その戦いの結末は
黒く、漆黒に光る剣。それは、どこか禍々しい雰囲気を感じさせる。
セイメイの持っていたものに似ているからか、別の理由からはわからないが。
「……お前も、剣を使うのか」
「まあ、嗜む程度には」
剣を今まで使っていなかった……つまり、あいつは今まで、本気じゃなかったのか?
アンジーを襲った魔族も剣を持っていたし、魔族とはそういうものなのか。こいつらがそうなだけなのか。
少なくとも、転生前に対峙した魔族は、剣なんて使っていなかった。
「……避けてくださいね」
「は?」
魔族はふと、告げる。そして、剣を持っている右腕を、後ろへと伸ばす。剣のリーチ以上の距離が、先生と魔族の間にはある。
だが、先ほど魔法を使ったように……魔族に距離なんて、関係がない。
しばらくの沈黙。その後、魔族は腰を捻る要領で、思い切り右腕を振り抜いた。
「ザッ!」
「!?」
剣が振るわれ、刀身からは黒い斬撃が放たれる。さっき、手から放ったものより大きく、強力な、飛ぶ斬撃だ。
また、速く、凄まじい速さで先生へと向かっていく。
「先生!」
「くっ……ぐ、ぁ!?」
先生は咄嗟に、構えた剣で斬撃を打ち払う。あれを目を追い、対応したのだ。さすがの反射神経。
だが、斬撃を打ち払うまでには至らず……斬撃は、先生の体を斬り裂いた。
「せんせぇっ!」
「ロイ、様……」
先生の体から、血しぶきが上がる。それは、とても軽症とはいえない傷。
アンジーは、立ち上がろうとする。すぐにでも治したいのだろう。だが、体が言うことを聞かず……魔法だって、使えない。
「ほぉ、咄嗟に致命傷を避けましたか。ですが……もはや、動ける傷ではない」
「くっ……」
膝をつく先生は、地面に剣を突き立て、なんとか倒れまいとしている。だが、もう動けそうにないのは明らか。
致命傷は避けたが、それでも威力が強すぎた。
「てめぇ……!」
「よ、よしなさい、ヤーク……アンジーを、連れて……」
俺は、剣を構え魔族に突っ込んでいく。なにも、自暴自棄になったわけではない。
ちゃんと、相手を見て……勝つことは、一旦置いておく。ここから、アンジーと先生を、連れて逃げるだけの隙を、作る!
そのためには、魔族に動けなくなるほどの致命傷を与える。
「また突っ込んで……いや、なにか狙いが?」
こいつは、俺を侮っているはずだ。なら、そのうちに一気に勝負を決めてやる!
我竜の太刀……!
「"竜星"……!」
「ふん」
助走をつけて飛び上がり、魔族目掛けて渾身の一太刀を振り下ろす。せめて、片腕くらいはもらう……!
対して魔族は、俺の斬撃を弾こうと、剣を振り上げる。
ガギンッ!
鈍い音が、響く。互いの力が拮抗し、刃からは火花が散り……
一瞬の、拮抗。そして……
バキン……ッ
剣が……
「折れた……?」
俺の剣は、粉々に砕かれた。魔族の剣は、健在……力負け、したのだ。
俺は、つまり丸腰に……
「く、そぉおおお!」
折れた剣は、使えない。剣を手放し、俺は右拳を握りしめる。それを、思い切り振り上げ……
魔族の顔面目掛けて、振り抜いた。
「無駄ですよ。あなたの拳など、私には効か……っ!?」
俺の拳など、効かない。そんなの、さっきのやり取りでわかっている。それでも、なにもせずにいられない。
そう思い、振り抜いた拳は……魔族の頬を、捉え……魔族の体を、ぶっ飛ばした。
「え……」
拳が、少し痛い。確実に、殴り飛ばした手応え……先ほどとは違うものに、驚きを隠せない。
さっきは通用しなかったのに、どうして……?
「ぐっ……驚き、ましたよ。まさかこんな……」
魔族は、ゆっくと起き上がる。やはり、俺の拳は効いている。
どういうことかはわからないが、考えるのは後だ。魔族に隙ができた今のうちに、この場を離れて……
「しかし……残念です。もう、終わりましたよ」
「……あ?」
「2分……制圧、完了です」
口と思われる部分から流れる血を拭いつつ、魔族は言った。あれ、やっぱり仮面じゃなかったのか……? でも、ヒビが入ってる気がするし。
いや、それよりもだ。どういうことだ、もう終わり……制圧、完了とは。
「なに言ってる、俺はまだ……」
「言ったはずですよ。2分で、この国を、制圧すると」
「!」
そうだ……魔族は、確かにそう言っていた。別に、俺たちを捕まえるとか、そんなことは言っていない。
国の制圧が、完了した……その言葉の意味するところは、つまり……
「城が、落ちた……?」
魔族の手により、城が落ちたと……そう、思わざるを得なかった。
俺たちは、ただ……この魔族に、遊ばれていただけだったってのか。