない。


 天から、地上を見下ろす龍だ。



「災厄……」



 カタコトながら、聞き取れた言葉。それはつまり、龍に呼びかけたヤークワードのことを、言っているのだろう。


 それは、ヤークワードが自身のことを魔王と言った……それを否定していないと、肯定しているようだった。



「! 見て、あれ……!」



 ふと、キャーシュが声を上げ、天に指をさす。そこに見えるは龍の影……しかし、それがわずかに、光っているように見える。


 暗い雲の隙間から、淡い輝きがあり……影の、形が変化していく。


 瞬間、光が落下……ヤークワードの目の前へと、降り立つ。



「っ……な!?」



 突然の輝きの到来に、ヤークワードは目を覆い……そして、見た。光の中にある、影を。人の姿をした、影の姿を。


 ヤークワードの目の前に……もうひとりのヤークワードが、立っていた。

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