表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

279/308

皆殺しにしてでも



 ヤークワード救出は、無事成功した。だが、この学園を出て、無事に逃げ切らなければ完全に成功したとは言えない。


 この場から去ることを決めても、魔物を倒しても、まだ障害はある。



「キミたち、止まりなさい」


「……」



 行き先を塞ぐように、教師たちが立ち上がる。


 魔物の攻撃から逃れた者も確かにおり、それらがヤークワードたちを逃がすはずもない。


 彼はガラド殺しの容疑者であり、彼女らはそれを助けに来たというのだから……



「よし、終わり!」



 一触即発の事態、しかしそこへ、その場に似つかわしくない明るい声が響いた。


 思わず、一同が同じ方向を向く。



「ふぅー」



 そこには、満足げな顔で、額の汗を拭う仕草をしているヤネッサがいた。


 彼女は、自分に集まる視線に気づき、首を傾げた。



「どしたの?」


「いや、ヤネッサこそ……って、そうか」



 先ほどまでヤネッサは、怪我人の手当をしていた。それが、終わったということだろう。


 状況としては、彼らはヤークワードを奪い去ろうとする敵だ。だが、ヤネッサにとってそれで、彼らを見捨てる理由にはならない。


 放っていたら、死んでいたのだから。



「とりあえず、応急処置はしたから死にはしないよ」


「……それでも、我々は……」


「お前たちにヤークワードを取り返す理由があるのか? それは、お前たちを殺そうとしたアレの指示だったのだろう」


「……それは」



 ここにいる教師全員が、ヤークワードの正体を知っているわけではない。彼が魔王だと知っているのは、校長か他に一部いる程度だろう。


 だからこそ、表向きの理由は……



「しかし、彼にはガラド・フォン・ライオス氏殺害の容疑がかけられている!」



 国中に、こう報じたのだ。ゆえに、ヤークワードはガラド殺しの件で捕まったことになった。


 ヤークワード自身、自分がガラドを殺したという記憶はない。だが、自身の正体が魔王と聞かされては……自分の意識がなくても、魔王としての人格が手を出した可能性は、否定できない。


 あの時ゼルジアルは、誰がガラドを殺したのか答えをくれなかった。ヤークワードに濡れ衣を着せるために彼が、とも考えたが……


 いくらなんでも、そんなことはしないだろう。だったら……



「俺は……」


「どうでもいいことだ」



 なにを言えばいいのかもわからないままに、口を開く……だが、そこに被せるように、エルフが口を開いた。


 その場の全員を、一周見回して……



「自分には、どうでもいいことだ」


「なっ……どうでも、いいだと!」


「自分の役割は、ヤークワードを無事脱出させること。そのためなら……」



 この場の全員を殺してでも押し通る……言葉にせずとも、そう続いたことは全員が分かった。


 それは、本気だ。本気で、ヤークワードを脱出させるためなら皆殺しにしてもいいと思っている。


 その迫力に、教師たちは動けなくなる。



「……セイメイは、なんでそこまで……」



 ひとり、小さく呟いたノアリの言葉は、誰にも聞こえることはなかった。


 あのエルフがヤークワードを助けようとするのは、王の指示だという。そして、その王とはエルフ族の王であるシン・セイメイ。


 彼は今も、学園の入り口で教師クロードを足止めしている。


 どうしてそこまでして、ヤークワードの救出に協力してくれるのだろう。



「ガラド氏は、この国の……いや世界の英雄だ! それを殺害などと、許されるわけが……」


「どうでもいいと言った」



 次の瞬間、吠えるように叫んでいた教師が、その場にぱたりと倒れた。


 それは、魔法……いや魔術であろうか。どちらにせよ、それを行ったであろうエルフの目は、冷たい。



「ちょ、ちょっと!」


「安心しろ、殺してはいない」



 倒れた教師に外傷はない、だがなにが起こったのか。


 まさか殺してはいないだろうか、とヤネッサは心配するが、どうやらただ気絶させただけのようだ。



「さて……」


「ひっ」


「他に異論のある者は、かかってくるがいい」



 今、集まっている教師の中に、エルフに対抗できる者はいないだろう。


 集まった教師の半分は魔物にやられてしまい、今気を失っている。他の者は、シン・セイメイ対処のために入り口に行っている。他にも、問題に追われている者もいる。


 この場は、なにもできない。



「……まあ、悩む必要もないのだがな」


「? ……か、体が……!?」



 しかし、だ。そもそも己の身の振り方など、考えるだけ無駄なことだ。


 いつの間にか教師たちは、その場から動けなくなっていた。その場に、足を地面に縫い付けられたかのよう。



「行くぞ」


「え、あ、お、おう」



 教師たちだけでなく、ヤークワードたちも困惑する中で、エルフはなんでもないことのように告げた。そして、堂々と歩いていくのだ。


 それについていく中で、ヤネッサだけがわかった。これは金縛りだ……だが、この人数を、一瞬のうちになど。とんでもない技量だ。


 強い力を秘めているのはわかっていたが、もしかしたらアンジーよりも……



「ご、ごめんなさい! でも、ヤーク様はきっとやってませんから! 信じてください!」



 去っていく一同、それをただ見送るしかない教師たち。そこに、ペコペコと頭を下げながら、ミライヤが言う。


 彼は絶対にやっていない、だから今回の逮捕監禁に正義などない。


 必ずヤークワードの無実を証明する。彼女たちだけがそう思っていたのでは意味がない、国中にそれを知らしめないと。


 そうでなければ、今後、この国に彼の居場所などないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