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ブラック・キャンバス 偽りのエミュレーター   作者: キット
舞い降りた青
7/14

ロイヤルストレートフラッシュ

 不可解な気分が体をむしばむ。気持ち悪くもあり、奇妙さもある・・・そんな感じだ。

 決して、今の状況に危機感を感じているわけでもなく、逃げ出したいわけでもない。だけど、だけど・・・・どうしてこうも____。


 「あ、有緋あるひちゃんだね・・・。俺は、名取絵人。これからよろしく。」


 定型文の様な返事をした。心の籠っていない、どこか上の空の様な。


 「うん・・・!名取お兄ちゃん!」


 はしゃいだその笑顔は、この部屋にいる誰よりも眩しく、穏やかにり続けた。それから少しして、有緋は部屋を後にし、自室へと戻っていた。明るい雰囲気が引いた後は、静かで落ち着いた時間が生じ始める。それは、友達と遊んだ後のむなしくもあり悲しくもある、それでもって高鳴る様にはずんだ心情。


 「ところで、裏亜りあ姉 さっきの続きはどうするんだ?」


 クールな声色が俺と裏亜りあさんとの距離感を繋ぎ止める。


 「あ・・・そうだった。有緋が来たからすっかり忘れちゃってた・・・・・・」

 「俺には有緋の登場を喜んでいる様に見えたけどな?ジャストタイミングだったし」

 「・・・雲雀、あまり姉の足元をすくわない様に」


 ここに来て初めて、鶫谷 裏亜りあという人物の《素》を見た気がした。いつもは気さくで少し強引な彼女だが、それはあくまで俺に接しやすくしていたのだと悟る。


 「分かったよ。けど、名取を《恐喝もとい精神的恐怖で半強制的》に仲間(ファミリー)にしたのは事実。それについては言及の余地はあると思うけど」


 しかし、雲雀は引き下がらない。持ち前の話術で相手の弱点を突く。


 「それは・・・そうだけど。でも、もう、決まった事だしなぁ・・・?」


 どうかな?と確かめる様な眼差しを俺に向ける朱色の女性は弱々しく応えを待つ。もちろん、俺も裏亜りあさんの誘いに、OKを出してしまっている身なのであまり強くは否定できない・・・のだが_____。


 「そうですね・・・・でも、俺もあんな形で話が決まるとは思ってもいなかったですし。それに、俺なんかでいいんですか?」

 「名取君をこちらに誘うのは決定事項だから。そこに、疑問は抱かなくていいよ。だけど、私もあんな勧誘の仕方をして悪いとは思っているんだぞ?」

 「だったら、何か別の方法でもう一度、決め直したらどうだ?」


 どちらの味方なのか、雲雀は俺を救う意味でも裏亜りあさんを救う意味にも取れる発言をした。少なくとも、雲雀はこの家系の一員で自らの状況に不利になる様な立ち回りは取らない。しかし、もしそうであるのだとすれば、ここで俺ではなく姉の裏亜りあさんに加担した発言をしないのは少し疑問を覚える。


 「別に俺は名取がここの一員になることも、ならないことも関係ない。ただ、裏亜りあ姉の引き込みに少々品の無さを覚えただけさ。それに、名取だって一度は返事を出してしまっている。いくら、強制的な状況になったからと言って、それに変わりはないし後から無しにしてくれってのも違うだろ?だから、俺はどちらの見方もしない、故にどちらにも平等でろうとしただけだ」


 饒舌じょうぜつに話す雲雀に部屋の空気はさらわれ、それが最も合理的であるかのごとく事は次のステップへと持ち込まれた。


 「・・・・・・じゃ、じゃあ、名取君 《ポーカー》ってどうかな?私たちの家では何か重要な決め事や()()()()()()とかに使用するんだけど・・・どうかな?」

 「・・・あっはい____!いいですよ。ポーカーなら、たしなむ程度にはやったことがあるので・・・。でも、いつもすぐに終わっちゃうんですけどね・・・・・・」


 と、言いつつも内心、俺の心臓は脈打ちを始め体中に張り巡らされた血管に沸騰した血液を急速に循環させる。


 (・・・・・・!?今、この人 命のやり取りって言ったよね!?聞き間違いじゃないよな?)


