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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第7章 人魔戦争

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その怒りは燃えるように



「あぁあああ!」



 憎悪の込められた叫び声。繰り出された矢は、魔族に突き刺さるよりも先に、魔族が漆黒の剣で防ぐ。


 いかに感情が高ぶっているとはいえ、武器としているのはただの矢。簡単に、折られてしまう。


 それに、あれが魔族の体を刺していたところで、効果があったのかはわからない。ヤネッサはそれさえもわからないほどに激昂しているのか……


 怒りに身を任せ、なんでもいいから相手に攻撃を浴びせようとしている。



「おっ、とと」


「くっ」



 そのまま、魔族に組み付こうとするヤネッサだったが、魔族に振り払われてしまう。ヤネッサは、振り払われても空中で体勢を立て直し、地面に着地する。


 しかし、そこで一旦距離を取るのではなく、再び魔族へと接近するために姿勢を低くして……



「ヤネッサ!」



 このままでは、魔族にやられてしまう。そう思った俺は、ヤネッサを止めに入る。運良く近くに着地してくれたため、駆け寄る。


 今までどこにいたかもわからなかったヤネッサと、再会できた……その嬉しさから、つい状況も忘れて、声が高ぶってしまったが……



「? ヤネッサ……? おい、ヤネッサ!」


「! ……ヤー、ク……?」



 呼びかけても、反応がない。あのヤネッサが、俺に無反応とは……いつもなら、ヤネッサの方から俺に向かってくるのに。


 俺は何度か呼びかける。すると、ようやく俺に気づいたようで、何度か目をパチパチと瞬かせ、俺の名を口にした。



「え……ヤーク、どうして、ここに」



 俺がここにいることが、不思議なようだ。


 ……ヤネッサのやつ。理由はわからないが憎悪に呑まれていたせいで、俺がこんな近くにいたことを認識できていなかったのか?



「どうしてって、ヤネッサこそ。俺はてっきり……」



 捕まっている人たちの中に、エルフ族はほとんどいなかった。それと、ヤネッサがここにいること……無関係とは、思えない。


 ヤネッサは、じっと魔族への警戒は怠らないまま……ゆっくり、立ち上がる。



「私は、ちょっと前から故郷に……ルオールの森林に、帰ってたの」


「エルフ族の森に?」



 そう言われれば、ここ数日はヤネッサの姿を見ていなかった。俺は基本的に学園にいるし、町中でたまたま会うかどちらかから会いに行かない限り、連絡手段もないわけだが。


 別に、里帰りにどうこう言うつもりはない。そのタイミングだって、ヤネッサが決めたものをわざわざ聞き出すほどのことでもないし。


 ただ……どうしてか。ヤネッサが居ないタイミングと、魔族が攻めてきたタイミング同じなのが……偶然とは、思えなかった。



「うん、呼ばれたんだ、村長……ジャネビア様に」


「ジャネビアさんに?」



 ジャネビアさん……アンジーの祖父だ。竜族とも親しくした経験があり、俺もお世話になった。


 そのジャネビアさんに、呼ばれた? 孫のアンジーじゃなく、ヤネッサが?



「でも、呼ばれたってどうやって」


「この数年で、エルフ族のみんなが外との連絡手段を得るための方法として、使い魔を召喚することに成功したんだよ。で、その使い魔に呼ばれて……ただ、そんなことはどうでもいいんだよ」


