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愛称で呼ぶ仲



「ミーちゃんの様子が、おかしいんです」


「……」



 それは、デートの翌日のこと。ミライヤとビライス・ノラムは特に変わったことをするでもなく、普通に買い物や食事を楽しみ、日が傾いてきたところで学園の寮へと戻った。


 俺とノアリはキャーシュと別れ、それぞれの部屋へと戻っていったのだが……その翌日。


 リィから突然呼び出され、開口一番に言われた言葉がこれだ。ちなみに昨日に引き続き今日も休日だ。なので、どちらかが呼ばない限りは会うことはない。


 (だんし)なんか女子寮には入れないから、向こうから()でもしない限り連絡手段がない。だから、てっきり呼ばれるならノアリかミライヤあたりだとは思っていたのだが。



「まさか、リィとは」



 ミライヤと同室の、リィが朝早くから訪ねてきた。後ろにはノアリも連れて。


 なんで訪ねて来たのか、なんとなくわかる。そして、ここにミライヤがいない理由も、察しはつく。


 それはそれとして、だ。



「? どうかしました?」


「あー……なんでもない。まず、いいか。ミーちゃんってのは……?」



 いきなり、誰かもわからない名前のようなものを出されてしまっても、混乱してしまう。


 まあ、これが愛称だとして、リィが愛称で呼ぶほど仲が良い人間なんて限られてくるわけだが。



「あ、すみません。ミーちゃんというのは愛称で、ミライヤのことです。同じ部屋にいるし、せっかくのたった2人の平民なんだから、もっと仲を深めたいなと思いまして」


「なるほど。仲が良いのは結構だよ。じゃ、ミライヤもリィのことを愛称で?」


「はい! 私たち、お互いをミーちゃん、リーちゃんと呼びあっているんですよ」


名前(リィ)より愛称(リーちゃん)の方が長いじゃん!」



 思わず、お互いの、というかリィの愛称に反応してしまったが……ま、まあそれは本人たちの自由だし、愛称が長かろうが俺が口を出す問題じゃないな、うん。


 それよりも、だ。リィが俺を訪ねてきたのは、なにも愛称の話をしに来たわけではないだろう。シュベルト様に聞かれないよう、わざわざ、学園の中庭にまで場所を移したんだ。



「こほん。で、ミーちゃん……ミライヤの様子が変、ってのは?」


「はい。昨日なんですが……ミーちゃん、朝から約束があるって言って出掛けたんです。それで、帰ってきたのは少し暗くなってきてからだったんですが……」


「……」



 ふむ、予想はしていたが……完全に、昨日のデートのことだな。朝出掛けて暗くなって帰ってきたとか、もう間違いない。


 問題は、どう変だったか、だ。



「それで、なにが変だったの? さっきから気になってたのよ」



 先を促すよう、言うのはノアリだ。先にリィに呼び出されたのだろう、その内容は俺よりも気になっているはずだ。


 というか、近頃俺とノアリがセットで呼ばれること多いな。



「はい。その……なんて、言えばいいのか……」


「大丈夫、ゆっくり整理してからでいいよ」


「はい。……なんだか、とても、幸せそうだったんです」


「……ほぉ?」



 リィの言葉は、少し予想外ではあった。昨日、デートを尾行した感じミライヤの笑顔は本物だった。そこに嘘はない。


 とはいえ、ひょっとしたらデート相手がいる前だから頑張って笑顔を作っていただけで、ひとりもしくはリラックスできる場所に行ったら笑顔が剥がれるかもしれない……そう、思っているところはあった。


 なので、変だと言うなら落ち込んでいるとか、表情がぎこちないとか、そういうことだと思っていたのだが。



「幸せそう……?」


「はい。どこへ行って、誰と会ってたのか話してはくれないんですが……とっても、充実した様子で。出掛けた先で、よほど嬉しいことがあったんだなと、わかったんです」



 嬉しいこと、か……それが、昨日のデート。あの笑顔は、嘘偽りない、本物だったって訳か。


 リィの台詞から、ミライヤはやはり昨日のデート……いやお見合いの申し出を受けたことすらリィには話していないようだ。


 それはリィには余計な心配をかけたくないというのがあるのだろう。だが、リィの立場からしたら、そんな隠し事をされているというのは……



「なので、昨日ヤーク様となにかあったんじゃないかと!」


「……んん?」



 ……あれ、今俺の名前出てきた? なんで、どんな話の流れで?


 話を聞いていなかったわけではないが、いきなりの展開すぎて……どうして俺の名前が出てくる?



「どうして俺?」


「いや、あの表情は多分、男の人となにかあったと思うんですよ。だから……」



 ……相当わかりやすい表情してたんだろうな、ミライヤ。男と会ってたってことまで当てられてるよ。


 問題は、なんでそこですぐ俺に結び付くかなんだが。



「あ、ミライヤと仲良い男が俺くらいだからか?」


「……」



 なぜか、ノアリにあきれた目で見られた。なにか間違ったのだろうか?


 だがそうだろう、この学園ではミライヤが仲良くしている男子は少ない。リィも共通でわかる人物と言えば、俺かシュベルト様くらいだろうし。会った人物が学園外の人間なら、また別だろうが。



「ま、そういうことでいいんじゃない」


「なんで投げやりなんだよ……いや、俺は関係ないよ」



 あきれた様子のノアリはともかく、俺は関わっていないことを話す。結局、お見合いの件を話した方が早いのだが……さすがに、勝手に話すわけにはいかないしな。


 リィには、良いことあったんじゃないか程度に留めておいて、ミライヤ本人から話してもらった方がいいだろうな。

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