 場所が場所だけに彼女の発言の一つ一つに恐怖感が生まれる。それは、先程の事と言い有緋の血生臭いマシュマロが鼻を突いた時でもだ。何かが壊れている、この屋敷で俺は今も現在進行形でその《恐怖》と隣り合わせでいた。到底、友達の家に遊びに来ている気持ちではいられなかった。


 「それじゃあ、決まりだな。カードを配る、ディーラーの役目は俺が持とう」


 そう言うと雲雀は部屋の棚に置かれていた、いたってシンプルなトランプの束を手に取り軽やかなシャッフルを始めた。サッサッ____!とカードが擦れる音とそれを繰る手が、ぶつかり合う微かな衝撃音が狂いなく一定の規則性を持って数秒間行われる。その間も俺は額の汗と唾を飲み込みながら対戦の準備が整うのを待っていた。もし、ここで負けてしまえば俺は本当の意味で正式な仲間(ファミリー)になることを余儀なくされる。だが、ここで俺が勝ってしまえば、それを拒否することはもちろん可能。

 しかし、それは表向きな約束(ルール)であって本質的な部分は何も解決してはいなかった。素直に負ければこの場を穏便に済ませることは容易たやい。だが、勝った後にどうなるかは未知数だ。仮にも今、俺がいるこの場は相手側の領域(テリトリー)。負けたとしても、力づくでの隠蔽いんぺい工作で勝敗はいくらでも変えれてしまうのではないかと言う確信にも似た精神的負けが俺の中に芽生えていた。


 「さぁ、準備は整ったよ 名取君。これは公正な勝負だ。私は何の不正もしないし、結果に異論を唱えたりはしない。だから、君も もっと落ち着いて勝負に挑んでくれ」


 一息入れると俺は目の前に配られた5枚のカード(切り札)を見た。もの数秒でそれをまんだ人差し指と親指に微量ながらも汗が生じる。緊迫した空気の中で俺はしきりに相手の顔を見る。気楽な雰囲気は健在で今の自分とは真逆の彼女が怖く見える。それは単純に《慣れ》からきているモノだとようやく理解する。恐らく、この家系は生粋の《裏貴族(マフィア)》だろう。雲雀はいつも言葉をにごしてはいたが、それはもう無意味なことだ。何故なら、俺がそう感じてしまっているからだ。


 「はい。それじゃあ____いきます」


 覚悟を決めた。


 勝負師が勝負に出る様に_____。


 命を懸けた戦いに踏み出す様に____。


 戦略、戦術、戦法。数えきれない程の《ありとあらゆる》の中を紙一重で交わしながら俺は指先で未来を見据える。これから始まる死闘の序章を________。


 

 ________これはただのポーカーじゃない。そう、これは未来を変える戦いだ。



 暑くて冷たい風が吹く。


 そして・・・・・・数分が経過し・・・。



 「えーと・・・・・・これでいいんですよね?」


 恐る恐る俺は手札に秘めた5枚のカードをテーブルに差し出した。勝ち負けで言えば、確定的に俺の勝ちは決まっているのだが、それでも俺は今目の前で起こっている現象に理解が追い付かず、自身の勝利に実感が持てていなかった。


 「なっ・・・・・・!?え?それ本当・・・!?」


 そう、裏亜りあさんも思わず素の表情になってしまう程の決定的な決め手。瞳に映るのは()()()()()()()()()があしらわれた、10,J,Q,K,Aの5枚のカード。


 それが意味するのは、すなわち【ロイヤルストレートフラッシュ】。


 雲雀は俺の手札を見て、「フッ」と鼻で笑い、やっぱりなと言う表情をしていた。対して、裏亜りあさんは「嘘でしょ・・・?」と現実を受け止めきれず未だに並べられた5枚のカードを険しい顔で見つめていた。


 冷たい顔で俺はそっと呼吸をする。


 「な、なぁ・・・名取君?は、反則は・・・・・・良くないよ?」


 震える声で俺の両肩に手を置きゆする様に問いただす。その手は怒りと負けたことへの敗北感からかわずかに力が入っており、肩に痛みを覚えていた。


 「裏亜りあ姉、それは無いと思うよ。だって、カードを配ったのは名取ではなく俺だ。それに、俺はどんなに親しいモノが相手でも公正を崩しはしない」


 雲雀はいつものクールな面持ちで朱色の女性に声をかける。


 「・・・・・・雲雀。で、でも・・・・・・私は・・・私は・・・・・・名取君のそういう所に魅かれて、仲間(ファミリー)に誘たんだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!なんで、なんで、なんでぇぇぇぇぇーーーー!と言うか、雲雀!何であんた、jokerのカードを入れたの!!あれが、入ってなければ確率だってもっと上がったのに____!」

