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今こそ一丸に



 勇者ガラド、竜族のクルド、竜族の血が覚醒したノアリ、鬼族の血が覚醒したミライヤ。数こそ少ないが、みんな一級品の強さを持っている。


 この中だと、俺だけ普通なような……なんか、悲しい。



「そろそろ、食堂へ向かおう。腹も空いたろう」



 クルドの言葉に従い、俺たちは場所を移動する。こんな状況だ、あまりたくさん食べられはしないだろうが……


 なにか口にしておいた方が、いい。腹が減ってはなんとやらってやつだ。



「ヤーク様、手は大丈夫ですか?」


「あぁ、これくらい全然……」


「ふざけるな!」



 食堂へと近づいて来たところで、怒号が聞こえた。男の、強い口調に、自分が言われたわけではないとわかっていても、ミライヤの肩が跳ねる。


 その肩を、そっとノアリが支えている。



「どうかしたのかしら」


「さあ。……ま、予想はつくけど」



 食堂で、なにが起こっているのか……大方の予想はつく。内心でため息を漏らしつつ、俺は食堂内に足を踏み入れた。


 そこには……ひとり、なにか騒いでいる男がいた。



「もっと食わせんか! わしに餓死しろと言うのか!」


「で、ですが、この状況では……」


「やかましい! わしを誰だと思っているんだ!」



 あれは……昨日、騒いでいた連中のひとりか。禿げ上がり、でっぷりとした腹のおっさんだ。


 なんていうか……いかにも、って感じだ。



「あの……なにか、あったんですか?」



 その光景を見て、ノアリは成り行きを見ていたひとりの女性に話しかける。


 彼女は、困った様子で……



「それが……あの方が、自分の分の食事をもっとよこせ、と騒ぎ立てて」


「うわぁ」


「どうしてみんな、注意を……あぁ、なるほど」


「どうかしたのか、ノアリ」


「あのおっさ……人、キャベルー家の当主よ。一般貴族よりも上位の家で、確かいろいろなところに寄付とかしてて発言力もあるって」


「うわぁ」



 もう、うわぁ以外の感想が出てこない。みんなで協力しなきゃいけないってこの時に……


 一般貴族よりも位が高い。それでいて発言力もある。この場に王族の人間でもいれば、あそこまで横柄な態度にはならないのだろうが……


 エルフ族同様……いや、多少なりとも姿の見えたエルフ族とは違って。王族の人間は、ひとりも見かけない。



「あんな態度を取っても、誰もなにも言えないわけだ」


「ガラド様は、どうしたのでしょう」


「そういえば、姿を見かけないな」



 こんな騒ぎが起きていたら、あの人なら止めそうなものだが。肝心な時にいないんだな。



「それが、外へ見回りに。いつ、危なくなるかわからないからと」


「なるほど」



 ああいうタイプの人間にとっては、ガラドは厄介な人間に映ることだろう。自分よりも、地位も力も上なのだから。


 そんな、目の上のたんこぶ的な存在がいなくなった。これ幸いと、好き放題言っているわけだ。


 こんな状況だ、魔族に備えて出来るだけ、戦える人物は多い方がいいんだが……この分だと、難しそうだな。



「はぁ、どこにでもいるのよね。ああいうの」



 騒ぎ立てているおっさんを眺めつつ、ノアリが呆れたようにつぶやく。



「そうなんですか?」


「えぇ。権力を持っているから手が付けられない上、妙にプライドも高いから自分が正しいんだと疑わないの」



 うんざりした様子のノアリ。きっと、これまでにも似たようなタイプの人間を数多く、見てきたのだろうな。


 しかし、このままでは食堂内の空気が悪くなるだけだ。ここは、あのおっさんを黙らせるか。


 またクルドに頼む……のも、なんだか悪いしな。ここは、一応『勇者』の家系である俺の言葉なら、通用するだろう。あまり目立ちたくはないが、仕方がない。



「おい、おっさ……」


「騒がしいですよ、何事ですか」



 一歩踏み出し、口を開いた……ところへ、別の所から声が上がった。食堂の入り口から……こことは、また別の出入り口だ。


 それも、聞いたことのある声。みな、一様にそちらに顔を向けて……驚いた、表情を浮かべている。


 俺たちも、導かれるように首を動かす。人が多くてよく見えない。



「ん……んん?」



 飛び上がったり、移動したりして、ようやくその人物を確認する。


 そこにいたのは……ある意味、この状況にいてほしい、人材であった。



「り、リーダ様?」


「おや、これはヤークワード先輩。ご無沙汰しております」



 先ほどまで、騒がしかった食堂ないが、沈黙に包まれる。ただ現れただけで、皆の注目がひとつに集まった。


 リーダ・フラ・ゲルド……そこに立つ、人物の名前だ。このゲルド王国の王族……元第二王子であり、現在国王がいないこの国で一番の発言力を持つ人物。


 学園内に見かけないと思ったが……今まで、どこにいたのか。その後ろから、ガラドが姿を現した。



「が……父上」


「見回り中、リーダ様が捕らえられている場所を発見してな。連れてきたんだ」



 ガラドの話によると、とある建物……誰かの家の中に、拘束され口も塞がれた状態で、閉じ込められていたらしい。それも、ひとりで。


 偶然、人のいないはずの場所から、人の気配を感じた。で、その家に入ったら、リーダ様が捕まっていたというわけだ。



「にしても、なぜひとりで?」


「さあな。魔族は僕を捕まえた後、すぐにどっかに行っちゃいまして」



 仮にも、次期国王だ。ひとりだけ、隔離して捕まえておこうというつもりだったのだろうか?


 だが、ガラドが見つけなければ今頃もひとりだ。まさか、衰弱死でもさせるつもりだったのか? なぜ、そんな回りくどいことを?



「……」



 リーダ様が現れた衝撃が過ぎ去り、周囲では微かにひそひそ声が出てくる。……ま、無理もないだろう。


 リーダ様は立場的には、次期国王だ。だが、その裏では周囲から疑念の目を向けられてもいる。


 国王の最期の言葉は、リーダ様を次期国王にするというものだ。だが、第一王子であったシュベルトの失脚……その原因が国王にあったとはいえ、それを引き起こしたのはリーダ様だ。


 身内を失脚させた男。それは、すでに国民からの信頼を失いつつあった王族への、さらなる追い打ちとなったわけだ。



「……ま、仕方ないことですね」



 同じことを考えていたのか、リーダ様はやれやれと言わんばかりに首を振る。


 なんにせよ、王族であることに変わりはない。それが、どんな人物であろうと……この場で、一番の発言力を持つ、人物なのだ。


 彼が、なにを話すのか。みんなの注目は、そこにあった。



「皆さんが僕のことを、よく思っていないのはわかります。それを踏まえた上で言います。こんな時にまで、人同士で争うべきではない」


「っ……」



 直接誰かに、言ったわけではない。それでも、自分が言われたつもりになったのだろう。先ほどのおっさんは、口をつぐんで目をそらした。


 それから、リーダ様は一面を見渡して……



(きた)る魔族に備え、我々は一丸になって挑むべきです」



 そう、堂々と宣言した。

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