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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第8章 奪還の戦い

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逃げない覚悟



「ぐっ……か、はっ……」



 その場に膝を付き、崩れ落ちるはノアリ。腹部に、凄まじい衝撃を受けたためだ。


 思わぬ痛みに、ノアリは腹部を押さえ、今しがた衝撃を与えてきた人物……校長であるゼルジアル・フランケルトの姿。


 一歩二歩ではきかない距離は離れていた。それを、一瞬で詰められて……そもそも、こんなに痛みがあるなんて、完全に予想外だ。


 竜人となったノアリの体は、常人以上の硬度を誇っている。殴られても痛みはないどころか、殴った方にダメージが行くくらいだ。


 だというのに……



「まだ、闘気のある目をしていますねぇ」



 彼は、普通の人間だ。それなりに、いやかなり強い人間だろうとはいえ、人間という枠組みには違いない。


 それに、彼は老人で、握れば折れてしまいそうな細腕だ。


 ……ノアリを持ち上げたときもそうだが、あの細腕のどこから、あんな力が湧いてくるのだろうか。



「ノアリさん!」


「だい、じょうぶ……」



 心配して駆け寄ってこようとするアンジェリーナを、ノアリは手で制する。


 痛い……が、それでダウンしてしまうほどではない。



「ほぉ。さすがに、竜人は防御力が高いですねぇ」



 立ち上がるノアリを見て、感心したように校長があごひげを撫でる。


 人数の上ではこちらが有利とはいえ……すでにミライヤとリエナはダウンし、その治療にヤネッサが当たっている。


 リエナの傷を見るに、一撃でも攻撃を食らえば常人ならばアウト……それは、ノアリが実感している。


 竜人であるノアリですら一撃貰っただけでフラフラなのだ、アンジェリーナがくらったら……



「ぅ……わ、私も、まだ……」


「ミライヤ!?」



 弱々しくも、強い意志を感じさせる声……ヤネッサが驚いた声を上げる中で、ゆっくりと起き上がるのはミライヤだ。


 ヤネッサの助けを受けながらも、ミライヤは立ち上がる。



「私は、大丈夫、です……ヤネッサさんは、リエナさんを、お願い、します……」



 そう言って、ミライヤは構える。その体からは、バチバチと白くまばゆい電撃が迸っている。


 鬼族の血を引くミライヤの体も、また常人とは一線を引いたもの。さらに、先ほどは校長の拳を腕で受けることで、顔面へのクリーンヒットは阻止した。


 人間、竜人、そして鬼の血を引く、それぞれの少女たち。



「ふむ……」



 三者に囲まれ、それでも校長は余裕の表情を崩さない。


 その余裕は、己の実力ゆえだろう。3人に囲まれても、自分が負けるとは思っていないのだ。



「なるほどなるほど。竜人に鬼族の娘……まさか、実際に目にすることができるとは。……どれほど硬いのか、興味がありますねぇ」


「……っ」



 瞬間、ノアリとミライヤの背中に、すさまじい悪寒が走る。


 あの目は……教師として、生徒を見るそれではない。純粋に、己の興味を満たさんとする、狂気にも似たもの。



「しかし、そこの2人はともかく……あなたは、下がっておいた方がいいでしょう。アンジェリーナ・レイさん」


「!」



 対峙する3人に……正確には、アンジェリーナに向けて、言葉が投げかけられる。


 それは、アンジェリーナの実力を見下しているわけではなく……もしかしたら、純粋な親切心なのかもしれない。ノアリやミライヤと違い、常人である彼女では、この戦いに耐えられないと。


 それはつまり、生徒であろうと、どうなってしまうかわからないことをする、とも取れるようで……



「い、いや、です! 私は……リエナを、あんな目に遭わされて……私だけ、逃げるなんて!」


「勘違いしないでください。私だって、やりたくてやったわけではないのですよ? ただ、こうでもしないとあなたがた、諦めないでしょう?」



 こちらには、魔法の使えるエルフ族がいる……それも込みで、多少は荒っぽくなったのだろう。


 それでも……やりすぎだと、思うが。



「アンジェ様、ここは下がっててください。私たちで、なんとか……」


「いやです」



 ノアリの進言も、アンジェリーナはきっぱりと断る。


 もちろん、ノアリもアンジェリーナを見くびっているわけではない。だが、今回はあまりにも……



「もういや、なんです……ただ、見てるだけなのは。私に……もっと、力があれば。だから、シュベルト様は……」


「……」



 それは、涙ながらに語るアンジェリーナの本音。大切な者を失い、今また、誰かを失ってしまうかもしれないという恐怖。


 シュベルトの件は、もちろんアンジェリーナのせいではない。だが、彼女にとって、あの件は深く影を落としたはずだ……あの時、彼をひとりにしなければ。後悔が、ある。


 とはいえ、力があれば全てを救えるというのは、それは傲慢というものだろう。それに、あのときアンジェリーナに力があっても、どうしようもなかっただろう。



「それに……」



 彼が大変な時、自分はなにもできなかった。彼を救ったのは、ヤークワードだ。


 その、ヤークワードが……シュベルトの友達が、訳も分からないうちに連れていかれて。殺されるかもしれない。それだけじゃない、目の前で自らの友人が、危険にさらされている。


 力がなくても……友人に背を預けて、逃げる? リエナまであんな目に遭っているのに?


 そんなことをすれば、きっとシュベルトに、失望されてしまうだろう。



「いやぁ、見事。元王子の婚約者、ただのか弱い女性だと思っていましたが……訂正しましょう」



 対峙するアンジェリーナを見て、校長は拍手を送る。それは、煽りでもなんでもない、純粋な敬意だ。


 圧倒的不利な状況にも逃げない、その覚悟。正直彼女と直接話すまでは、頭がお花畑のほわほわお嬢様だと思っていた。


 ぞれとも、数々の経験が彼女を変えたのかは、定かではないが。


 そんな、小さくも強い彼女を前に校長は……



「逃げない姿勢、実に美点です。

 ……ただし、それが足手まといとならないことを、祈りますよ」



 不吉な言葉を、口にした。

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