 「俺さjokerのカードが好きなんだよ。何て言うか、親近感があるって言うか。もし仮にjokerを入れたとしても、初手でロイヤルストレートフラッシュが出る確率は約12万分の1。そして、入れなかった場合の確率は約65万分の1だ。どちらにせよ、数10万の確率を壊したんだ。カード一枚の有無は意味がないと俺は思うけど」

 

 駄々をこねる姉に溜息を吐く雲雀。俺はこの姉弟のやり取りを今までに何度見てきた事だろうか?以前はもっと些細なことだったが・・・・・・。


 「そうだ、名取君!もう1回、もう1回やろう!そうすれば次は・・・・・・次こそは____」

 「裏亜りあ姉、少し落ち着いてくれ。名取も困ってるじゃないか。それに、勝負はもうついてるじゃないか?」

 「だって、だてえぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!」


 (こう見ると、どっちが大人か分からないな・・・・・・)


 そんな二人を見ながら俺はそう思っていた。


 「名取君もまだやりたりないよね?・・・・・・・・っね?」


 「勝ち逃げは許さないぞ・・・・!」と聞こえてきそうな程の暗黒微笑で迫ってくる裏亜りあさんに俺は動くことが出来ず、その場でしどろもどろになり果てていた。


 (やばい・・・!このままじゃ殺される_____どうにかこの状況を打破しないと!?)


 「あ、あの・・・・裏亜りあさん?」

 「何、名取君?」

 「俺、今からちょっと予定があるんですけど・・・・・・」

 「うんうん・・・で?」

 「だからその・・・・帰りたいんですけど」

 

 グッ____!


 右腕を掴まれる。彼女の嘩細かほそい指先の一本一本が、まとわりつく様に俺を捕らえる。次第に浮き出てくる血管がその意味を成す。


 「分かりました・・・なら、後1回だけ____でも、その前に御手洗いをお借りしてもいいですか?」


 この場にいる者なら容易に予想は付くだろうが、俺はこれを機に逃げるつもりでいた。当然、俺の企みを察しているのは裏亜りあさんはもちろん、雲雀もその一人であるだろうが、とりあえずはこの部屋から退室しなければ話にならない。かといって、そもそもこの部屋から出してもらえるかが大前提なのだが・・・・・・。


 「うん、いいよ。でも、場所分かるかな?」

 「え____?」

 (しまった・・・!?俺はここに来た時、すぐにこの部屋に通されたんだった。以前にも何度か来たことがあったけどその時とは部屋が違うから________)


 目的の場所は同じでも、そこへ辿り着く為の初期位置(スタートライン)が違えば話は別だ。この屋敷は一般的な豪邸とは比べ物にならない程の広さと部屋数。それに伴う、無数の扉。迷い込んでしまえば、ただでは出られない迷宮だ。だからこそ、屋敷の構造を知る者と同伴でない限り、屋敷中を自由に動き回るのは無理に等しく、裏亜りあさんの「場所が分かるかな?」という言葉は単に俺を心配しての発言だという事に気づく。だが、もしもここでその気づかいを無理に断ってしまえば逆に怪しまれるに違いない。例えば、《人がいると都合が悪い》と勘繰りを入れられかねないからだ。


 「どうしたの?」

 「あー・・・えーと・・・・・・」

 (何か言わないと・・・・・・!)


 口に出す言葉は思い浮かばずとも、何かをしなければ話は進まない。


 その時だった____


 ポケットに入れていたスマートフォンが鳴り、振動が肌に伝わる。


 (これだ____!)


