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許せない悲しみ



 バチバチッ……と、まるで稲妻が迸るかのごとく、魔力が弾け飛ぶ。


 身体中から雷が走る……この現象は、鬼族の特徴によく似ている。現に、鬼族の血が覚醒したミライヤも、迸る雷を操っている。


 だが、そもそもとして雷と、雷のように見える魔力という違いがあり……なにより……



「う、うぅ……!」



 今のヤネッサは、怒りに呑まれてしまっている。抑えきれない魔力が、あふれ、周囲に被害を及ぼしている。


 なにがあったのか、ノアリたちにはわからない。だが、尋常でない事態であることは、確かなのだ。



「ヤネッサ……!」



 暴走……その経験は、ノアリにもある。そのときは、ヤークワードとクルドが必死の思いで止めてくれた。


 が、今のヤネッサは、単なる暴走とも違う。


 目からは涙を流し、歯を食いしばり……まるで、なにかを悲しんでいるようにも、見えるのだ。



「ねえ、どうしたの、ヤネッ……」


「ゆる、さない!」



 ノアリの声も、届かない。ヤネッサはついに、その場で叫ぶ。


 感情の昂りに呼応するように、あふれる魔力も激しさを増し……周囲を、傷つけていく。


 このままでは、ヤネッサの魔力で学園が崩壊してしまうのではないか……そう、思われたとき。



「ぁ、ぐっ……!」


「!?」



 突如、ヤネッサの体がよろめく……鮮血が、舞う。


 まるでスローモーションのように、ヤネッサの体が倒れていき……



「ヤネッサ! ヤネッサァ!」



 見えた……ヤネッサの肩が、撃たれたのだ。狙撃手は、先ほどヤネッサが倒したのではなかったのか。


 いや、新手が現れたのだ。それが、ヤネッサを狙撃した。


 魔力があふれ出しているとはいえ、無防備であることには変わりはない。近づかなければ、被害もなく狙い撃ちすることができる。



「くっ、そ……!」



 再び向かってくる弾丸を、今度は弾くノアリ。先ほどヤネッサに助けてもらったばかりだ、ここで全滅することは避けたい。


 ヤネッサの介抱はアンジェリーナに任せ、ノアリは弾丸の飛んできた方向を見つめる。



「うぅう……らぁあああい!」


「!?」



 ノアリは、己の中に流れる竜族の血に意識を集中させ、身体能力を向上させる。


 こちらへ狙いを定めている狙撃手を、逆に見定め。瞬間的な移動で、まるで消えたかのように錯覚。


 狙撃手の目の前に現れたノアリは、その顔面を容赦なく蹴り飛ばした。



「げはっ……!」



 間抜けな声を漏らし、吹き飛ばされるのはやはり教員。


 大丈夫だ、殺してはいない。ただ、少しの間じっとしておいてもらうだけだ。



「ここは、もう危ない」



 図らずも、先ほどの狙撃により、ヤネッサの暴走は多少の落ち着きを見せた。


 とにかく、ここに自分たちがいることがバレている。このままにしていたら、また続々と新手が来ることだろう。



「アンジェさん、ヤネッサ! ここから移動するよ!」


「え、えぇ……わぁ!?」



 言うや、ノアリはアンジェリーナとヤネッサ、それぞれを抱える。


 本来、ノアリが2人を抱える……ましてやその状態で移動するなど、不可能であるが……



「の、ノアリさん、その姿は……!?」



 視線を動かし、ノアリの姿を認めたアンジェリーナは、驚愕に声を震わせる。しかしそれは恐怖からではなく、純粋な驚きから。



「あはは……そういえば、アンジェさんには見せたこと、なかったでしたっけ」



 そう苦笑いを浮かべるノアリの皮膚は、朱色の鱗に覆われ……気のせいではないだろう、翼や尻尾のようなものまで、生えている。


 これは、竜人たるノアリの姿……思い返せば、この姿を見せたことがあるのはごく限られた人間だけだ。



「説明は、後! 舌噛まないでくださいよ!」


「えっ……あぁ!?」



 瞬間、アンジェリーナは風になった……いや、そう錯覚しただけだ。


 アンジェリーナとヤネッサを抱えていては、ノアリは得物を持つ手が塞がってしまう。だが、ノアリひとりが対応するより、2人を連れてこの場を離脱するべき……そう、判断した。


 その速度は凄まじく、アンジェリーナは思わず悲鳴を上げそうになってしまう。だが、そのために口を開くことすら、ためらわれる。



「……っ」



 ……騎士学園は広い、とはいえ、これだけの速度で走れば、すぐに行き止まりに突き当たる。


 軽く息を整え、ノアリは2人を下ろした。元々気を失っていたヤネッサはともかく、アンジェリーナはとても見せられない顔をしていた。



「う、うぅ……気持ち悪い、です……」


「あはは、すみません……」



 酔ってしまったのか、その場で軽く咳き込み、アンジェリーナは息を整える。そして、その視線はノアリへ。


 改めてじっと見つめられると、照れる。



「とりあえず、ここまで来たら安心だと思うけど……っと、ヤネッサ!」



 場所は移した、ここは先ほどよりは安全なはずだ。なので、次はヤネッサの治療だ。


 幸いにも、被弾したのは肩……命に別条はない。ノアリは迷うことなく、スカートを少しちぎり、切れ端で傷口を押さえる。


 自分にも魔法が使えれば、こんな怪我すぐに治せるのだが……



「よし、っと」



 ヤネッサの応急処置は済んだ。


 しかし、道案内に頼みのヤネッサは気絶し、起きてもまた暴れないとも限らない。その上、道を適当に走ってきてしまった。


 ここは、どこだろう。そしてヤークワードは、どこにいるのだろう。

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