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やるべきこと



 北へ、向かおう。


 このままノアリの側にいても、俺がやれることはない。側にいて、少しでもノアリを安心させることはできるかもしれない……だが、それでノアリの病が治るわけでは決してない。


 やれることは、大人たちがやるだろう。母上の『癒しの力』、呪病についての知識を持つ医者、回復魔法が使えるエルフ……父上やノアリの家の伝手を使えば、大抵のことはできるだろう。


 だが、その大抵のことでは呪病の件は解決しない……それは、これまでの様子から明らかだ。大抵のことでなんとかなるなら、呪病が王都でここまで広がりはしない。



「だから、俺にできることをする」



 本の物語、なんて馬鹿げた話、誰も本気にはしない。だからこそ、そんな話を本気にするような子供(おれ)が、俺にしかできないことをする。それだけのこと。


 大人は大人にしかできないことをするなら、子供は子供にしかできないことをする。それが役割ってもんだ。


 俺の話なら母上は聞いてくれるだろうが、それでも本気にすることまではしないだろう。そんな本の話なんかより、ノアリちゃんの側にいてやりなさい……そう言うに決まってる。ここに可能性があるかも、わからないのに。


 可能性は限りなくゼロに近い。なにせ、『竜王』なんて転生前の俺でも聞いたことくらいはあったが、それが実在するかどうかなんてわかるはずもない。わからないが……可能性がゼロでは、ない。


 いるかもわからない。逆に、いないなんてこともわからないのだから。



「さて……北に向かうとして……」



 転生前、俺たちは世界中、とまではいかないがいろんな国を回った。いろんな所をだ。だが、この本にあるような北へ北へ、その最果てへと行ったことはない。


 目指すのは、そこしかない。そことは言っても地名もなにもない、ただ最果ての地としか書かれていない。手がかりは、それだけだ。それでも、手がかりがないよりはいい。呪病に対する解決の手がかりがなにもないこの状況に比べれば、マシだ。


 北へ行くとなれば、相応の準備も必要になってくる。まず、俺ひとりで行くのは難しい。転生前ならともかく、今は8歳の体だ。長旅になることが予想される道を、この体は持つだろうか。


 それに、魔王が討たれたとはいえモンスターは国の外に闊歩しているという。魔王が支配していたモンスターを魔物と呼び、そうでないモンスターもいる……先生の稽古のおかげで剣術の腕は上達しているとはいえ、今の腕で外の世界に飛び出して大丈夫だろうか。


 かといって、これが馬鹿げた話である以上、たとえば国の騎士を北の地に派遣……なんてこともできない。数名を俺と一緒にと言っても、同じことだ。可能性があるとすれば、身内くらい。


 だがそれは同時に、先ほど考えたのと同じ理由で無理な可能性も高い。そんなわけもわからない物語の可能性のために、ここを好き好んで離れようとはしないだろう。物語の中の話だ、ただの妄想だと、俺をも止めようとするだろう。



「やっぱ、無理か……誰かに話すのは」



 話すと、止められる。ならば、誰にも話さずに人知れず家を出るか……それはそれで、面倒なことになりそうだ。ノアリがこんな状態で、俺までいなくなればそりゃもうパニックだろう。


 なら、置き手紙でも置いておこうか。北に行くので心配しないでください、とでも。けどなぁ……



「ヤーク様?」



 さてどうしようか……そうやって悩んでいた俺に、声がかけられた。


 いつの間にか入り口に立っていた、アンジーのものだった。

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