「ぉ……」



 俺の知らない間に、エルフ族の方も進歩しているらしい……そう、感心していたのだが。ヤネッサの体から、殺気があふれ出す。


 これまで抑えていたのか。話をしていく中で、なにか嫌なことを思い出したのか。


 あのヤネッサから、感じたことのない感情だ。



「ヤネッサ……じゃあ、単刀直入に聞くけど。……あの魔族と、なにがあった?」



 結局のところ、そこだ。今の話の流れから、ルオールの森林に帰り、そこでなにかがあったことは間違いないだろう。それに、あの魔族が関わっていることも。


 俺は、ヤネッサからその理由を聞きだして……



「……森が……燃やされた……!」


「!」


「みんな……みんな、死んじゃった……!」



 ……俺は、その言葉に絶句した。



「なん……は……?」



 うまく言葉が、出てこない。これが、なにかの冗談や、嘘ならそれだけ良かったことか。


 だが……魔族を睨みつけ、歯を食いしばりながら涙を流すヤネッサの姿は、ただ真実だけを示していた。



「ははははっ」


「!」



 この場に似つかわしくない、笑い声……その主は、今まで話を黙って聞いていた魔族だ。


 ヤネッサがその姿を見張っていた。とはいえ、なんの動きも見せなかったのは……余裕か、それともわざとヤネッサに喋らせたのか、という印象が強かった。



「なにが、おかしい!」


「はは、いやいや失敬。しかし……あの時、森ごとエルフ族は燃やし尽くしてしまったかと思っていましたが……まさか、生き残りがいるとは。自分の不甲斐なさに、思わず笑いを抑えきれず……」


「お前ぇえええ!!」



 魔族が喋りきるよりも前に、ヤネッサが動く。矢を3本取り出し、それをぶん投げる。片腕がなくなったヤネッサは、もう以前のように矢を射ることはできない……さっきも、同じ方法で矢を放ったのか。


 3つの矢は、狙い違うことはなく魔族へと向かっていく。ぶん投げるだけでこの勢い、いったいどれだけ訓練したのか。


 しかし、矢が届くより先に、漆黒の剣で振り払われてしまう。



「ヤネッサ落ち着いて! それじゃあいつには……」


「落ち着けるわけないでしょ!!」



 その、怒りとも悲しみともわからない叫びに……思わず、押し黙ってしまう。ヤネッサが、こうまで感情を露に……


 いやでも、そもそもおかしいだろう。いくらあの大きな森を燃やし尽くす火事だからって、あそこにはたくさんのエルフ族がいるんだぞ。魔法で、水を出せば火事なんて広がらない。


 森を覆うほどに火が燃え広がる前に、誰かが気づくはずだ。



「あぁ、それは無理ですよ」


「!」



 まるで、俺の心を読んだかのような……魔族の言葉が、俺に向けられる。



「森にも、この国にかけたのと同じ結界を張ってありましたので」


「同じ結界……って……」



 ルオールの森にかけられた、同じ結界……それを聞いて、俺は背筋が凍る勢いで寒気を感じた。


 この国にかけられたのは、"魔族を除いて、魔力が使えなくなる"結界。さらに、魔力の保有量が多いほどに、エルフ族は動くことさえままならなくなる。


 まさか……



「エルフ族は、魔力を封じられて……?」


「えぇ。魔力の使えないエルフ族など、ただ耳の長い人間と同じです。我々魔族のように強靭な肉体でもあれば、あるいは助かったかもしれませんが」


「っ!」



 こいつは……力の使えなくなり、動けなくなったエルフ族を、森ごと焼いたっていうのか!?


 抵抗も出来ずに、燃えていく仲間たち……それを、ヤネッサは助けることもできずに……それは、許しがたい。俺も、怒りでどうにかなりそうだ。


 それも構わずに、魔族はまたも笑い出す。



「生き残ったのはあなただけですか? それともまだ他に? まあ、大部分が死んだのは間違いないでしょうね……どうでした? 燃える森の中、助けを求める悲鳴を聞きながらなにもできなかった気持ちは……」


「黙れぇええええ!!」


「ヤネッサ!」



 ヤネッサに俺の声は、届かない。歯をむき出しに、魔族へと突撃する。


 怒りに身を任せた拳は、しかし魔族に簡単に受け止められて……



「ぐぅ、ぅうう!」


「猪突猛進、というやつですか。威勢は結構、ですが……」


「おいお前、やめっ……」



 ザクッ……!



「っは……」



 ……ヤネッサの背中からは、血に染まった漆黒の剣が、その刃を覗かせていた。



「ぉ……」


「あの場を生き残り、私を追いかけ……その上、結界の中でもこれだけ動けるとは。怒りが体の脱力感を凌駕したのか……なんにせよ、感服しますよ。ですが……」



 漆黒の剣は、ヤネッサの体を串刺しにして……



「エルフ族は、もういらないんですよ」



 魔族はヤネッサの体を蹴り飛ばし……突き刺さっていた漆黒の剣を、強引に引き抜いた。


 ……血が、あふれ出していく。

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