 「電話みたいなんで、失礼します____!」


 刹那、俺はスマホを入れた右ポケットに手を置くと足早に部屋を出る。突然の出来事にその場にいた俺以外の2人は軽く返事をし、俺の退室を許していた。


 (ラッキー・・・でも、誰からだろう?俺に用事なんて珍しいな?もしかして、間違い電話?それでもいいや。今はあの部屋から出る方が優先だし)


 と、思いつつも俺は電話の相手が気がかりで画面に表示されている名前を見ずに、すぐさま通話を繋いだ。


 「もしもし」

 「____もしもし、名取君?」

 「____そうだけど・・・切峰さん?」

 「突然、電話しちゃってごめんね」


 電話の相手は記憶に新しい転校生の《切峰 雪紗(きりみね ゆきさ)》だった。


 「それは別にいいんだけど・・・むしろ、ありがたいって言うか・・・・・・」

 「えっ____?」

 「あ、あぁ・・・・今のは気にしないで。所で俺に何か用?」

 「____えっと・・・用って程の事じゃないんだけどね・・・っその、今どこにいるのかなって・・・ごめんね、変なこと聞いちゃって」

 「別に大丈夫だよ。それと俺は今、雲雀の家に来てもうすぐ帰るところかな?」

 「________っ!」

 

 それから数秒間の間、通話越しにも分かる音声で切峰さんの乱れた息遣いが聞こえていた。息切れでもなく、体調が悪いわけでもない、その呼吸の乱れは精神的な所からくるものに思えた。


 「切峰さん・・・切峰さん?」

 「____そう・・・なんだ。ありがとう、私の質問に答えてくれて。通話したのはそれを聞きたかっただけだから・・・じゃあ、切るね_______」

 「あっ、____ちょっ________」


 駆ける言葉も言い切らないまま、通信は切断され耳元には微かに彼女の声の残像が残っていた。立ち尽くした通路の中で俺は言葉に出来ない、気持ちの停滞を覚える。


 「____切峰さん、何かあったのかな?」


 不穏な空気と動機が立ち込める。脱力した右手に揺られる様に明かりのついたスマホの画面だけがしっかりと、その機能を果たしていた。


 (俺を心配していたのか?それとも、自分自身を?)

 

  全くと言っていいほど、そのどちらにも明確な理由が付けられなかった。そして通路に出た時、フワッと視界に飛び込んできたモノがあった。時折、窓から外を眺める様にして通話中も一定の距離を保つ様にしてそこにいた。

 黄金に輝く金髪を二つに結んだツインテール。それが歩行と共に揺れ、金の鱗粉をまき散らすかの様に錯覚する。そして、体を包んだ真っ白なワンピースがヒラヒラと生地を躍らせる。透けるような、その生地は少女の足首から太ももの半分までを、あざとく露出させ、特別で神聖な存在であるように思わされる。


 「私に何か用?」


 俺の視線に気づいた少女は振り返る様にこちらを向き、薄ピンク色の瞳で俺を見つめてきた。


 「あ、えっと・・・・御手洗いってどこかな・・・・・・・?」

 「あっちだけど」


 素っ気なく返された言葉と共に少女は通路の端の方を指さした。真っ直ぐに伸びた腕にぴったりと密着する、肘丈の黒い長手袋が照明に照らされ、黒光りを放つ。


 「あ・・・・ありがとう。その_____」

 「麗嘩れいかよ。私の名前は鶫谷 麗嘩」

 「____麗嘩。ありがとう、麗嘩さん。それと、俺の名前は名取 絵人かいと

 「名取 絵人。覚えておくわ」

 

 視線を合わさず、自身の顔に寄せた左手の指先を見つめながら、金色の少女はそう言った。話し終えた後、麗嘩という少女は再び窓の外を眺め始めていた。彼女が何を見ているかまでは分からなかったが、その瞳に映る景色が輝いていることを切に願う俺がいた。そんな、少女を横目に指先で示された方角へと歩みを始める。


 (不思議な人だな。何て言うか、妙な安心感があるって言うか。____以前にもどこかで?・・・・気のせいか)


 いつしか心音は落ち着き、少女の後ろを通る際に背後から一瞬だけ窓の外を見た。


 その時____


 ガシャンッ____!!


