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襲われた人々



「俺は今日はたまたま家でゆっくりしていてな。ミーロと、のんびりしていた」



 ガラドは、話し始める。俺は服を引きちぎり、無理やり片手を固定して回復に努める。


 ガラドにしては珍しく、予定の入っていない1日だったらしい。


 キャーシュは学院、アンジーは俺と出かけていたということで、家にはミーロと2人だけだった。



「だが、いきなり外が騒がしくなってな……出てみたら、魔族が暴れていた」



 外での騒ぎ……異常が起こっていることはすぐにわかり、ガラドは飛び出した。


 そこで見たものは、例の魔族たちに襲られる人々。俺もガラドも見たことのない魔族ではあったが、魔族と対立したことのあるガラドは、それがすぐに魔族だと理解した。



「国中で騒ぎが起こっているのはすぐにわかった。だから俺は、周囲の魔族を倒した後、事態を確かめるために動き出した」


「その時、母上は?」


「……足手まといになるからって、助けた人たちと身を隠すことにした」



 ガラドが自由に動くには、ひとりにしておいた方がいい。それがわかっているから、ミーロはガラドを送り出した。


 とりあえず魔族を倒したのなら、身を隠せばひとまずは安心のはず……


 ……だったが。



「国中を駆け回り、途中で気づいた。奴らが、どこから現れているのか」


「……」



 魔族は、人の影から現れる……それはつまり、ミーロの影にも魔族が潜んでいた、ということだ。


 ガラドは、ひとりになったところで自分の影から出てきた魔族に襲われ……返り討ちにしたが、その時に気付いた。


 あのとき、ミーロの影に魔族が潜んでいるのを、見落としていたとしたら……魔族が、ガラドがいなくなるまでミーロの影に息をひそめていたとしたら……



「……母上も、捕まった可能性が高い、と」


「すまん、俺のミスだ。気付いた後に、すぐに戻ったがミーロたちはいなかった。新たに、場所を移したのでなければ……」



 不甲斐なさそうに、ガラドは頭を下げる。その心中は複雑だろう。


 だが、ここで後悔しても、仕方ない。



「じゃあ、他に無事だった人は……」


「……わからん。城にも駆けつけはしたが、もぬけの殻だった」


「騎士学園には?」


「そこは、まだ見に行ってない。途中で、お前たちを見つけたからな」



 城に誰もいなかった……あの魔族の言葉からしても、もう無事な人はいないのだろう。王族はみんな捕まり、どこかに移動させられた。


 そして、まだ確認していないという騎士学園……ここには王族のリーダ様もいるし、次に魔族が率先して狙うならここだろう。


 それに、騎士学園にいるのはみんな優秀な人材だ。さすがに、すんなりと掴まったとは思いたくないが……



「キャーシュも、心配だ。あいつは戦える力なんて持ってないからな」


「っ……」



 キャーシュは、俺とは違い武の学園ではなく知の学院に通っている。戦う力なんて、あるわけがない。


 俺の、大切な弟だ……もしキャーシュに傷ひとつ付けてみろ。魔族なんか皆殺しにしてやる。



「ただ、これだけの騒ぎになってはいるが、おそらく死人は出ていない」


「……それはなぜ?」


「あくまで俺が見てきた範囲だが、血痕が少ない。多少乱暴された感はあるが、人が死ぬほどの血痕は残されていない。だから……」



 言いながらも、ガラドの表情は固い。それは、おそらく今自分で言ったことに確実性がないからだろう。


 大量の血痕は残されていない……だから、死ぬほどに痛めつけられた人はいない。……普通に考えれば。


 だが、場合によっては血を流させずとも相手を絶命させる方法なんてたくさんある。しかも、相手は魔力を使う魔族だ。


 誰も死んでいない……これは、願望に等しい。



「っ……みんな、生きてる。キャーシュも、母上も、アンジーも、先生も。ノアリも、ミライヤも、ヤネッサも、リィや、他のみんなだって」



 俺たちが、みんなの生存を諦めてどうする。信じろ。


 とにかく、俺とガラドの情報交換は終わった。次は、ここからどうするかだ。



「まずは、捕まった人たちがどこにいるのかの確認をしたい。国中の人間を集めるなら、そう見つかりにくい所にはいないはずだ」


「あとは、他にも逃げのびている人がいないか……」


「あぁ」



 言って、考える。学園にいるみんなは、逃げ出すのは難しいかもしれない……だが、ヤネッサならどうか。


 ヤネッサならば、鼻が利く。異常に。片腕を失っているとはいえ、ヤネッサなら魔族から逃げ切ることもできるかもしれない。


 ……例の、結界がなければ。



「しかし、その結界とやらが俺たちに影響を及ぼさないのは、不幸中の幸いだったな」


「……そうですね」



 エルフ族の、魔力を封じる結界。魔力が強い者ほどその影響を受けやすく、動けなくなるほどだ。


 やはり、エルフ族が逃げのびていると考えるのは、楽韓的かもしれない。



「そろそろ、行きましょう。こうしている間にも、事態は動いてる」


「だがお前、片手の怪我がまだ……」


「治りきるまで待ってなんていられませんし……父上だって、ボロボロでしょう。父上こそ休んでていいんですよ?」


「言うようになったじゃないか」



 その場から立ち上がった俺に続いて、ガラドも笑いながら、立ち上がる。


 少しだが、休憩もできた。どのみち、ずっと隠れたままではいられないんだ。


 魔族に襲われ、普段なら考えられないほどの静寂に包まれた国……若干の不気味さを感じながらも、俺たちは行動を開始する。

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