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相対するエルフの王

セイメイが外に出てる理由は、

第164部分:幕間 あぁ面白きこの世

で書いています。



「あー、どうしよー! どうすんのよ!」


「カカカッ、なんだか知らんが揺らすな揺らすな」



 状況が悪化しつつある事実に、ノアリはセイメイの肩を掴んで何度も揺さぶる。


 セイメイが張ったという、この結界……セイメイと対峙したことのある者以外を、弾き出す結界。


 その結界内にいる以上、自分たちとは別行動をしているミライヤたちは……



「アンジーお姉ちゃんも、あの剣士の人も、ヤークのお母さんも……弾き出されちゃった、ってこと!?」


「ミライヤさんだけ、取り残されて……」



 ヤネッサとアンジェリーナも、状況の深刻さに気付いたようだ。


 ノアリたちでも、始めは不安に囚われたのだ。たったひとり、残ってしまったミライヤの心中を、思うと……



「私、ミライヤのところに……」


「ふむ、ミライヤ、とは……あぁ、あの鬼の子か」


「! ……その呼び方、やめて」



 記憶をたどり、セイメイはミライヤなる人物に思い至る。


 以前、混じりの小僧や竜族の血が覚醒した娘……目の前にいる……と同じく、その身に宿す鬼族の血を覚醒させた、娘だ。


 その呼び方を、どうやらこの娘は気に入っていないようだが。



「カカッ、気に入らんか? 事実を言ったまでじゃが」


「もう一回でも言ったら、ぶん殴るわよ」


「ふむ……」



 先ほどまで、このシン・セイメイの存在感に押されていたのに。友を侮辱されては、黙ってはいられないか。


 やはり人間とは、面白い。セイメイは、にやりと笑った。



「悪かったの。して、その娘がどうしたと?」


「あの子が、ひとり取り残されてるかもしれないの! あんたの結界のせいで!」


「ほぉ」



 まったく悪びれた様子がない、子供の姿をしたこの老人。


 本当にひっぱたいてやろうかとも思うが、我慢だ。



「そう心配することもあるまい。あの娘は強いぞ?」


「それは……知ってるけど……」


「それに……そのように、悠長にしている暇は、ないと思うがの」


「? それ、どういう……っ!?」



 瞬間……まるで、強力な重力がのしかかってきたのではないか、というほど、すさまじい圧力を感じる。


 なんだ、これは……胸の奥が、苦しい。どんどんと、慌ただしいくらいにうるさい。


 なにかが……来る……!



「これ……エルフ……!?」


「カカッ、同族にはやはりわかるか」



 胸を押さえるヤネッサが、一点に視線を向ける。その先は、今まさにノアリたちが侵入しようとしていた、騎士学園の正門。


 そこから……この、圧力の持ち主が、姿を現して……



「……クロード、先生……?」



 そこにいたのは、騎士学園の教師、クロードだ。エルフ族の教師で、金髪はもちろん褐色の肌が、印象的。


 学園の中にいるエルフ族の先生の中でも、1、2を争うくらいに魔力が高い。


 普段は、温厚で怪しい先生だ。でも、今の彼から感じるのは……



「おや、カタピルさん。それに、レイさんまで……こんなところで、どうしたんですか?」


「……」



 口調は、いつもと変わらない。生徒にも紳士に接し、女生徒からの人気が高い、教師だ。


 だが、ノアリたちにはわかった……彼が……



「ヤークを、返してください、先生」


「……」



 彼が、ヤークワードを捕らえた犯人……ではないにしても、少なくともヤークワードが捕らえられているこの場所を、守っている。


 つまりは、ヤークワードを取り返しに来た者を、排除する役目を、担っているのだと。



「やれやれ、予感はしていました。彼と仲のいいあなたなら、なにか行動を起こすと。まさか、こんなにも早く、事を起こすとは思っていませんでしたが」


「っ……」


「レイさんに、同族のエルフ……それに、命王(めいおう)まで味方につけるとは」


「へ……」



 いつでも動けるように、気を張っていたのだが……それが、ほんの少しだけ、緩む。


 ヤネッサは元から、アンジェリーナは偶然だが、どちらもヤークワードを取り返すために協力してくれている。


 だが、今命王と呼ばれた、この男は……



「カカカッ、これは愉快! 主、儂のことがわかるようじゃな」


「もちろんです。お初にお目にかかります、命王。

 貴方がこの時代に転生されたという情報は入っておりました。

 姿も、力も伝え聞いていたものとは別のもの……それでも、貴方ほどのお方を間違えようが、ございません」


「カカッ、そうかそうか。この時代のエルフは儂の名すら忘れてしまった者ばかりかと思っていたが、なるほど知識の残っておる者もおったか」



 愉快だ、と笑うはセイメイ。対するクロードは、姿勢正しく、セイメイに礼を尽くしている。


 命王……元々命族(めいぞく)と呼ばれていたのが、現在のエルフ族。その、最古の王とされるのが、シン・セイメイという男だと……ノアリたちは、ヤークワードから聞いていた。


 実際、クロードが礼を尽くしているということは、やはり偉い人物なのだろう。



「しかし、ひとつ勘違いを正そう」


「勘違い?」


「おぉ。儂は別に、この小娘らの味方というわけではない。

 儂の歩む道に、勝手に割り込んできただけのこと」



 ノアリたちの味方……それを、セイメイ自ら否定する。


 もちろんそれで間違いはないのだが、そうやって改めて宣言されると……警戒してしまう。


 味方ではないのだ、いつ牙を剥くとも……



「ま、目的は同じ、であろうがな」


「え……」



 不敵に、笑う……セイメイは、さらにこう続けた。味方ではないが、目的は同じだと。


 それは、どういうことだろう。いや、考えるまでもない、少なくともノアリたちの目的は。


 考えるまでもない、のだが……ノアリたちの目的と、セイメイの目的が同じ? まさか、一致するはずがない……


 だって、ノアリたちの目的は……



「……ヤークの、救出……」



 もしも、セイメイがノアリたちの目的を理解した上で……それで、互いの目的が同じだというのなら。


 シン・セイメイの目的も……ヤークワード・フォン・ライオスの救出、ということになる。

いきなり出てきたエルフの先生!ただ、クロード先生については、

第138部分:褐色エルフの教師

で出てきてはいます。

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