 窓ガラスの割れる音と通路に備え付けられていた花瓶が割れた。直後に聞こえた音が脳裏をよぎる。


 「____銃声っ!?どこから!?」


 辺りを見回すが犯人と思しき姿は見受けられず、視界には無数に散らばったガラス片と無造作に投げ出された花と花瓶から漏れた水が絨毯じゅうたんに染み込んでいた。


 「いたた・・・・・・今のは・・・うん?えっ____!?きゃっ____!!」

 「・・・?・・・??・・・???・・・あっ____!」


 咄嗟に動いていたのだろう。自己防衛と言うよりも、条件反射的護衛だろうか?俺の体は麗嘩の体を押し倒す形で彼女を得体のしれない危害から守っていた。幸いにも、麗嘩はおろか俺にさえ、ガラス片は飛び散っておらず瞬間的判断としては正しいことをしたと・・・・・・思っていた。


 「別に____それより、どいてもらえる?こんなとこを見られて困るのはあなたの方じゃないかしら?」

 「____うん」


 腰を上げず、俺は麗嘩と同じ目線になり彼女を再度見た。床に膝をつき軽く伸ばした足が白く透き通るその姿に見惚れていた。金と白のコントラストが似合う少女はすぐには立ち上がらなかった。


 「どこも怪我してない?」

 「えぇ」

 「それは良かった。それにしても、さっきのは一体何だったんだ?偶然じゃないよな?」

 「多分、銃弾ね。あんな遠距離から、この威力は恐らくスナイパーライフル」

 「銃弾?冗談だよね?確かに銃声みたいな音はしたけど・・・・・・」

 「これを見たらそうは言えないんじゃないかしら?」


 金髪の少女は人差し指と親指に黒と金の入り混じった弾丸を持っていた。


 「44口径のマグナム弾ね。比較的有名なやつよ」

 「____」


 何故?と思ってしまう俺に対して淡々と目に映る物の説明をする少女。この屋敷に来てから色々な事が起こり過ぎて思考回路は上手く回らず、耳で聞いた情報を脳が理解するのに時間がかかる。だが、それでも俺には一つだけ決定的な事実に気づいてしまっていた。それは____


 「その指、怪我してるじゃないか!?待ってて今、裏亜りあさんを呼んで来るから!」

 「あっ!それは____」


 ガチャッ____!


 その時、俺が出てきた部屋の扉が開いた。


 「何かあった、名取君!!銃声も聞こえたみたいだけど」

 「裏亜りあさん!その、麗嘩さんが怪我を____」

 「麗嘩____」


 ポタポタと左手の人差し指から赤い血を滴らせている少女を見るや否や、裏亜りあさんは声を荒げた。


 「麗嘩、動くな!!そののまま、そこに居ろっ____!!」

 「ひっ____!」


 顔面蒼白になり恐怖心を前面に出した麗嘩という少女。腹部を守る様に後ずさろうとするその姿は先程までの冷たい性格からは想像しがたかった。


 (・・・うん?何で、あんなこと・・・・・・さっきの衝撃でお腹でも打ったのかな?)


 怪我を負った少女に警戒しながら近づく裏亜りあさんとそれを遠くから見ていた雲雀と目が合う。


 「血が目に入ったら、色々と面倒だろ?声を怒鳴ってしまって悪かったな、麗嘩。今、有緋に救急箱を取らせ行ってるからもう少し我慢してくれ」


 優しい姉の微笑みで麗嘩の手を優し握るその光景はどこか暖かく、どこか眩しく見えてしまう。


 「名取君、驚かせてしまってすまない。今日はもう、帰っていいよ。玄関までは雲雀を付き添わせるよ」


 流石にポーカーの続きをする気分じゃなくなってしまったのか裏亜りあさんは暗い表情を無理やり笑顔に変え、俺にそう言った。確かに()()()()()()じゃないのは分かる。だが、その気分がどこを指しているのか____それだけが唯一の気がかりで、玄関に向かう際に一度だけ振り返った際に俺の瞳に映った、金髪の少女は身を守る様に自身の体を両腕でかばっていた。



 ________あぁ、そうだ 名取君。最後に一つ聞いてもいいかな?


 不意を突かれた。


 ________はい、いいですよ。


 意表を突かれた。


 ________君は《青眼のカラス》って知ってるかな?


 盲点を聞かれた。


 ________いえ、知りません。動物にはあまり詳しくはないので。


 刹那を感じた。


 ________そうか、ならいいんだ。


 ________何かあったんですか?


 ________近頃、うちの者が殺されてな。


 ________人が殺された。


 ________それも、一撃で蜘蛛の糸を絶つ様に。


 ________それって、本当に烏何ですか?


 ________あぁ、とても厄介な烏だよ。


 ________そうですか。


 そして、殺意を向けられた。



 ________私はそいつを許さない。何があっても見つけ出して必ず殺す。そう________





 ________弓よりも早い弾丸で。


 


 

 


 




 


 

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