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宣戦布告



 俺たちの前に現れ、突然膝をついた謎の人物。その行動に、なんの意味があるのかまったくわからない。


 隣にいるアンジーを見ると、アンジーと視線が合う。アンジーも、目の前の行動に訳が分かっていないようだ。


 鎧で、何者かはわからない……だが、俺の知り合いでも、アンジーの知り合いでもないのは、確かだった。 



「……? あ、あの……な、なにして、るんですか?」


「もしかして、誰かと間違えて、いませんか?」



 誰かに、膝をつかれることをした経験なんてない。困惑しかない。


 だが、その困惑の正体を知るために、なんとか声をかける。すると……



「……おや、まだ、でしたか」



 顔を上げたその人物は、意味の分からないことを言った。顔が見えないので、なにを考えているのか、さっぱりわからない。


 男は、ゆっくりと立ち上がる。



「ふむ……なるほど。どうやら時期を間違えてしまったようですね」


「……?」



 今の行動は、間違いだと認めた男……だが、気になる一言があった。


 時期を、ってどういう意味だ?



「あの、あなたは……その、鎧のようなものは?」


「! これ、ですか……あぁ、これは鎧ではないんですよ。私の体です」


「……?」



 着ている白銀の鎧を、体の一部だと言う。あんな体をした人間が、いるものか。


 だが、よく見ると……確かに、鎧ならば着脱可能なつなぎ目のような部分があるはずだが、それが見当たらない。


 それに、鎧のように見える……ほどに、その体は異形に見えた。と言うなら、説明はつく。つくが……



「いや、でも……」



 なんと、応えればいいのか。もしかして、そういうなりきり、だろうか。精密な鎧ならば、こういうのもあるかもしれない。


 俺たちの困惑を知らずか、その人物は周囲を見渡すばかり。


 ……さっきから、妙な感じがするのは、気のせいだろうか。以前にも、感じたことがある……


 これは……



「……魔族?」



 自然と、口をついて出た言葉。そうだ、この妙な感覚……俺が、転生前に感じたことのあるものだ。魔族を前にした時の、妙な感覚。


 いや、でも、それはおかしい……だって、魔族はあの時、確かに消滅したはずで……



「や、ヤーク様? 今、なんと……」


「おや、正解です。まだ名乗ってもいませんが、さすが気がつかれたようですね」



 驚くアンジーをよそに、男は自分が素直に認めた。自分が、魔族であることを。


 でも、おかしいだろ……魔族がいることも、この国に入っていることも。でも……考えてみれば、『呪病』事件の犯人は魔族だった。そして、魔族が現れた原因は、俺の転生の影響によるものだと、セイメイは言っていた。


 どこかから、急に湧いた魔族……こいつも、そうだっていうのか?



「にわかには、信じられませんが……あなたが本当に魔族なら、なんの目的で、ここに」



 素早く、アンジーが俺を守るように立つ。アンジーから漂うのは、警戒心……いや、敵意だ。


 アンジーが魔族と会ったことがあるのかは、わからない。だが、魔族が俺たちにとってよくない存在なのは、わかっているはずだ。



「目的、ですか」



 男は、アンジーに敵意を向けられているにも関わらず、慌てた様子はない。それどころか、のんびりと、空を仰ぐ。


 まるで、なんと答えるべきか考えているように。



「……っ」



 長い、長く感じられる時間……何秒か、何分か、それとも……それほどに感じられる、時間。


 その静寂が、ふいに破られた。男はついに、見えない口を開く。



「えぇ、目的……そうですね。どう語ったものか、言葉を選んでいましたが、いい言葉が思い浮かばなかったので、ストレートに伝えさせてもらいます」


「……なにを」


不躾(ぶしつけ)ながら…………このゲルド王国に、宣戦布告に参りました」



 ……男の、仮面の奥に隠れた、漆黒に隠された目が……赤く、光った。



「…………は」



 俺の、聞き間違いだろうか……今、男はなんて言った?


 聞き間違い、でないのなら……



「せん、せん……」


「ふこく……?」



 意図せず、俺の言葉をアンジーが引き継ぐ。俺の言おうとしたものと、同じ言葉……つまり、聞き間違いでないことが、男に問い掛けるまでもなく証明されてしまった。


 男は、確かに言ったのだ……宣戦布告、と。宣戦布告に、参ったと。



「あ、あなた……なに、を言っているのか。わかって、いるんですか」


「えぇ。伊達や酔狂で、そのようなことを言うはずがありません」



 なぜ、俺たちの方が焦っているのだろう。なぜ、この男はこんなにも堂々としているのだろう。


 宣戦布告なんて、大それたことを言っておいて……この男は、なんでこんなにも、冷静でいられるんだ。



「あぁ、驚かせてしまったみたいですね。申し訳ありません。やはり、もっと慎重に言葉を選ぶべきでした」



 落ち着いた口調で、その物腰はとても丁寧だ。それだけ聞くと、とても宣戦布告なんて物騒なことを言い出すようには、思えない。


 だが、事実としてこの男は、言った……宣戦布告と。それも、一国相手にだ。


 いくら魔族とはいえ、たったひとり……にも関わらず、国を相手に戦争を起こすつもりなのか?



「イカれてる……」


「なんの、ために……なんのために、そんなことを!」


「なんのため、ですか。我々の目的のために、この国の立地、大きさ、人間の数……それらは非常に都合がいい」


「目的……?」



 考えてみれば、当たり前だが……一国を相手に、戦争を起こそうというのだ。そこには、明確な目的があるはず。ただの戦闘狂でもない限り。


 戦争を起こし、その先に目的がある……それは……



「あなた方人間にもわかるよう、端的に言うならば……世界征服、というやつです」



 途方もない、目的を……男は、口にした。

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