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逃げられない戦い



「そんな……!」



 目の前で起こったことに、ミライヤは理解が追い付かない。


 異形の姿となりつつあるゼルジアル、彼が、駆けつけた教師のひとりを串刺しにしたのだ。



「……もう、味方かどうかの区別も、ついてないってわけ」



 苦々しい表情を浮かべながら、ノアリが舌を打つ。


 あの姿を見て、おかしいとは思っていたが……もはや、味方を味方と識別できないほどらしい。



「みんな、逃げて! 殺されるわよ!」


「え、あ、いや、しかし、なにが……」


「いいからさっさと……」



 この状況では、敵も味方もない。ノアリは、他の教師を逃がすことを優先させる。


 ノアリだって、好んで戦いをしたいわけではない。回避できるものならば、それに越したことはない。


 とはいえ、これまで捕まえる対象だったノアリに逃げろと言われても、それに納得するのは時間が掛かる……それが、こんな状況ではなおさらだ。


 だが、迷っている暇などない。教師と言えど、今のノアリやミライヤに比べれば……ひとりひとりは言ってしまえば、弱い。


 痺れを切らしたノアリが、次いで叫ぼうとするが……



「ぐぁ!」


「なんだこれは……!?」


「きゃあ!」



 放たれるそれは、次々と教師たちを貫いていく。


 岩のようなそれは、しかしまるで鞭のように動いて。あちこちに、血を散らせていく。



「っ……このぉおお!」


「ミライヤ、待って……!」



 その光景に、ついに我慢ならなくなったミライヤが叫ぶ。その身から迸る電撃は勢いを増し、猛威を振るう異形へと突っ込む。


 ただ突っ込むだけであっても、ミライヤの速度であればそれは目で捉えるのも容易ではない。



「っ、かた……!」



 なんの障害もなく懐に潜り込んだミライヤは、雷纏いし剣を振るう。しかし、それは簡単に弾かれてしまう。


 元々ミライヤの火力は足りてはいなかったが、先ほどよりも、硬くなっているような……



「ぁっ……」



 直後、ミライヤは視線を足元に向ける。足首を、異形に捕まえられていたのだ。


 速さこそ鬼族の真骨頂。それを封じられては、大きなアドバンテージとなる。


 それ以前に、動けなければ、迫りくる異形を避けることも……



「はぁあ!」



 しかしミライヤは、焦ることはない。自分の中の鬼族の力に集中し、気を入れる。


 迸る電撃は身体中を巡り、バチバチッと散開……迫る異形を、粉々に打ち砕く。


 同時に、自分の足を拘束しているものも砕き、その場から離れる。



「はぁっ……」


「ミライヤ!」


「大丈夫、です」



 息も荒く、ミライヤはその場に膝をつく。その様子に心配の気持ちを向けるノアリだが、ミライヤは平気だと立ち上がる。


 身体中に迸る電撃を、放出……これまで、迸る電撃は主に足場にして戦うことしかしなかった。まさか、電撃を放出することがこんなに疲れるとは。


 ここぞというときには頼らせてもらうが、多様はできない。



「近づいたら、捕まる……なら!」



 ミライヤの戦い方を見て、近距離では不利とノアリは判断。腰を落とし、力を集中させる。


 異形との距離はかなりある。しかし、ノアリはそのまま剣を、振り抜いて……



「せぇい!」



 それは、剣圧……飛ぶ斬撃とも言えるものが、放たれた。


 竜族の筋力があってこそ、ただの風圧であるそれは殺傷能力の高い攻撃性のある武器へと変わる。


 それは、異形をことごとく斬り裂いていき、ついに本体へと衝突して……



「ぐぅっ……ウェえ……!」


「っ……効いてるのか、効いてないのかわからないわね」



 本体に直撃したはずだが、その手応えはない。それどころか、およそ人とは思えない奇声を上げるばかり。


 その姿も、声も……もう、人と呼べるものではない。



「ミライヤ、ひとつ確認しておきたいことがあるんだけど」


「なんです?」


「ヤネッサたちが、ヤークを連れて帰ってきたら……元々は、私たちが校長を足止めしてて、その後逃げる予定だったわよね。今、その気持ちは変わらない?」


「それは……あの、校長先生だったものを放って、逃げることはできないです」


「……そうよだね」



 当初の予定では、あくまでヤークワード救出の時間稼ぎのため、ノアリとミライヤはここに残り、救出はヤネッサたちに託した。


 彼女らがヤークワードを連れて戻ってくれば、晴れてお役御免。ここから逃げるだけだったのだが……



「あんなの、野放しにできない」



 今なお、逃げ惑う教師たちを襲っている異形。魔力を感じるそれは、もはや魔族と呼んでもいいのかもしれない。


 それを放置すれば、学園の中どころか、外にまで被害が及ぶことになるだろう。


 もしもあれが魔族と呼ばれるものなら。そもそも硬いことに加えて、人間の力ではまともなダメージは与えられない。



「! 来ます!」


「くっ!」



 暴れまわる異形は、再び2人へと放たれる。


 今、あれに有効打を与えられるのは、魔法を使えるエルフ族を除けば、竜族の力を持つノアリか、鬼族の力を持つミライヤしかいない。


 もしくは……



「……ぁ」



 ふと、ノアリは声を漏らした。彼女の視線の先……


 異形の向こう側に、小さな光が見えた。


 異形の背後から、光は斬りかかる……



「お、らぁ!」


「っぎぃい!?」


「ヤーク!」


「ヤーク様!」



 現れた光の正体に、2人の少女は歓喜に震えた声を上げた。



 ……魔族にダメージを与えられるのは、竜族か、鬼族か……同じ、魔族であるか、だ。

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