ねことおばけ
こんにちは。ねこです。
最近、レストランにも様々なお客様がいらっしゃいます。
忙しいですが、大好きな彼と(本人には秘密)一緒に働いていると、その忙しさも幸せに感じます。
そんなねこのレストランには、時折不思議なお客様もご来店されます。
「……彼はまだこないのでしょうか。幸いそんなに忙しくはないのですが、その……」
早く会いたい。本人が居なくてもこの言葉を口に出すのはなんだか気恥ずかしくて、躊躇ってしまいます。
「……とにかく、彼が来たらできるだけお話できるように、ホール作業は皆様のお支払い(このレストランではお金の代わりに『お話』を支払ってもらう)を済ませてしまいましょう」
ねこは賢いので、少しでも長い時間彼のそばにいる為の方法をたくさん考えます。えっへん。
そうこうしているうちに、店内はお客様が0になりました。ピークタイムの対義語、アイドルタイムというやつです。
その時、またもやあの扉が音を立てて開いてしまいました。
「……?」
ねこは強いので、2度目の出来事には大抵耐性をつけているのですが、今回は扉が開いても誰も現れません。
これは……?もしかして「先のない扉」でも開きましたか?
「……とりあえず、閉めておきましょう」
と、扉に近寄った時でした。
「ばあ!えへへ、驚いた?ねえ、遊ぼ!」
いました。小さくて黄色い服を着た……幼い女の子です。
うーん……この姿、どのSCPでしょうか……
「……いらっしゃいませ。席へどうぞ」
「わーい、ここってお金がなくても美味しいご飯が食べられるんだよね!お友達のトカゲさんが言ってたの!」
「……トカゲ、さん、お友達……?」
あのSCPに友達……?
あ、もしかして
「あなた、SCP-999ですか?」
「人間のみんなはそう呼んでるね!私にはよくわかんないけど!それより、おねえちゃん素敵なお耳としっぽだね!」
「こちょこちょしてもいいかな!?いいかな!?」
SCP-999 「くすぐりオバケ」
オブジェクトクラス:safe
かわいいね。
「あなたでしたか」
「なんだかトカゲさんのお話がね、おもしろかったからね、私ね、扉がないかなー?ないかなー?っていっぱい探したの!そしたらね、私のお部屋の隅っこにもここに来られる扉があったの!すごいでしょ!」
「はい、さすがですよ。では……何を食べますか?」
「お子様ランチ!」
(メニューにはありませんが……)
「わかりました、お待ちください」
「わーい!」
------時間経過-------
「お子様ランチ、味はどうですか?」
「おいしい!おねえちゃんすごいねえ!」
「ありがとうございます」
元気いっぱいもりもりと食べる姿は本当の子どものようで、なんだか可愛らしいです。
「あのトカゲさんが美味しいって言ってたから、気になってたの!……あ、これ言っちゃいけないよって言われてたんだった!まあいっかー」
「おや、あの人が褒めてくれていたのですか」
これはいいことを聞きました。
「それでね、おねえちゃん!ひとつお願いがあるの……」
「お願い、ですか?」
「うん、あのね……あの……」
先程まで元気だった彼女が暗い顔になりました。何か言いにくい事なのでしょう。
「……ねこは怒りません。ですから、お話してみてください」
「……うん。あのね、私ね、ここに来るためにね、お話をいっぱい考えたの。でもね、思いつかなくって、それで、あのね」
なるほど、仕方がない気もします、今回はお話なしでも……
「おねえちゃんがは、はつじょー?してる人間の男の人の話を聞きたいの!」
「今すぐトカゲさんを呼んでもらえますか?」
あの人何を、こ、この子に何を伝えているのですか……!?
