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明かされた真実



「証拠は……その、出せません」


「ほほぉ」


「でも、俺はやっていません!」



 ガラドを、殺していないという証拠……それを提示するのは、難しい。あの場でなにが起こったか、ヤークワード本人も理解していないのだ。


 だが、自分はやっていない。それは確かだ。


 確かに、ガラドを殺すために生きてきた……だが、こんな結末は望んではいない。もっと周到に、自分が疑われないシチュエーションを考えていたはずだ。


 自分の意識しないところで、というのは、考えない。そんなことを考えだしたら、きりがない。



「自分はやっていない、だから解放しろ……と。そう言うのですか?」


「……」



 無言のまま、ヤークワードはうなずいた。いわれのない罪で、捕まえられるなんて溜まったものではない。


 それに、もしあの場に戻れば、ヤークワードがやっていないという証明ができるかもしれない。


 混乱していた直後ならともかく、今ならば……



「それはできません」


「っ、俺は……!」


「やっていないかやっているか……そんなのは、些細な問題なのです」



 …………一瞬、思考が停止する。この男は、今なんと言ったのか。


 些細な問題だ、と。そう言ったのだ。ヤークワードがガラドを、本当に殺したのかそうでないのか。それを、些細な問題だと。



「……は?」



 遅れて、声が漏れる。なにを、言っているのだろう。


 今自分が捕まっているのは、ガラドを殺した容疑からではないのか。今騒ぎが起こっているのは、ガラドが死んだからではないのか。


 ガラドが、『勇者』が殺されて……それを、些細な問題だと、片付けるのか。



「……どうやら、本当に心当たりがないようですね」


「な、にを……」



 校長は、ヤークワードに顔を近づける……その瞳から、視線を外せない。


 まるで、自分を呑み込もうとするような……深い、海の底であるような……



「やはり……あなたには、自身の立場を今一度、理解しておいてもらったほうがいい」


「立場……?」



 言って、校長は顔を離す。その言葉の内容に、ヤークワードは理解が追いつかない。


 立場を理解、とはなんだ。今のヤークワードの立場は、ガラド殺しの犯人……それ以上でもそれ以下でもない。そうではないのか。


 しかし、先ほどの台詞と照らし合わせると、そうではないことは明らかで……



「ヤークワード・フォン・ライオスくん。キミはなぜ、拘束されていると思う?」


「なぜ、って……それは、ち、父上を殺したって、容疑からじゃ……」


「あぁ、言葉が足りませんでしたね。あなたは、自分が何者か、理解していないのですか?」



 ざわっ、と、なにかが胸の奥でざわつく。なんだ、この人はなにを言おうとしているのだ。


 聞いてはいけない……しかし、聞かなくてはならない、そんな2つの感覚が、ヤークワードを挟み込む。



「キミをここに捕らえているのは、ガラド氏殺害の容疑ももちろんあるが……キミが、放置できないほどに危険な人物だからですよ」


「危険……お、れが?」


「えぇ。それを、つい先日確信しました」



 校長は、ヤークワードの目の前をくるくると歩いていたが、やがて空いていた椅子に腰を下ろす。


 ふぅ、と軽く息を漏らす。



「あなたは命王であるシン・セイメイとの戦いを経て、なにか変わったことを感じませんでしたか?」


「変わった、ことって……」



 突然、シン・セイメイの名を出され、ヤークワードは困惑する。エルフ族の王であった人物……死闘の末、なんとか捕まえることができた。


 その男との死闘で、変わったことなんて……



「あ……」



 記憶を巡らせ、ふと、思いあたることがあった。あれは、セイメイとの戦いの終盤……


 竜族の血が覚醒したノアリ、鬼族の血が覚醒したミライヤ……双方、通常の攻撃ではダメージを与えられないセイメイに、深い傷を追わせた。


 本来どんなダメージも即座に回復させてしまうセイメイが、回復させることのできない傷。それは、竜族と鬼族というそれぞの種族ゆえの特徴らしいが……問題は、その後。


 ヤークワードが放った一太刀。それを受けて……セイメイは、傷を再生させなかった。いや、できなかったのだろうか。


 それまで、ヤークワードの斬撃は普通に再生させていた。なのになぜ、最後の一太刀だけ……



「思い出したようですね。それ以前も、キミの体には異変があったはず。

 そして、魔族との戦いで……ついに、その力は大きく発現した」



 淡々と話す校長の言葉は、不思議なほどにヤークワードの胸の奥に響いていく。


 これまで、おかしいなと思うことはいくつかあった。極めつけが、セイメイ……そして、魔族との戦い。


 さらに、あの魔族は、初めて会ったヤークワードに対して膝を付き、頭を垂れた。あれは、単なる人違いだと、思っていた……


 しかし、もしそれが、すべて意味のあるものであったと、したら……



「むしろ今まで気が付かなかったことが、悔しくてならない。であれば、もっと早く、スマートに処理出来たものを」


「しょ……」


「もうわかったでしょう……キミの中には、魔力が宿っていると」



 どくんっ、と心の臓を打つその言葉から、意識をそらせない。


 魔力が、ある……だから、魔力封じの拘束をしているのだ。魔力が、ある……だから、セイメイにも魔族にも、有効打を与えられたのだ。


 だが、おかしいではないか。魔力は、人間にはないものだ。人間も魔力を使うことはできるが、それは遥か昔、大気中の魔力を使い魔術として使う、というもの。


 魔力が宿るのは、エルフ族か、それか……



「本当にわかっていないのか、それともここに来てまだとぼけているのか……

 どのみち、もう逃げ場はありませんよ。魔王の生まれ変わりさん」


「……!」



 それか……魔族しか、いない。


 決定的なその言葉が、部屋の中に静かに、響いた。

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