懐かしき再会
「う、ん……」
「あ」
今後の魔族の襲撃……それに備えようという話になったところで、小さな声がした。
今の今まで眠って……いや気絶していた、ノアリのものだ。うっすらと目を開け、それにいち早く気がついたミライヤが、声をかけた。
「ノアリ様! 目が覚めたんですね!」
「あ、れ……ミライヤ? わたし……」
起き上がろうとするノアリを、ミライヤはそっと支える。
起きたばかりでぼーっとするのか、頭を押さえている。
「大丈夫ですか?」
「うーん……なんだか、お腹がズキズキする。なんでだろ」
「……」
「……」
腹部の異変を訴えるノアリ。俺とクルドは、とっさに顔をそらした。腹部のズキズキに、心当たりがあったからだ。
だが、黙っているわけにもいかない。やがて、クルドが口を開いた。
「すまない。やまれぬ事情があったとはいえ、少々やり過ぎたかもしれん」
「え……うわぁぁぉあ!?」
突然の第三者の声に、ノアリは悲鳴を上げる。だがそれは、恐怖ではなく驚きによるものが大きい。
いいリアクションするなぁ。
「……って、クルド……?」
「! 覚えているのか?」
「当然! 恩人の顔を忘れたりなんかしないわよ。懐かしいわねぇ」
落ち着いたところで、ノアリはクルドを認識したようだ。しかし、いくら恩人とはいえ、もう10年も前のことなのにな。しかし、当時のノアリは不調だったし。
それだけ義理堅いということか。それとも、クルドの顔は忘れられないほどに印象深いということか。
まあ、竜族だしな。
「あれ、でもなんでクルドがここに……あ、ヤーク」
「今かよ!」
「え、え? これどうなって……そうだ、魔族! あいつらはどうしたの!?」
頭を整理すると同時に、徐々に気絶する前の記憶がよみがえってきたようだ。
魔族が現れたこと、魔族と戦ったこと……それは、覚えている。問題は、どこまで記憶が残っているかだ。
「ねえ、説明して! なんか、記憶があいまいで……どうなったか、知ってるんでしょ?」
「……ヤーク」
「あぁ」
ノアリには、現状をはっきりと把握してもらう必要がある。……そして、その身に起こった出来事も。
ミライヤには先んじて軽く説明はしていたが、改めて2人に説明するとしよう。
「実は……」
俺は、すべてを話した。ノアリがみんなのために剣を取り魔族と戦ったこと、その最中から竜族の血が覚醒し始めたこと、ほぼ暴走状態にあったこと、魔族が去っても止まらなかったこと……
そして、ノアリを止めるために俺が立ったが歯が立たなかったこと、クルドが助けに来てくれたこと……すべて、包み隠さずに。
「……竜族の……血……?」
「すまん。我らの血のせいで、お前に苦労を……」
「あ、ううん。その血がなかったら死んでたかもしれないんだから……恨み言とかは、ないのよ。ないん、だけど……」
自分の身に起こった出来事に、思うことがないわけではない。竜族の血がなければ死んでいた、だが竜族の血の影響で暴走した……
そう簡単に、割り切れるものでもないだろう。
「私が……ヤークを、殺そうと……」
「いや、気にするなって。こうして生きてるわけだし」
本人としては、誰かを殺そうとしたこと……が、こたえているのかもしれない。俺だって、自覚のないうちに親しい人間を殺そうとしたって知ったら……
ノアリにとって、難しい問題だろう。
「……あ……なんか、ぼんやりと……思い出して、きたかも……」
青ざめていく表情を隠すように、俯くノアリ。今なにを思っているのか、推し量ることは出来ない。が、想像は出来る。
人を殺そうとした……いずれ覚悟が出来ている俺とは違って、ノアリは……
「大丈夫、そんな思いつめるな。……って、こんなん気休めにもならないよな」
「……」
「けど、あの力がなかったらみんな、魔族にもっとひどい目に遭わされていたかもしれない」
責任を感じているノアリだが、実際に俺やクルドは気にしていない。気にする必要のないことだ。
それに、あの力のおかげで、魔族は撤退した。……正確には、撤退するまでの時間を稼げた、だが。
「ヤーク……」
「うん、前向きに考えようぜ」
ただ、気になることもある。次なる魔族の襲撃に備えて、ノアリのあの力がまた必要になることは明らかだ。
問題は……またノアリがあの力を使ったとき。同じように暴走しないか、だ。




