確かな手ごたえ
俺とクルドは並び合い、魔族に向けて全神経を集中する勢いで、構える。相手は、ひとり……こっちは、2人。人数の差では勝っていても、相手は未だ底知れない魔族だ。
油断は、できない。
「ヤーク、フォローは我がする。好きに動け」
「じゃあ、遠慮なく……!」
クルドは、俺のフォローに回ってくれているという。体格差の問題で、俺が好きに動いてクルドがそのフォローに回ったほうが、互いに動きやすいからだろう。
その言葉に甘えて、俺はその場から駆け出す。思い切り地面を踏んで、勢いを乗せた速度で魔族に向かっていく。
クルドが後ろを守ってくれる。これほど、心強いことはない!
「はぁ!」
「ふはは!」
ガギィンッ……と、互いの武器がぶつかり合う。原因はわからないが、先ほどから俺自身の力は、上昇している。これが、魔力だと思われるものなのか……わからないが。
可能性として、ひとつ……浮かんでいるものがある。魔族の漆黒の剣には、魔力が帯びていた。魔族の攻撃には、魔力が帯びていた。
それを受けたのが原因で、なぜか俺の体に魔力が、力を与えた……と。
「ぅ、らぁ!」
ただまあ、そんなことはどうでもいい。魔族を倒せるだけの力があるのなら、それを存分に振るうだけだ!
「そこ!」
「っ、ごぁ!」
魔族は俺の攻撃を捌くのに精一杯だったのか、死角から現れたクルドに殴られる。俺の正面にいた魔族が横っ飛びに吹っ飛んでいく。
よし、やっぱり2人なら、戦いを優位に進めることができる!
「ヤーク!」
「わかってる!」
俺は、吹っ飛んでいった魔族を追いかけるように、駆け出す。そして、追いつき並走……その体へ、剣を振り落とす。
それに気づいた魔族が、魔力を纏った腕で迎え撃つが……
ガンッ……!
鈍い音が響き、俺の剣と魔族の魔力とが拮抗した後……魔力の刃が、折れるのがわかった。
その勢いのままに、俺は魔族の体を斬り裂く。魔族の体は硬く、簡単に斬り裂けるものではない。
それでも……
「ぐぅ……!」
確かな手応えを感じ、魔族が苦痛に声を漏らした。
そのまま魔族は、地面に転がるように着地して……俺から、距離を取る。しかし、その上空に、クルドの巨体が舞う。
上空から振り落とされた拳は、それを両手で受け止める魔族を、もろともに地面へと叩きつけた。
「ふー……いける、か……?」
これまでやられっぱなしだったのが嘘のように、魔族を追い詰めることができている。俺が魔族の注意を引き、クルドが強烈な一撃を与える。
相手は魔族一体。俺の影もクルドの影も、すでに対処した。
油断は禁物だが、このまま焦らずに対応すれば……
「ぐ……はは。予想以上、ですね」
クルドの一撃で押しつぶされても、魔族は立ち上がる。だが……その体には、確実にダメージが蓄積している。
鎧のようなその体は、所々がひび割れ、ボロボロだ。先ほどまでのような、恐ろしい覇気もない。
「……」
剣を構え、じっと魔族を見据える。クルドの拳はやはり効いているのか、フラフラの状態だ。
俺とクルドは、目で合図をして、同時に魔族へと襲い掛かる。
「ぬぅおおおお!」
「!」
繰り出されたクルドの拳は、全霊を乗せた一撃。片手で受け止められるものではない。
ダンッ……と耳をつくような音が響く。魔族は、両手でクルドの拳を受け止めている。
その胴体は、予想通りがら空き! ここに斬り込んで下さいと、言わんばかりだ!
「うぉおおおおお!」
声を張り上げ、気力を高めていく。これが不意打ちなら、声を上げて存在を明かすのは下の下だが……どうせ俺が仕掛けることはバレているのだ、関係ない。
体の内から湧き上がる力を、全部剣に乗せろ……!
我竜の太刀……!
「"竜魔"!!!」
ザンッ……!
振りかぶった刃を、力の限りに振り下ろす。刃は魔族の、硬い体を斬り裂き……致命的なダメージを与えたのだと、確かな手ごたえを感じた。
その証拠に、魔族の体は……ゆっくりと、倒れていく。
「はぁ、はぁ……」
今の一太刀で、体の中の力が、全部持っていかれたかのような……脱力感がある。それでも、気を緩めるわけにはいかない。
その首を、落として確実に息の根を止める……! こいつはこの国だけじゃない、アンジーとヤネッサの故郷まで……ジャネビアさんや、エーネたちまで……
「ぅ……」
「!」
うめき声……それは魔族のものだ。咄嗟に俺は剣の切っ先を、魔族へと突き付ける。
そのまま、魔族の顔は俺へと向き……
「は、はは……これは、素晴らしい……一撃、でしたよ」
「……それはどうも」
正直、魔族なんかに褒められてもまったく嬉しくはないが。
「お前は……いったい、なにがしたかったんだ! 宣戦布告とかいって、国中を混乱に陥れたかと思えば、時間切れだって消えて……また、現れて。それに、ルオールの森林を燃やして、エルフ族を、殺した!」
結局のところ、魔族はなにがしたかったのか。いろいろ予想はしたが、それが本当かどうかは、魔族にしかわからない。
それに、戦争だなんだと考えはしたが……それならば、エルフの森を焼く必要なんて、ない。
その行為は、エルフ族に余程の恨みを持っているのか。だが、ヤネッサを逃がし、こうして憎しみを一身に受ける羽目になった。
「……私の、目的は……初めから、ただ……ひと、つ……ですよ」
「……? 世界征服、ってやつじゃないのか。自分で言ってたろ。それが、今の状況とどう関係が……」
支離滅裂に見える魔族の行動は、すべてひとつの目的のため、だっていうのか?
それが、なにに繋がっているというんだ。
「……それより、いいの、ですか?」
「なにがだ」
「ふはは……わかり、ませんか? ここで、これだけ騒いでいるのに……誰も、他の人間が、駆けつけない、この、現状を」
「! まさかお前……」
いくら国中の人間が避難しているとはいっても、あれだけ派手に暴れれば、誰かしら様子を見に来てもいいはずだ。
なのに、誰も……人は、見当たらない。
それはつまり……今、動けない状態にあるということ?
「みんなが……!?」
あの時と同じか!? 俺の注意を引き付けておいて、別の場所で……!
ちなみに"りゅうま"という技は以前にも一度出しています
が……