「えぇ?なんで?」
「あ、いえ、いえ……」
まあ言葉の意味を正しく理解している様子にも見えないので……今回はまだいいですが……
「ねえ、だ、ダメかなぁ」
「……あ、いえ。大丈夫ですよ」
「やったあ!」
「それでは……何から話しましょうか」
「どうしておねえちゃんはその男の人を好きになったの?」
「……そうですね。最初は毎日来てくれて、毎日素敵なお話を聞かせてくれる、そんなお客様でした。毎日顔を合わせているうちに、ねこには無かったはずの『感情』が芽生えてしまったのです」
「へえ、なんだかおとぎ話みたい!」
「そうかもしれませんね。彼の優しい笑顔。仕事に対する真剣な態度。少しおちゃめなところ。その全てにねこは惹かれてしまいました。そして……」
そして、こんなにも深く愛してしまったのはやはり……
「やはり……あの時の、ねこを『好きだ』と言ってくれた時ですね。異常存在なねこを……『私』を受け入れ、愛してくれる……そんな彼をねこもまた愛してしまったのですね」
そしてねこは異常性を失ってしまいました。
それもそのはずです。もう他の人を見る必要も、他の人に見られる必要もありません。ねこには彼がいれば幸せなのですから。
なんて。
「ふーん、そっかあ」
不思議なお話を聞いているような様子でいたSCP-999さんが何か考え込むような顔をして返事をしました。
「……どうか、しましたか」
「うーん、でもね」
「でも、私たちって『いちゃいけない』存在だよね?」
「!?」
「私、頭良くないから難しい事は分からないんだけど、でもね、でも、『どうやったら殺されるか、どうやったら生きていけるか』は分かるんだよ。私は人間に見つかって、すぐに捕まったの。そこで、いっぱい分からないことをされたんだ。なんか針みたいなのを通されたり、引っ張られたり押されたり、最初は怖くて、逃げようとして、精一杯体を振っててーこーしたの。でもね、そうするとね、おにいちゃんやおねえちゃんが怒るの。怖くて、怖くて、だから笑ってくれたら許してくれると思って、『こちょこちょ』したの。そしたらね、みんながね、『なんだか幸せだ』って言うの。その時、私わかったの。『こちょこちょしたら殺されないんだ』って」
「……っ」
SCP報告書とは、「人間がScipを確保し、収容施設で保護をしながら実験観察を行い、その結果を書いたもの」です。そこには「アノマリーのきもち」など微塵も含まれていません。
そう、ねこたちは「人間の世界」に現れた「異常存在」。ねこたちは普通に生きているだけでも、人間にすれば恐怖そのものなのです。だから財団はそれを捕らえるために日夜努力しているのですから。
「ねえ、なんで?なんで人間なの?トカゲさんじゃダメなの?日本しぶ?にはカッコイイSCPさんはいないの?ねえ?おねえちゃん?ねえ?」
「ネエ、ナンデ?」
「……」
でも、ねこはここにいたい、あの人と一緒にいたいのです。
そう、それが「ねこのきもち」です。
「彼は……彼は違います」
「違う……?」
「はい、彼は、ねこのきもちを分かってくれました。いいえ、私達の気持ちを、わかってくれるのです。きっと、きっとあなたの気持ちだって分かってくれるんです、そうなんです」
ねこは息が上がって、肩が上下するくらいの勢いでSCP-999に語りかけました。
しかし、それを聞いた彼女はただこちらを見つめるだけです。
「……」
「……」
「……」
「……」
「そっか、そうなんだ。そんな人間が、いるんだ。えへ、えへへ、いいこと知ったな、えへ、えへへ!うんうん、やっぱりここに来て良かったなあ!トカゲさんにもお礼を言わなくっちゃ!」
「……はい、是非」
「えへへ、ごめんね、意地悪なこと言っちゃって。でも、その人なら大丈夫なんだね!」
「はい。大丈夫ですよ」
絶対に、大丈夫です。
「じゃあ、私そろそろ帰るね!」
「あ、はい。ご来店ありがとうございました」
「……最後に〜」
「……?……ふにゃあっ!?」
「こちょこちょ〜」
「ちょ、あのっ、えっ、あっ、」
「こちょこちょ〜」
「ふにゃっ、あっ、っう、にゃうっ、」
「こちょこちょ〜」
ドア「彼が来たやで」
「ねこさん、今日もお手伝い……に……!?」
「こちょこちょ〜」
「にゃうっ、あっ、ひぅっ、ふぇっ……!?」
「あ、えっと……ねこ、さん?」
「こちょこちょ……ん……?あ、人間だ」
「う……」
「うにゃぁああああああああぁぁぁ……!!!」
レストラン、今日も元気にオープン中です。